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月刊ガバナンス平成19年10月号
アサノ・ネクストから 第20

増田総務大臣への期待

 東国原英夫宮崎県知事の誕生で、県知事の存在が今まで以上に注目されることになった。今度は、増田寛也前岩手県知事が安倍改造内閣の総務大臣に抜擢されて、知事という経歴がさらに脚光を浴びることになった。

 総務大臣であることに、大きな意味がある。私が宮城県知事であった時に、増田岩手県知事などと、地方分権の推進のために力を尽くした。三位一体改革は、地方財政自立のための改革である。そういった方向になるように、全国知事会は政府相手に闘ったが、そのスクラムの中心に増田さんがいた。

 三位一体改革の第一幕は、羊頭狗肉に近い茶番劇で終わったが、第二幕はきっちりと演じ終えなければならない。そんな大事な時期での増田総務大臣の登場は、願ってもない。 地方は格差の是正といった単純なことを欲しているのではない。欲しいのは、自治体運営をしていく際の裁量であり、自由である。その自由の中には、失敗する自由も含まれるのだが、だからこそ、各自治体は失敗しないように努力をすることになる。格差を是正するために、国の支援が必要ということで、物欲しげに手を出すだけでは、自治体としての自治がまさに問われる。

  増田さんは、こういったことをしっかりと理解し、自治体の長として実績を上げてきた。その増田さんが政府側の責任者として、地方分権に取り組むことになる。同じく地方側に身を置いて政府と闘ってきた私としては、期待が大きくふくらむ思いである。

  いくつかの懸念材料はある。非議員としての入閣であるから、国会議員、特に与党内に増田総務大臣を支援する体制が整っていない。三位一体改革の実現のためには、最終的には法案の形で決着がつけられるのであるから、国会議員の抵抗をどう抑えるかが大事な関門になる。

  その前に、政府内での合意をどうとりつけるか。三位一体改革の第一幕においては、さまざまな局面において、補助金を持っている各省のあからさまな抵抗があって、当時の小泉純一郎首相にあっても、大きな妥協を強いられた。補助金の大幅廃止、税源の移譲という荒業を実現するためには、各省の反対・抵抗を押し切っていく、総理大臣の信念と実行力に根ざした指導力が絶対に必要である。総務大臣だけががんばっても、無理な改革であることを認識しなければならない。

  総務大臣は地方分権だけを所掌しているわけではない。郵政民営化の実現、放送関係の調整、行政管理といった、目の前の課題山積である。大臣一人でやれることには、ある程度の限界がある。これも懸念材料の一つである。

  そして、安倍内閣の命運に不安があること。参議院での与野党逆転の中で、内閣としてどれだけの突破力を発揮できるか。なによりも、内閣自体の寿命が長くはないのではないかと見られているのが、なんとも気にかかる。

  このような困難はあるが、地方側にとしては、願ってもない好機である。地方分権の大きな一歩を記してもらいたい。その期待は高まっている。増田総務大臣の活躍を心から祈りつつの原稿になった。


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