宮城県知事浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

週刊コラム「走りながら考えた」

走るクマ
2001.7.16

 地方分権というと、理屈っぽく聞こえるし、県民生活には直接縁がないようにも思えるが、地域としての個性と誇りを取り戻す運動でもあるのだよというと、少しは興味を引き付けることができるのではないだろうか。

 「ないもの探し」ではなく、「あるもの探し」をしよう。あれもない、これもないと嘆くのではなく、この地域には他にないこんなものがある、あんなものもあると自慢をするところから、地域おこしは始まるはずだ。こういうことを、知事就任以来何度となく言ってきた。

 そんなことの延長線で、最近気になっているのが、「スローフード運動」である。世界中どこで食べても同じ味が同じような入れ物に入ってできてくる。それをゆっくり味わうのではなく、そそくさと詰めこんで一丁あがり。こういうのを「ファーストフード」と言うとするならば、「スローフード」は単にゆっくり食べるというだけではなく、その地ならではの食材を使って、その地に伝わる調理法で作られ、家族や仲間たちと談笑しながら食べる文化のことを言う。まさに、食べることは文化そのものであることを、スローフード運動は雄弁に語っている。

 イタリアが本拠地のこの運動の精神をわが宮城県でも生かしていきたいと思っている。そう思っていたら、すでに県内の宮崎町では2年前から「食の文化祭」を「スローフード運動」の精神で実施していることに気が付いた。11月の第1日曜日に、宮崎町の体育館に1500種類もの料理が並ぶ。地元で取れる食材を使った、おばあさんから伝わる料理や、自分たちのオリジナルの料理である。

 地元の食文化を次の世代につないでいく試みとも言えるが、それ自体地域の誇りを取り戻す運動でもある。ほかの地域との違いを際だたすことにつながる。文化とはそういったものではないだろうか。

 宮崎町にはコンビニと呼ばれるものが一つもないことに象徴されるように、現代的な視点からは便利でないところかもしれない。しかし、それを補って余りある文化がある。美しさがある。たくましさも感じられる。

 宮崎町だけでなく、スローフード運動を県内に広めていけないものだろうか。行政が主体になってやるようなものかどうかは別として、「食から地域の誇りを取り戻す」という運動は魅力がある。県内に数多くできている農家レストランを、もっと売り込めないだろうか。切り口はいくつもあるような気がする。

 「スローフードのすすめ」という、実に面白い本の著者である島村菜津さんと対談の機会があった。宮城県でやろうとしている試みに、島村さんは興味を示しているだけでなく、協力も得られそうである。「スローフード」という名称にはこだわらない。押せば何かとんでもなく面白そうなものが飛び出してきそうな気がする。

 

過去のコラムはこちら
 2001年7月9日分
 2001年7月2日分
 2001年6月24日分



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