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月刊ガバナンス平成26年1月号
続アサノ・ネクストから 第40

国と地方の税制バトル

 2013年末の税制改正案の議論の中で、都道府県税である法人住民税の一部を国税にすることが検討された。政府側の説明としては、国税に振り替わった分を地方交付税に充てることにより、東京都など大都市部への税収の偏りを緩和することになる。単なる国と地方の税源争いではない。企業が集中する都市部と税収が少ない自治体との税収格差を是正するという大義名分がある。

 2013年11月8日の全国知事会で自治省出身の石井隆二富山県知事は「都市と地方の格差は是正すべきだ」と発言するなど、税収が少ない自治体には政府の動きを支持する意見が強い。一方、東京都、神奈川県、大阪府、愛知県の知事は、総務省に対して法人住民税の一部国税化反対を申し入れた。

 東京都などの言い分は、こうである。法人住民税は、立地自治体から受けている恩恵を企業が負担するものであるから、その一部を国税に振り替えるのは、税理論としてはおかしい。自治体の課税自主権は尊重されなければならない。

 東京都が「地方分権に逆行する」と反発するのもわかる。しかし税理論を押し通すと、実態としては、自治体間の税収格差が拡大することになる。地方自治の世界での永遠の課題である自治体間の格差是正と自治体の課税自主権の尊重、どこかでバランスをとらなければならない。理屈だけでは解決がつかないのだから、永遠の政治的課題ということになるのだろう。

 理屈としてもむずかしいのが、課税自主権をどこまで認めるかの問題である。2013年3月、最高裁は、神奈川県が独自に設けた臨時の企業課税条例を「地方税法に違反し無効」と判断した。神奈川県の臨時企業課税条例は、地方税法で認められている法人課税における過去の赤字の相殺を認めないというものである。つまり、企業に単年度で利益があがれば、それに見合う課税をすることになる。最高裁は「税負担を均等化するという地方税法のねらいを条例で阻むのは許されない」という判断から、条例を無効とした。

 最高裁の判断は、自治体の課税自主権の否定ではないにしても、課税自主権に制限を課すことになる。むずかしく言えば、租税法律主義と課税自主権の対立において、租税法律主義に軍配を上げたということだろうか。この問題も、最初に紹介した法人住民税の一部国税化の議論と同じように、税制における国と地方との綱引きに関わる。これも政治的課題ということだが、であるとすれば、為政者同士の議論ではなく、住民も巻き込んでの議論が求められると思うが、どうだろうか。

 この問題で先頭に立って国との議論を展開していくべき東京都の猪瀬直樹知事が、窮地に立たされている。徳州会からの5,000万円供与問題である。

 国と自治体とは、本来、同格である。持ちつ持たれつの協力関係にあるべきである。とはいいながら、利害がぶつかり合うことはある。そこをうまく調整するには、卓越した政治力がいる。自治体側の有力なプレイヤーが政治力を発揮できない状態になるのは、大変に困る。「猪瀬知事問題」にはそういう面もある。


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