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月刊ガバナンス平成18年1月号
アサノ・ネクストから 第1

三位一体改革の「決着」

 三位一体改革の今回の攻防が終わった。 3兆円の税源委譲のうち、残された6000億円分をどうするかが、今回の攻防の内容であった。金額の帳尻合わせはできた。児童扶養手当、児童手当の国庫負担率の引下げで合計3400億円、義務教育国庫負担金の負担率を2分の1から3分の1への引下げで、8500億円を生み出した。

 「単なる負担率の引下げは、地方の裁量の拡大にはつながらず、認められない」という主張を地方側では早くから明確にしていた。にもかかわらず、今回、負担率の引下げを案の中に含めてしまったのは、なんとも承服しがたい。補助金を削ればいいのではない。補助金づきの事業を補助金ごと廃止することが必要なのである。負担率、補助率を下げても、国の関わりは残るので、補助金の使い勝手の問題は残る。補助金の本質である縦割りの弊害、「あれかこれか」の判断ができないこと、この解決なしには、問題は積み残しになる。

 看過されてならないのは、負担率の引下げの奇策によって、地方側として廃止を要請していた補助金が、軒並み廃止を免れたことである。04年、国民健康保険に都道府県の財政調整交付金が突然設けられて、その分の7000億円が税源委譲になった。この「奇襲作戦」により、各省の廃止対象補助金をほとんど温存できた。今回は、その二番煎じである。

 三位一体改革の原点が忘れられていると言わざるを得ない。目的は地方財政の自立である。納税者の立場から言えば、自分が税金を払う自治体のお金の使い方に、国の補助金が介在することなしに、直接に物申せるシステムを作るということである。今回の政府案では、改革の目標としてのこういった点が、ほぼ完全に看過されている。

 霞が関の各省が改革の原点を共有したことは、一度もない。地方側が何やら騒いでいる、小泉首相も同調しているらしい。だから、何かカッコつけなければならないとの認識はあるが、心から納得、同調してのことではない。こういう背景の下では、各省としては、数字合わせ、辻褄合わせ、その場しのぎ以外の行動を取れるはずがない。

 各省が、自分たちの「飯のたね」と考えている補助金を保持していることからくる権限を、自分から手放すと期待するほうが無理。期待できるのは、小泉首相の指導力ということになる。今回の「決着」について、小泉首相が「地方側の意見も尊重されてよかった」といったコメントを出している。税源移譲額3兆円のうち、国庫負担率の引下げプラス04年の国民健康保険7000億円で、税源委譲額全体の約6割である。こういった形での決着が、「地方の意見が尊重された」と言えるはずがない。全く的外れな評価であることは、明らかである。

 さて、これからどうするか。この「決着」でほっとしている霞が関であるが、そうはいかない。地方側として、再度戦線を立て直して、第二期の改革に全力を挙げていかなければ、これまで努力してきた甲斐がない。私としても、知事の役職は離れたが、新しい立場から、このことを強く訴え、行動していきたいと思う。


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