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月刊ガバナンス平成20年3月号
アサノ・ネクストから 第25

道路特定財源の暫定税率論議

 道路特定財源の暫定税率の問題が国会で審議中である。暫定税率うんぬん以前に、道路特定財源の問題は、地方分権に直接からんでくる。「道路は今後とも必要か」といった次元ではなく、税金の使い方、国と地方との関係といった視点から論じることが必要である。

 全国知事会など地方自治体は、こぞって「暫定税率維持」の声をあげている。地方分権という観点からは、いかがなものだろうか。しかし、その一方で、知事経験者としては、知事たちのこういった行動の理由は、よくわかる。 知事をしていて受ける陳情・要望の大半は、道路関係である。道路の新設・改修だけでなく、高速道路の建設を国に要望してくださいという要望もある。政治家たる知事として、こういう要望に応えようとするのは当然である。道路が必要という実感もある。

 さらに、知事として実感するのは、国土交通省の威光である。高速道路や国道、どの路線を優先的に整備するかを決定するのは、国土交通省であると認識している。知事とすれば、国土交通省に嫌われたくない、逆に、「愛い奴じゃ」と言われたい。こぞって、国土交通省の意を迎えようとする発言や行動をするのは、政治家としての合理的判断である。「暫定税率廃止」とか、「道路特定財源の一般財源化拡大」などと言って、国土交通省ににらまれるリスクを犯す首長が多数いるとは思えない。

 住民にとって、道路には切実な思いがある。飢餓感と表現してもいい。同じ公共事業でも、ダムや港湾などと違って、目の前にあり、日常的に使うものである。道路こそ地域発展そのものと思えてくる。飢餓状態ではなくて、飢餓感であるから、どこまで食べても食欲が満たされないということもある。一口食べたら、さらに飢餓感を感じる。道路の場合、供給が新たな需要を喚起するというのが、これに似ている。

 「道路は必要」というが、他の公共事業と比べての優先順位はどうか。公共事業とだけでなく、福祉、教育、医療、産業振興といった事業と比べてどれだけ優先すべきか。同じ道路でも、A道路とB道路、優先順位は違うはずである。 それよりも、なによりも、ここでいう優先順位を誰が決定するのかが、本質的な問題である。

  道路特定財源として集められたお金の配分として、国土交通省が決めるルールと、地方自治体が決めるルールとでは、大きく意味合いが違う。いろいろある財政支出項目の中で、その地域の事情と他の支出項目との比較をした上で、道路予算にはどの程度配分し、どの道路を優先して建設するかも自治体が決定するのが基本である。こういった地方自治体が独自に決める範囲を格段に広げることこそが、重要である。誰に決定権があるのかのルールを変える、これが地方分権の意義であり、道路建設についてだけは分権はいらないと言うことにならないだろう。

 国論を二分するような大議論である。私とすれば、「暫定」税率なるものを十年間も延長するのはとんでもないということが第一。そして、段階的にでも一般財源化を進めること。これが、与野党が一致できて、国民にも理解される最大公約数と考える。


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