浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成23年3月号
続アサノ・ネクストから 第6

地方議会のありかた、再訪

 タイトルに「再訪」とあるのは、このコラムの第24回(08年2月号)に、「地方議会のありかた論」を書いたからである。このところ、一部の地方自治体に新しい動きがある。地方議会のありかたという観点から、大いに関心があるので、「再訪」したいと思った。

 動きとして特に目立つのが、大阪府の橋下徹知事、名古屋市の河村たかし市長、鹿児島県阿久根市の竹原信一前市長による「議会改革」である。

 橋下知事、河村市長、ともに、地方自治がどうあるべきかについて、住民の関心を引きつけたことの意義は、とても大きい。特に、地方議会のあり方を問うことにより、いやでも住民が関心を持たざるを得ない状況を作り出したことは、高く評価されるべきだろう。それはそれとして評価するが、私としては、議会改革の具体的中身については、大きな疑問がある。

 名古屋市、大阪府、竹原市に限らず、地方議会議員に対する住民の見る目は厳しい。その多くは、定数が多過ぎる、報酬が高過ぎるという批判である。首長も、そのラインに沿った議会批判を展開するが、私の見方はちょっと違う。

 地方議会、個別の議員が批判されるべきは、報酬の高さ、定数の多さではなく、本来の役割を果たしていないことである。3年前の稿で書いたように、地方議会は政策形成において、首長のライバルとなるほどの役割を果たさなければならない。そのためには、政務調査費を増額することが必要かもしれない。議会内の政策グループごとに、政策立案スタッフを雇う費用を出すことも有用だろう。議員への批判は、高い報酬をもらいながら、やるべきことをやっていないことに向けられるべきである。

 河村市長は、最初の市長選挙で減税を公約に掲げた。市長になってからは、減税の恒久化案を議会で否決されたために、議会のリコールに向けた住民の署名集めを自ら提起するなど、議会との敵対関係を鮮明にした。

 行政は、自らの権限を発揮したいので、組織は大きくしたいし、予算はたくさん使いたがるものであり、一方、議会はそれにブレーキをかけるべく、行政改革を迫り、減税を提起することが期待されている。しかし、名古屋市で起きていることは、この図式とは異なっている。減税を主張するのが首長で、議会がそれに反対するという図式は、それ自体、奇妙に見える。

 減税の提案は、有権者受けする。人気のある首長が議会叩きをすれば、住民の多くは喝采を送る。結果的には、議会を悪役にし、首長の人気をあおることになる。地方自治体の運営は、それぞれ住民から選ばれる首長と議会が並立した形でなされる。これが「二元代表制」と称される仕組みである。議会には、議会として果たすべき役割がある。対立する政策があれば、代案を出すなどして、首長に対抗することもそのひとつである。

 河村市長のように、市民の間で人気の高い首長だからこそ、自制すべきことはある。むしろ、地方議会を健全に育てることに力を入れて欲しい。人気のある首長だからこそできる大事な仕事である。名古屋市民としても、市長の高い人気とは別に、冷静で賢い対応が求められる。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org