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月刊ガバナンス平成28年1月号
続アサノ・ネクストから 第64

大阪ダブル選挙結果と大阪都構想の行方

 昨年11月の「大阪ダブル選挙」は、大阪維新の会公認候補が圧勝という結果になり、松井一郎氏は2期目の知事、吉村洋文氏は新任の大阪市長に就任した。ダブル選挙が国政に及ぼす影響もあるが、今回の選挙結果の意義を地方自治の観点に絞って考えてみたい。

 ダブル選挙での、「維新側圧勝」という結果を見れば、いずれ大阪都構想が府政、市政の論点として再浮上してくることは確実である。

 大阪都構想は、昨年5月の住民投票で否決されている。一事不再理ということもあり、同じ案件を再度住民投票にかけることは認められない。オリジナルの構想を少し変えて、新しい構想として住民投票にかけることはあり得るが、そこまでして大阪都構想にこだわることが、今の時点で適切なのかどうか、特に吉村新市長の立場は微妙である。

 橋下前市長が手がけて、いくつかの成果を挙げた市政改革は、まだ完結していない。新市長は、橋下市政の継続を謳って市長に当選したのだから、改革の継続は有権者に対する義務といえる。市営地下鉄の民営化、水道事業の府市統合、市立大学と府立大学の統合など実現が急がれる施策は多数残っている。そういった懸案が残る中、大阪都構想の実現が市政の最優先の政策というのでは、有権者の理解は得られないだろう。

 府議会も市議会も、維新の会が第一会派であるが、過半数には及ばない。今後とも、首長が大阪都構想を進めようとすれば、議会の反発は免れない。

 大阪都構想への反発だけではない。これまでの議会では、大阪都構想が橋下市長の政策だから、橋下市長の進める他の改革案にも反対するということもあったようである。大阪都構想のおかげで、他の重要な改革も進まなくなった。

 新しい市長の下では、大阪都構想という難題をしばらく脇に置いたらどうだろう。橋下市長が去り、大阪都構想では「休戦」となれば、市長と議会との間で、意地の張り合いはなくなり、純粋な政策論議が期待できる。市政改革も進むだろう。

 今回のダブル選挙、投票率は府知事選挙で45.4%、市長選挙で50.51%とそれほど高くはない。しかし、1975年以降の大阪市長選挙の投票率が、前々回ダブル選挙での60.92%は例外であるが、30%台が6回、40%台が2回、最低28.45%だったことを考えれば、結構高い数字である。昨年5月の大阪市住民投票の投票率は66.83%だったし、大阪市民の政治への関心は相当高いといえる。

 市民の政治的関心が高くなったのは、橋下市長の登場以来である。そのことでの橋下市長の功績は大きい。市民は、大阪市が進める政策に高い関心を持っている。有権者は橋下市長の改革路線を承継する吉村市長を選んだ。市長も議会も、そのことを前提として政策論議を進めていかなければならない。

 議会は、新任市長の進める改革に闇雲に反対するだけでは、有権者は黙ってないだろう。繰り返しになるが、大阪都構想を脇に置けば、市長対議会でも議会内でも建設的な政策論議がなされることは大いに期待される。民主主義とは、そういうものである。      


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