浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成19年6月号
アサノ・ネクストから 第16

再開の弁

 しばし休載していた「アサノ・ネクスト」の再開である。休載の理由は、私が先ごろの東京都知事選挙に立候補したから。結果は落選。それで元の生活に戻った。元の連載も、かくして再開という次第である。

 敗軍の将、兵を語らず。負け犬の遠吠えに聞こえても困るので、都知事選については、書きたくないのが正直なところ。しかし、再開第一回である。最低限のことは書かねばならない。

  敗因は、こういう場合の常套句のようだが、私の不徳のいたすところである。

 私に選挙戦についての確かな戦略があれば、私が候補者としてもっと強いイメージを出せたら、都政運営の私のビジョンをもっと明確に魅力的に提示できていれば、という反省がある。つまりは、私の力不足ということである。もっと力があったら、力を発揮できていたら、結果は違っていただろうということで、責めはすべて私に帰される。

  だからこそ、169万票を投じてくれた都民の方々の期待に応えられなかった悔いが残る。「申し訳ない」の一言である。「石原都政が続くことは耐えられない」、「なんとしても石原知事続投を阻止して欲しい」という悲痛な声は確かに私に届いた。現実は、都民の多くは、そんな悲痛な思いを共有していなかったのであるが、その現実を乗り越えられなかった私の力量不足を認識する結果となってしまった。

  今回の選挙で失ったものは少なくない。一方で、厳しい選挙に身を投じたことで得たものも、確かにある。私にとっての、収支バランスのようなものが、本当に見えてくるまでには、もう少し時間がかかるだろう。それまでは、あわてず、騒がず、心静かに身を処していくことが最善とも考えている。

  とはいえ、閉じこもって、何もしないということにはならない。「アサノ・ネクスト」は、実は、これまでどおりである。慶應大学総合政策学部での教育・研究が中心になる。「政策協働論」の今学期二回目の授業では「選挙について」を取り上げて、「都知事選挙での浅野候補の敗因分析」も扱ったが、本人としては心穏やかではない。それでも、学生諸君にはぜひとも伝えなければならないことと思い定めて、淡々と論を進めた。

  マスコミ登場も再開した。東国原宮崎県知事について取材を受けることが多いのも、都知事選挙前と同様である。「東国原現象」とでも呼ぶべき、マスコミでのフィーバーぶりは、就任から相当の時間を経ても収まらない。これについては、いずれ書いてみたい。

  福祉と地方自治を中心にした講演活動も、今までどおりに展開している。「先ごろの東京都知事選挙で落選した浅野さん」と紹介されるのは、歓迎すべきなのかどうか迷いながらも、講演を依頼されることはありがたいことである。

  ということで、「アサノ・ネクスト」において、地方自治への関わりは、これからも続いていく。「一人称で語る政治学」も続けていくが、今回の落選の経験が、その際の洞察にさらに深みを与えてくれる契機となってくれればと思わないこともない。


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