浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成22年10月号
続アサノ・ネクストから 第1

地域主権改革の担い手

 2009年7月号に執筆して以来、1年3ヶ月休んで、今回再登場である。昨年5月末に、ATL(成人T細胞白血病)を発症した。6月から入院治療に入り、今年の2月に退院して、以後自宅療養を続けている。免疫力が完全には回復していないので、人ごみに出るなどの活動は制限されているが、ものを書くことは制限されていない。

 その再開第一弾は、地域主権改革について。「地域主権の実現は、改革の一丁目一番地」と宣言していた民主党が、政権についたので、どれだけ改革が進むのか、病床にあっても大いに期待していた。6月には「地域主権戦略大綱」が発表された。まだまだ不足している部分はあるし、具体性に欠けるところもあるが、そこそこ立派なものである。

 方向は示された。しかし、ここにきて強く思うのは、どうやって具体的に改革を実現していくかということである。

 地域主権の実現という壮大なプロジェクトが完成する最終局面では、何百本もの法律の策定・改正が必要になる。誰がその原案を作るのか。制度の内容をどうするかについて、利害の対立は激しくなるが、誰がその調整を行うのか。その担ぎ役を、今のうちから、決めておかなければ、プロジェクトは完成しない。

 「政治主導」ということで、政治家の皆さんが、こういったことをすべてやるのは、現実性がない。改革の中身は、法律の一つ一つの条文という形で具体化していかなければならないのだが、法技術的に極めて複雑で難しい作業になる。結局は、官僚の力を借りなければならない。その場合、どこの省の役人がその仕事を引き受けることになるのか。地方側の考え方を生かすためには、「法律改正プロジェクト・チーム」に地方側の役人も含めなければならない。

 担ぎ手がいかに大事かに思い至ったのは、介護保険制度の導入の経過を振り返る機会があったからである。日本の介護のあり方を根源的に変革する画期的制度を確立したのは、厚生労働省の担当者の昼夜をわかたぬ努力の結果である。改革の担ぎ手は明確であった。理念を共有し、志を高く持ち、努力を惜しまず、チームワークで何年にもわたって活動を継続した結果、やっとのことで介護保険制度はできた。その経過を活写した「物語介護保険(上)(下)」(大熊由紀子著、岩波書店)を読んで、そのことを再確認した。

 地域主権の確立は、介護保険制度の導入をはるかに上回る規模の一大改革である。利害の対立、考え方の違いも、介護保険制度導入の比ではない。改革を具体化するという使命を帯びた担い手は、チームとして、しっかりまとまり、継続的に仕事をしなければならない。チームの一人ひとりのメンバーは、地域主権実現のための高い志を持った優秀な人材であることが求められる。総理大臣直属の組織として、設置することになるだろう。

 今だって、そういったチームはあると言われるだろうが、中身が大事。私の言う理想のチームが設置されるまでは、今の政権が地域主権を実現しようという本気度に疑問を呈さざるを得ない。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org