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月刊ガバナンス平成24年5月号
続アサノ・ネクストから 第20

国家公務員受難の時代

 国家公務員の定員削減、給与の大幅削減が打ち出され、今は公務員受難時代である。財政再建の大義名分のもと、既得権の削減は、国家公務員として受忍しなければならない。削減をどう実現していくか。公務員のやる気をなくさないやり方が求められる。

 定員削減は必要である。霞ヶ関には、やらなくてもいい余計な仕事がたくさんある。地方出先機関はそれ以上である。有害とまでは言わないが、不要な組織がある。定員を一律に何%削るというやり方ではなく、仕事の中身まで踏み込んで、有用な仕事は残し、不要な仕事、組織、人員を削るという、具体的な積み上げ作業が求められる。今ある組織を前提とせず、仕事の必要性の観点からゼロベースで見直す。そうしたまじめな見直しは、いまだかつて霞ヶ関ではやられたことがない。今こそ、真剣に取り組むべき時である。

 定員削減に伴って、新規採用を大幅に減らすという方針が示されているが、これは安易過ぎるやり方である。各省が大反対というのは、省益だけで言っているのではない。私が教えている大学でも、世のため、人のために働きたいとして、国家公務員を目指す優秀で、前向き指向の学生が大勢いる。そういった中で、新規採用の門戸を狭くするのは、わが国の健全な発展のためにも、決していいことではない。若い人材が供給されない組織が、活気を失ってしまうことの損失については、改めて指摘するまでもない。

 新規採用を減らさずに定員削減をするには、高齢公務員の早期退職がどうしても必要である。公務員の身分保障の原則はあるが、勤務年だけ長く、役に立たない役人には早めに退職してもらうしかない。公務員としての勤務評価を厳格にし、不適格者には解職も含めて、それなりの対応をすべき時期である。国民一般の理解と支援も得られるはず。組織としては避けたい方策だろうが、それを乗り越える組織マネジメントこそが「政治主導」の名にふさわしい。つまり、この点は政治家のリーダーシップに期待する。

 給与の大幅削減は、財政再建を持ち出されれば、甘受すべきなのだろうが、これにより国家公務員の士気が落ちることを心配する。安月給の不満はあまり心配していない。民主党政権の進める「政治主導」により、国家公務員のやる気が大きく削がれている状況の中で、給与削減が追い討ちと受け止められることを危惧している。

 国家公務員の魅力は、給与だけではない。世のため、人のために仕事をしている誇りが、やる気を支えている。政務三役の命令の遂行と報告義務だけを課され、自らの創意工夫の道を閉ざされている中で、どうやって誇りをもって仕事を進められるのだろう。国家公務員受難の要因としては、定員削減、給与削減以上に、こちらのほうがよほど大きい。

 わが国の官僚組織には、いろいろ批判、非難の声はあるが、官僚の使命感と粉骨努力がわが国を支えてきたことは否定できない。公務員受難の時代に、この実績がじわじわと崩れていくのを見るのは忍びない。国民にとっても大きな損失であることを肝に銘ずるべきである。


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