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月刊ガバナンス平成24年6月号
続アサノ・ネクストから 第21

民主主義の危機

 わが国の現在の政治状況を見て、「民主主義が危ない」と感じる。いくつかの危惧すべき事例について考えてみたい。

 まずは、民主主義の基本から。国民は自らの主権の行使を選挙で選ばれた議員からなる議会(国会)に委ね、その議会が行政権を行使する内閣(首相)を選出するのが、議会制民主主義である。

 この基本が危うい。前回の衆議院議員選挙においては、民主党が過半数を確保し、選挙後の特別国会において、衆議院は民主党代表の鳩山由紀夫氏を内閣総理大臣に指名した。しかし、鳩山氏の後、菅直人氏、野田佳彦氏が民主党代表選を経て首相に就任したが、国民としては、この人たちを首相に選んだ覚えはない。首相本人も、国民によって選ばれたという実感は持てない。「だから、決断できない政治になる。首相公選制を導入すべきだ」という議論が出てくる。民主主義という観点からも、選挙を経ないで首相が変るという状況は問題である。党の代表選びは、衆議院議員選挙の直前に行うのを原則とするとしない限り、このような状況は解決できない。

 原発再稼動をめぐる議論でも、民主主義が問われている。具体的には、関西電力の大飯原発3号機、4号機の再稼動であるが、その是非を決めるのは誰か。政府が「政治的判断」をして決めればいいのか。再稼動するには、関西電力と安全協定を結んでいる原発立地自治体の同意が必要である。「自治体の同意」は、形式的には福井県知事、大飯町長による同意という形でなされるが、それでいいのか。

 「自治体」とは、住民による共同体であり、首長は自治体を代表する存在に過ぎない。つまり、知事が同意しても、県民の多数が反対ならば、「自治体の同意」にはならない。住民の意思については、議会の議決がそれを「代行」することが実際的であろうが、いずれにしても、住民の意思がどうなのかは、問われなければならない。その意味で、原発再稼動の是非の決定の過程を、「今、ここで民主主義が問われている」という観点から、しっかり見守ることが必要である。

 民主主義が正しく機能するためには、権力側が正しい情報を国民に伝えなければならない。民主党が野党時代には「公開すべし」と主張していた官房機密費の扱いは、自公政権時代と変らず、情報開示がなされていない。原発事故対応についての政府内会議については、そもそも、議事録作成すらなされていなかった。政府の情報公開への姿勢が、「都合の悪い情報は、なるべく出さないように」と見える。これも、民主主義の危機ととらえるべき事象である。

 司法判断を尊重しないのは、三権分立を揺るがすもので、これも民主主義の危機といっていい。国政選挙における「一票の格差」は、違憲状態として是正を求める高裁判決があるのに、国会は放置している。選挙制度についての国会の怠慢は、民主主義の根幹に関わる重大な問題であり、民主主義の危機と言わざるを得ない。

 民主主義は、黙っていては守られない。まずは、民主主義が危機的状態にあることを認識すること。そして、声を上げ、行動をすることが求められる。


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