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月刊ガバナンス平成19年2月号
アサノ・ネクストから 第14

改革派知事の退任

 片山義博鳥取県知事が、3選不出馬を表明した。その直後に私にも取材が複数あり、「地方分権を進める論客を知事会が失うのは残念」とコメントした。少し前には、増田寛哉岩手県知事も、4選出馬せずを表明したところであり、「改革派知事」が相次いで知事の座を去るという状況になった。

 二人の知事は、知事会を舞台にした活躍だけでなく、県政改革でも手腕を発揮し実績を挙げてきた。若さも武器の一つだが、もう一つ、勇気もある。県庁の文化を変えるほどの庁内改革を実践した。県議会の議論でもガチンコ勝負である。情報公開を徹底したことも共通している。なによりも、既存の勢力に過度に気を遣うことをせず、タブーを恐れずということがすごい。こういったことが、「改革派」と呼ばれるゆえんであった。

 こういった改革ができたのは、二人の知事の資質、性格に負うところもあったが、なによりも選挙での選ばれ方がもたらしたものと私は考えている。直前の知事選挙で、どこにも誰にも借りを作っていない。片山知事の場合は、知事選挙では極めて珍しい無投票選挙だったから、借りの作りようがない。増田知事の選挙では、県民に直接問いかける形のものになり、県民全体に支援されて選ばれたという結果が彼に勇気を与えたのだろう。

 前回のこの欄では、知事が関わる官製談合の裏に、選挙の図式ありと書いた。良くも悪くも、選挙のありようが、知事の任期のありようを決めるとも述べた。いい知事になるためには、いい選挙をすることが不可欠である。改革派になるためには、まず、選挙の改革から始めなければならない。二人の知事は、その良き実例である。

 二人の知事は、多選の弊害を退任の理由に挙げた。多選になっても最も弊害とは遠いだろう二人の言葉だからこそ重みがある。腐敗というよりは、県政の陳腐化を心配していることも共通である。知事のありようもさることながら、県庁組織のありようを懸念している。

 知事の任期が長くなれば、組織は知事に任せきり、頼りきりに向うことは免れない。能力の高い知事だからこそ、そう思ってしまうというのは、なにやら皮肉なことにも思えるが、このことこそ、高い見識の表れである。

 知事の多選禁止措置をとるべきかどうかについては、確かに慎重であるべきだろう。有権者は知事を辞めさせる力を持っているのだから、有権者に任せればいいというのも正論に思える。だからこそ、有権者たる県民は知事選挙にもっと関心を寄せるべきであると力説したくなる。知事候補の政策や人となりを見るだけでなく、選挙の図式もしっかりと見定めて選ぶのでなければならない。

 改革派の二人が知事を退任して、これからどうするか。もちろん、それぞれが決めることではあるが、地方分権を進める戦線からは離脱しないで欲しいと願っている。4年前に2期8年で三重県知事を退任した北川正恭早稲田大学大学院教授、そして不肖浅野史郎も満を持して待っている。同じ戦線で再びスクラムを組む日も近いのではないだろうか。


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