浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成19年1月号
アサノ・ネクストから 第13

談合と「選挙」

 地方自治体における不祥事、特に、知事にまつわる事件が続いている。事件として大きいのが、談合に関わるものである。キーワードとなるのは、「選挙」、「側近」、「発注者側の談合への姿勢」の3点という気がする。

 選挙は、すべての出発点である。これは、13年前の出直し知事選挙を経験した私の実感である。

 知事になってすぐの頃、前任者の知事が、なぜゼネコン汚職で逮捕されることになったのかを改めて考えた。本人の倫理観、正義感という個人的な事情もあっただろうが、むしろ、宮城県政という土壌に咲いた仇花であったのではないか。だとすれば、この土壌改良をしなければ、私も仇花として摘み取られてしまう。これは、正義感というよりは、恐怖感である。こういった土壌は、選挙の際の貸し借りといった関係の中から作られていく。そんなことにも考えが及んだ。

 逆に、いい選挙をすれば、いい知事になれる。二期目を目指しての選挙で、「県民一人ひとりが主役の選挙」を掲げて、政党の推薦だけでなく、団体の推薦も受けないことにした。企業・団体からの寄付は一切受けずに、百円カンパで選挙費用を賄ったのも、この図式を貫くためであった。

  つまり、良くも悪くも、選挙をどう戦うのかの図式が、その後の知事としての任期のありようを決定づけるという確信を持つに至った。選挙は終われば、敵よりも味方が怖い。選挙で個人的な借りを作ってはならないといった自制自戒は、私自身関わった選挙での経験からのものである。

 私の役人時代の福祉の「戦友」であった田島良昭氏は、私が知事になった後、「側近」として稀有な存在であった。知事たる私は理想を掲げる。実際に「おこぼれ頂戴」、「一緒にやろうよ」という輩を蹴散らす役目は田島氏が担った。談合の仕切り役、汚れ役ではなく、嫌われ役、撥ね付け役である。

 「談合許すまじ」という知事の方針は、自分だけのものでは十分ではない。側近である親戚、県庁の幹部、後援会(私には後援会はなかった)の幹部は、「天の声」を発する人材探しをする業界の標的にされるのだから、彼らには知事の姿勢、方針を誤解の余地なく明確に伝えておかなければならない。

 談合を必要悪程度にしか考えていないのは、業界としては仕方がない面はあるが、発注者である県庁組織までもが同じような考え方であっては、話にならない。談合は明らかな犯罪である。納税者という被害者もいる。そういった厳しい姿勢を保ちながら、入札契約制度の見直しにあたれば、一般競争入札を原則とするといった方針は、事務当局のほうからすぐに出てくる。

 二度と再び、知事が関与するような、談合をめぐる不祥事が起きないようにするための処方箋は以上である。一つだけに絞れと言われれば、やはり、すべての出発点である選挙をきっちりやること。「選挙には金がかかるもんだ」、「知事と議会の関係はこういうもんだ」、「業界の力は借りるもんだ」といった「モンダの人々」の言説に惑わされないようにということも、急いで付け加えたい。


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