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月刊ガバナンス平成25年6月号
続アサノ・ネクストから 第33

自治体の人口減少

 国立社会保障・人口問題研究所は、都道府県別、市区町村別の2040年までの人口推計を発表した。これによると、2040年の人口は、すべての都道府県で2010年を下回る。市区町村別の人口は、95%の自治体が2010年を下回る。4割以上減少する自治体は23%である。人口減少率が全国一高いのは、群馬県南牧村で、減少率は71%。人口2423人が702人となる。

 2040年に人口1,000人以下となる村は、南牧村を含めて全国で56村ある。この人口規模で、基礎的自治体として成り立っていけるのかという問題については、のちほど考えてみる。

 人口減少より深刻な問題として、高齢化がある。高齢者(65歳以上)人口が40%以上となる自治体は、2010年の87(全自治体の5%)から2040年には836(50%)となる。高齢化率が50%以上となる自治体は167(10%)に増加する。人口の半分以上が高齢者、しかも全体の人口が1,000人以下といった自治体を成り立たせるのは、さらにむずかしいだろう。

 人口減少の自治体は、近隣も同じような人口減少自治体であることが多い。そういった自治体同士の合併で、問題が解決するのかどうか。合併すれば、さらに広大な面積を有する自治体が誕生する。そこには、住民がまばらに住んでいる。人口の数合わせだけでの合併では、自治体としての一体感は失われる。平成の大合併で、そういった自治体を多数生んだことの反省を踏まえなければならない。

 人口1,000人以下の自治体では、基礎自治体としての行政施策を完全装備するのはむずかしい。基礎自治体間に、「完全自治体」と「不完全自治体」(名称は検討の要あり)の区別をつけ、後者には都道府県の行政的支援を用意する。その場合も、その自治体の自立、自決権を侵さないような形が取られるべきである。

 自治体の高齢化への対応は、さらにむずかしい。しかし、発想を転換してみよう。「高齢者は非生産的」という思い込みを疑ってみてはどうか。農業を例にとれば、産業としての農業ではなく、作物の自家消費のための畑仕事ならできる高齢者はたくさんいる。地産地消型の農家レストランを高齢者が運営してもいい。「福祉事業」と言わないまでも、元気な高齢者が地域の要援護高齢者のお世話をする実践は、一部の地域では今でも進められているが、これを大々的に広げる。キーワードは、元気老人の活用、地域内での自己完結、非専門家としての活動である。

 「地域起こし」とは一線を画した取り組みが求められる。観光、祭りといった一過性のものでは十分でない。豊かな自然、細やかな人情、特異な文化を売りものに、都会から芸術家、学者・文化人、などを、定住を前提に呼び込むことが考えられていい。念のためつけ加えれば、これらの「事業」は、行政は見守るだけで、余計なことはしないほうがうまくいく。

 自治体の将来推計人口の減少が、想像以上であったことに衝撃を受けた。上記の対応策は、まだまだ思いつきの域にとどまる。残された時間はあまりない。社会全体の問題として、取り組んでいくべき課題である。  


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