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月刊ガバナンス平成18年4月号
アサノ・ネクストから 第4

企業の社会的責任

 アサノのネクストの仕事に一つに、社団法人日本フィランソロピー協会での会長職というのがある。先日、この団体の主催で、企業フィランソロピー大賞の贈呈式があった。大賞には、『通販生活』(有料で百万部以上)で有名な(株)カタログハウスが選ばれた。「ビジネス満足」と「地球満足」を両立させるモデルを要約した「商品憲法」には、自然破壊的要素を持つ商品は売らない、長持ち商品だけを売る、修理し、再使用し、再資源化することを定めている。

 チェルノブイリ救済キャンペーン、環境セミナー、「もったいない課」、「エコひいき事業部」の設立、「地球の取扱説明書」の顧客配布、3年間無料修理、商品の鉄道輸送導入、非石油系溶剤原料の印刷インクの開発、市民風車事業といった事業を並べただけで、企業の姿勢がわかる。「商品憲法」の第1条「できるだけ、地球と生物に迷惑をかけない商品を販売する」の細則としては、「ダイオキシンを発生させやすい商品は売らない」「熱帯雨林を破壊させる商品は売らない」「河川汚染を促進する商品は売らない」「野生動物の皮革、毛皮を使った商品は売らない」といった項目が続いている。「できるだけ」というフレーズも、正直で好感が持てる。商品を提供するメーカーにも、同じような要求をする徹底ぶりである。

 一つの企業の宣伝ではない。企業は利益さえ上げればいいのか、21世紀に存続を許される企業とはどんなものか。こういったことを考える契機になるという意味で紹介している。商品への信頼性はもちろん、商品販売、企業活動を通じて、環境保全、平和貢献、災害支援といった社会貢献を消費者とともに考え、実践していく企業こそが持続可能であり、その反対の行動様式の企業は、いずれは消費者から見放される運命にあることを忘れてはならない。

 ライブドアはともかく、東横インの企業モラルの低さは、企業の社会的責任の対極にある。身障者用の客室や駐車場を工事完了検査後に撤去し、会議室やロビーなどに改造していた。ばれなければいい、ばれても軽い処分で済むと考えていたのだろうか。「身障者用の客室は年間一人、二人しか利用がない。正面に駐車場があるとホテルとしての見てくれが悪くなる」という社長の弁明は火に油を注ぐ結果となった。

 企業の社会貢献は、消費者にとっても、そこで働く社員にとっても、好ましい社風を作る。社風は帳簿には出てこないが、企業の大事な資産である。企業活動を通じて社会貢献をしている企業の社員は、そこで働くことに給料以上の満足感を覚えるはずである。長い目で見れば、企業にとってどれだけの効果となって返ってくることか。

 「企業」を「自治体」に置き換えても同じ。組織として嘘を吐く、苦しい弁明をする、隠し事をする自治体の構成員が、自分の組織と自分の仕事に誇りを持つことができるだろうか。誇りを持たない職員は、いい仕事をすることができるだろうか。前回書いた、警察組織のことを思い浮かべたら、どういうことになるだろうか。自分の組織に誇りを持てない職員を抱えた組織にネクストはない。


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