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月刊ガバナンス平成21年2月号
アサノ・ネクストから 第36

「出先機関の見直し」

 地方分権改革推進委員会は、昨年12月8日、第2次勧告を取りまとめた。「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」と、「国の出先機関の見直しと地方の役割の拡大」の二つの柱である。

 前者は、自治事務のやり方に関する地道でまっとうな見直しの方向であり、なんとか実現を図って欲しい。これによって、自治体の条例制定権が広がることになり、その成果としては、地方議会の役割が大きくなることが見込まれる。

 後者の国の出先機関の見直しのほうは、すんなりとはいかない。同日に発表された全国知事会のコメントでも、地方分権の方向性が明確に示されていないという不満が示されている。具体的には、出先機関の所掌事務を、都道府県にもっと移譲せよということと、新たに設置される地方振興局と地方工務局は、国の出先機関としてあまりにも強大になることへの恐れを表明している。

 地方側から見れば、「まだまだ不十分」と評価される勧告内容であるが、霞ヶ関のみならず自民党の有力議員からは、総スカンに近い反対の声が聞こえてくる。廃止も含めて組織をバラバラにされ、3万5000人もの定員を失うことになるのだから、霞ヶ関各省にとっては、自分たちの手足がもぎ取られるようなものである。反対の声が上がるのは、あたりまえ。三位一体改革の時と同様である。これを首相のリーダーシップで、どう実効性あらしめるか、それが問われているが、麻生首相の下では、どれだけ期待できるか。

 第2次勧告では、出先機関の組織をどうする、人員をどう削るという議論が前面に出ていることに、私としては違和感を覚える。国と地方との二重行政になっているかどうかだけでなく、公共事業をはじめとする施策そのものが、必要なのかどうかの吟味が先だろう。自分が知事をしていた時に感じたことだが、国の直轄事業は、その事業の必要性ではなくて、出先機関の組織を温存するために、やられているという面がある。二重行政の無駄でなくて、その事業そのものの絶対的無駄をどうするかの観点が見逃せない。

 実はこの論点は、天下りの問題と共通している。天下りについて批判されるべきは、天下り受け入れ組織で無駄な人件費が使われていないかではなくて、その組織を食べさせていく目的で、無駄な仕事が作り出されていないかということである。組織のために仕事を作り出すというのは、人件費以上に大いなる無駄である。天下りにも、国の出先機関にも、こういった同じ病理がある。

 国の事業の地方移管に関し、国道、一級河川の管理の都道府県への移譲の調整が進んでいないことも気になる。一級河川にいたっては、53水系のうち、40%は都道府県に移管するという第一次勧告があるのに、移管が合意されたのは6水系にとどまっている。事業そのものの国から地方への移管が進まず、国の事業として多くのものが出先機関に残されるとすれば、統合される地方工務局、地方振興局の組織は膨大なものになってしまうのは当然である。

 出先機関の見直しと並行して、事業移管を積極的に進めることこそ、まっとうな議論への道である。


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