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月刊ガバナンス平成21年4月号
アサノ・ネクストから 第38

「直轄事業負担金」

 国の公共事業に関する直轄事業負担金のありかたが論議されている。地方は、国の求めるままに、負担金を払うことを当然と受け止めていいのかどうか、具体的な動きが出始めた。

  恥ずかしいことだが、直轄事業負担金なるものの存在を、私は宮城県知事に就任するまで知らなかった。1993年11月に知事に就任した直後、議会提出案件について、庁内で事前説明を受けている際に、「直轄負担金」の用語が出てきた。案件は、福島県との県境のダム建設。国の事業予算の見込みが大幅に増額し、その結果、宮城県が負担すべき直轄事業負担金も増額された。その増額分の予算化を県議会に承認してもらう必要があるということであった。

 「なんで、そんなものを県議会にかけるのか。そもそも、なんでそんなもの払わないといけないのか」というのが、その時の私の率直な感想だった。道路と違って、県民の関心も高くなく、私にとっても、このダムの建設のことは、初めて知らされたということも、違和感の要因である。しかも、当初計画の2倍近くという大幅増額である。衝撃度は大きかった。

 新幹線の建設費用の増額について、直轄負担金をそのまま払うことに、新潟県の泉田知事が難色を示した。九州新幹線についても、関係知事たちの口から語られた。大阪府の橋下徹知事は、平成21年度予算に、直轄事業負担金の相当部分を計上せず、霞ヶ関と全面対決の姿勢を示した。金子国土交通大臣は、全国知事会との協議を提案する状況に追い込まれた。

 新幹線建設については、増額が問題である。単に「コストが上がった」というだけで、この財政難の時代に、「ハイ、わかりました」とはならないだろう。15年前のダム建設の場合でも、国は、最初の見積りを故意に低くして始めたのではないかとの疑いが、私の頭をかすめたのは事実である。工事の際の入札価格に関しては、地方のほうが入札制度の厳格な運用で談合排除をしている。ダム建設となると、関わる業者の数が限られることから、談合排除は、特にむずかしい。建設コストについては、国との比較で、どうしても、こういったことを考えてしまう。

 大阪府では、府の実施する公共事業をギリギリまで削った。一方、国の直轄事業のほうは、今までどおりの規模で実施され、府の負担金の多さが目立ってしまう。「いい加減にしろ」というのが、橋下知事の本音だろう。

 地方財政法の規定があるから、地方側が負担金を払わないという実力行使には限度がある。しかし、地方側の問題提起は、とてもわかりやすい。事業の実施を国が決め、増額で自動的に「請求書」の額を上げ、入札方法も含めた工事のやり方も国の作法でというのを今までどおりに続けることは許されないことも確かである。地方の財政状況が厳しいということが、地方の「反乱」の直接的な契機になっているが、それだけではない。

 直轄事業負担金の廃止という数十年来の地方の悲願が、実現に大きく近づいた。最低限でも、国の勝手な事業実施は、即刻改めてもらう。そんな意気込みで、全国知事会をはじめとする地方側には、ぜひともがんばってもらいたい。


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