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月刊ガバナンス平成23年10月号
続アサノ・ネクストから 第13

野田政権に期待する

 野田新政権が発足した。野田首相が、みずから「どじょう」というほどだから、泥臭く、地味である。それで丁度いい。

 先立つ二つの政権が犯した過ちを繰り返してはならない。改めて、菅直人政権、鳩山由紀夫政権のどこがいけなかったのか、論じておきたい。

 「政治主導」の理念先行で、実態が伴わなかった。それが官僚組織に無力感と反発をもたらした。特に、大震災の復興対策については、「今こそ、働き時」と待ち構えていた官僚が、「復興構想会議」の立ち上げや、政府参与の大量採用により、「自分たちは頼りにされていない」と、やる気を殺がれてしまった。次々に新しい組織が立ち上がり、官僚は、それらの関係者への説明に追われて、本来の仕事が手につかなくなった。誰の指示を受ければいいのか、大混乱に陥ってしまった。野田新政権には、官僚組織を上手に使いこなすことを望みたい。

 党内運営については、政策論議を活発にし、時間と手間隙をかけて意見の集約を図って欲しい。首相が信念をもって進める政策は、党内に反対意見があっても、「これは自分の信念だ。実現のために、全力で努力し、結果の責任は自分がとる」と説得するのが、首相のリーダーシップである。

 党内の一致団結をとりつければ、野党との調整も、自信をもって立ち向かえる。前の政権では、党内の意見がまとまらないうちに野党にぶつけるから、うまくいかなかった。国民との関係も同様である。菅首相の「脱原発依存方針」のように、党内、閣内の議論もなしに、考えを発表してしまう「思いつき発言」、鳩山首相の「普天間基地の移転は県外に」というできもしないことの「放言」、こういったことが、政権運営にどれだけの混乱をもたらしたか。

 最後に、大連立の方針は、引っ込めたほうがいい。ねじれ国会ゆえに、参議院で法案を通すためには、大連立しかないと、野田首相は思い詰めているのかもしれない。通るか通らないか、まずは、やってみてからのことである。いろいろ可能性を探った結果、「大連立しかない」となってから、持ち出すことはありうる。2年前の衆議院選挙において、国民の多数が、「政権交代」に期待し、共鳴した結果として、民主党政権がある。大連立を組むことは、その際の国民の思いを裏切ることである。

 野党の反対で法案が通らない事態は、正攻法で乗り越えなければならない。野党との徹底した議論こそが必要である。妥協したり、協調したり、政治的駆け引きがあってもよい。その議論の中身と駆け引きのありようを、国民に対して示しつつ行う。そうすれば、野党が党利党略で闇雲に反対しているのか、正論どうしの論戦なのか、国民の目にも明らかになる。こういった局面に限らないが、国民の目を意識した政権運営こそが、成功につながる王道である。

 ここで野田政権が失敗すれば、政党政治への絶望感は頂点に達するだろう。野田政権がうまくいくかどうかは、そのぐらいの意味がある。その使命感、緊張感をもって難局に対処してもらいたい。国民が野田政権に期待するのは、それ以上でも、それ以下でもない。


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