浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成27年11月号
続アサノ・ネクストから 第62

安保法制と情報公開

  安保法制が成立した。今後、存立危機事態が発生した場合には、政府の判断で集団的自衛権が発動され、自衛隊員が出動することになる。その場合、判断の根拠となった情報は、事前承認を与える立場にある国会に、すべて明らかにされるのだろうか。情報開示の適否を判断するのも政府であることを考えれば、政府が「この情報は開示しない」と判断してしまえば、「それはおかしい。開示すべきだ」と国会なり第三者が異議を申し立てることは、まず無理である。

 その情報が誰からもたらされるのか。日本独自に収集した情報ではなくて、アメリカなど外国からもたらされた情報である場合、その真偽を確かめる手段はあるのだろうか。

 このことについては、私が宮城県知事であった2003年に成立した有事法制のことを思い出す。有事法制三法のひとつで、「国民保護法」と称される「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」により、知事は県民保護のため有事に対応しなければならない。

 有事として想定されたのは、主に北朝鮮からの日本攻撃である。日本本土に向けてミサイルが発射された場合、宮城県に着弾するのか、住民はどこに逃げたらいいのか。住民を知事が的確に誘導することが期待されるが、実際には、どのように住民を保護するのか、相当にむずかしい。

 ミサイル発射となれば、人工衛星で常時ミサイル発射基地の動向を監視しているアメリカの情報が頼りである。

 しかし、ミサイル発射の情報が宮城県に伝わる頃には、攻撃は終了しているはず。それでも知事は、住民保護のための方策を執らなければならない。情報がない中で、どうしたらいいのか、的確に判断するのは容易ではない。

 有事にしても、存立危機事態にしても、自衛隊を派遣するかどうかの判断は、政府に委ねられている。政府が持っている情報を元にして、「ゴー」と決めたとしても、その根拠になる情報をすべて開示するとは限らない。

 特定秘密保護法では、「特定秘密」にあたる情報を漏らした特定公務員が処罰される。政府自身が、特定秘密を明らかにすることは、絶対にあり得ない。特定秘密の範囲を政府が幅広く決めることになれば、開示される情報はごく限られたものになる。

 「存立危機事態を前にして、政府の持っている情報を明らかにするのは、相手方(敵国)を利することになる愚策である」という見方がある。それはそのとおりである。しかし、これを根拠に、開示する情報を、政府が恣意的に限定する可能性があることを知っておかなければならない。

 安保法制の運用において、情報の扱いが重大な意味を持つ。機密情報以外の情報は公開することが求められる。政府の発表が「大本営発表」のようになっては困る。国民にとって、何が何だかわからないうちに、自衛隊派遣が決定される事態は迎えたくない。そうならないためには、国会を含む国民全般が、納得できるのに十分な情報の開示が絶対に必要である。憲法違反が疑われる法律の運用においては、なおのこと、政府として踏み外してはならない掟がある。        


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org