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月刊ガバナンス平成24年8月号
続アサノ・ネクストから 第23

マニフェストの進化こそ

 民主党が、前回の衆議院議員選挙で提示したマニフェストが、論議の的になっている。これまでのところ、主要政策で実現できたのは、高校授業料の無償化、農家への戸別所得補償制度だけである。一方、撤回、方針変更をしたものとしては、高速道路の無料化、ガソリン税暫定税率の廃止、子ども手当の創設など、多数にのぼる。最低保障年金制度の創出と後期高齢者医療制度の廃止は棚上げ。「コンクリートから人へ」は、八ッ場ダム建設の継続、新規公共事業の増加など、実質的な方針変更である。「地域主権の確立」の具体策は、ほとんど手付かず。

 民主党のマニフェストは、惨憺たる結果に陥っている。これでは、マニフェスト不信の声が出るのは無理もない。そうではあるが、一方で、状況の変化により、マニフェストと違ったことをしなければならない場合があることも指摘しておきたい。マニフェストがあるために、臨機応変の政策がとれないといった、自縄自縛に陥るのは避けなければならない。

 マニフェストの撤回、変更はあってもいい。しかし、その場合には、政権として、その理由と背景を国民に対してわかりやすく説明しなければならない。そして、率直に謝罪すべきである。その意味では、「消費税増税」だけでなく、他のマニフェスト「違反」への、野田政権の対応は不十分である。

 小沢一郎氏が、「マニフェストにない消費税増税をやることは、国民に対する約束違反である」として、税と社会保障の一体改革関連法案への反対を主導した。マニフェストの遵守がそんなに大事なことなら、ガソリン税の暫定税率の廃止を撤回し、「政府支出を精査すれば、16兆円の財源は生み出せる」という根拠なき言説を振り撒いたことは、どう釈明するのか。「都合のいいときだけ、マニフェスト遵守を持ち出すのはいかがなものか」と言われも仕方がない。

 それにしても、マニフェストの作成過程については、民主党は真剣に反省すべきである。外部の意見が聴取されていない。年金制度についての有識者の意見を聴取していれば、「最低保障年金の創設」などという、財源的に無理があり、社会保険方式での我が国の年金制度になじまない政策が提起されることはなかっただろう。

 この時点で大事なことは、「マニフェストはあてにならない」と引導を渡すのでなく、いかにマニフェストを信頼できるものとして生まれ変わらせるかである。

 その意味で、各政党に望みたい。マニフェスト作成にあたっては、党内論議に十分時間をかけて、真剣に行うことが大前提である。党全体として合意された内容にしないと、今の民主党内のゴタゴタのようなことが起きる。実現可能性を担保するために、第三者の専門的意見の聴取も欠かせない。そういった手順で作成されたマニフェストであれば、国民の信頼と期待が得られる。

 今必要なのは、マニフェスト不信を超えた、マニフェストの進化である。国民に信頼される政治を実現するために、各政党の覚悟が求められている。次の選挙は目の前である。マニフェスト作成に、今すぐに取り掛からなければならないことは、当然である。


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