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月刊ガバナンス平成19年12月号
アサノ・ネクストから 第22

守屋前事務次官問題が示すもの

 守屋武昌防衛省前事務次官の接待ゴルフ疑惑の報道を見て、まず湧き上がってくる気持ちは、怒りである。国家公務員として、なんたることをしてくれるのかという怒りもあるが、納税者の立場から見た怒りである。

  防衛省で調達する武器のたぐいは、年間一兆円を超える。随意契約が多い。正当に競争入札にかけられていれば、一、二割は低い価格で購入できたのではないか。となると、余計に使われた税金は、何千億円単位となる。一人の納税者の立場で、自分の払った税金が無駄遣いされていることに、心からの怒りを感じる。

  ゴルフ接待が、00年の自衛隊倫理規定施行後も続いていたことは、看過できない。しかも、事務方のトップの倫理規定違反である。トップがこうなら、防衛省の組織全体が倫理規定なるものは守らなくていいと考えるのは、当然だろう。同じように関連業者から接待を受けていた防衛省職員がいたのかどうか、厳しく洗い出されなければならない。

  過剰接待がたった一人なら、個人の問題だが、省ぐるみならば、組織としての文化の問題になる。国の防衛、安全保障を司る役所が、業者からの接待に甘い体質を露呈しているのは、由々しき事態である。文化の問題であるなら、根底からの反省と改革が必要になる。そういった種類の事件である。

  守屋前事務次官は、防衛省を一流官庁にするのが悲願だったという記事を読んだ。一流官庁なら接待を受ける質も量も格段に上がる。そういう立場を望んでいたとしたら、その面では既にして防衛省は一流官庁になったという実感をもって、守屋氏は接待を受けていたのだろうか。深読みと批判されるかもしれないが、そうだとするとなんとも世俗的な悲願だった。

  「防衛省というのは、そんなに暇な官庁なのか」と論評した与党の政治家がいたが、そのとおりである。自分の仕事にやりがいと喜びを感じていれば、業者に癒着接待を受ける心の隙はできるはずがない。小人閑居して不善をなすというのに近い。防衛省のトップにまで上り詰めた人間が、防衛という仕事に携わることに百パーセントの魅力を感じていないとすれば、国家的な危機である。こういう人をトップにまでしてしまうという組織の問題は、言うまでもない。

  防衛、外交、警察という分野は、秘密が多いところである。情報公開ということでは、さまざまな形で例外が許される。国民感情としても、それを認めるところがある。それに乗じて、「どうせばれないのだから」という風潮が組織内に蔓延していた結果として、さまざまな不祥事が発生した例も少なくない。今回の守屋前事務次官の例がそれにあたるかどうかは、はっきりしないが、だからこそ、こういった官庁で仕事をする職員全員が、ことさらに襟を正さなければならないということは言える。

  今回の事例は、政府全体としてのマネジメントに関わる。綱紀粛正などより重い課題が見過ごされてきた結果である。長期政権ゆえのゆるみでないと、誰が言えるか。その意味で政権の行方にも関わる大問題であることを、関係者すべて、そして国民全体もしっかり見据えて対処すべきものである。


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