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月刊ガバナンス平成25年3月号
続アサノ・ネクストから 第30

教育委員会の独立性

 大阪市立桜宮高校の問題について、教育委員会の首長からの独立性という観点から考察してみたい。

 桜宮高校において、体育科の教員が顧問を務めるバスケットボール部で、顧問から体罰を受けた体育科2年生の男子生徒が、その翌日に自殺する事件が起きた。この問題の解決にあたる大阪市教育委員会の対応とは別に、橋下徹大阪市長は市教委に対して、教員の総入れ替え、体育科とスポーツ健康科学科の入試中止を求めた。

 こういった措置が桜宮高校の再生のために適切なのか、有効なのかについては、いろいろ議論がある。その適否もさることながら、これを市長が決めること自体に、教育委員会の独立性の観点からは問題がある。橋下市長は、教育委員会の首長からの独立性を見直すべきだという主張をしているが、現行制度で独立性が確立していることは尊重しなければならない。

 教育委員会の対応が適切でなければ、市長がそのことを批判するのはいいとしても、「入試を中止しなければ、入試実施の予算は執行しない。これは市長の権限だ」とまで言うのは行き過ぎである。

 「入試中止」といった対応策が適切かどうかについては、ここでは論じない。大事なことは、その対応策を誰が決めるのかということである。大阪市教育委員会は、体育科としての入試は中止するが、新普通科に振り替えて、同じ定員の入試を実施することに決めた。「単なる看板の書き換え」といった批判もさることながら、こういった「入試中止案」が橋下市長からの「予算停止」の脅しがなくてもなされたかどうか。一連の過程の中で、教育委員会側から、教育委員会の首長からの独立性の観点から、橋下市長への反論があってしかるべきであった。「教育委員会の独立性が侵されている」という危機意識が、教育委員会にはなかったとしか思えない。

 教育委員会の独立性の問題について、関係者や識者、マスコミからも、ほとんど声があがらなかったのはなぜだろうか。大阪市教育委員会に限らず、教育委員会が機能していないから、首長が教育問題に介入するのは当然だという思い込みがあるからだろう。しかし、「だから教育委員会の独立性はどうでもいい」と決めつけてはならない。教育委員会が適切に機能していないとしたら、教育委員の常勤化、事務局への指導監督権限の強化など、機能強化につながる組織改革こそが急がれるべきである。

 国政の中でも、独立性が危機に瀕している組織がある。2%の物価上昇目標を掲げてデフレ脱却を目指す政府と、その目標設定には距離を置こうとする日本銀行。両者の間で「共同声明」がまとまったが、実態は「官邸圧力に折れた日銀」という図式である。白川方明日銀総裁が、本意ではない2%の物価上昇明記に応じたのは、首相に総裁罷免権を付与するという日銀法改正を阻止したいという一念からと言われている。

 「2%」を丸呑みした時点で、日銀の独立性はなし崩しにされている。1%か2%か、どちらが正しいかの議論ではない。日銀の独立性を堅持したいのなら、もう少し抵抗してしかるべきであった。大阪市教育委員会の対応と同じ図式である。


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