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月刊ガバナンス平成28年8月号
続アサノ・ネクストから 第71

舛添都知事の辞任劇

 今回の舛添要一東京都知事の辞任劇は、特異な経過を辿った。

 発端は、週刊誌のスクープ記事である。「公用車で毎週末温泉地別荘通い」、続いて「舛添都知事血税タカリの履歴」として、正月家族で温泉宿 37万円 ・自著100冊買上げ10万円・美術品900万円 等々が紹介されている。

 この後の舛添知事の対応が最悪だった。ボヤ程度のものを放っといて、火事にしてしまった。これが5月13日の都知事定例記者会見である。言い逃れ、屁理屈、開き直りのオンパレード。記者だけでなく、テレビ中継や報道を見ている都民までもあきれさせ、怒らせてしまった。関心を持つ層が、週刊誌の読者からテレビの視聴者に広がった瞬間である。知事の不祥事が全国版の劇場型に変わった。

 さらに「火に油」となったのが、5月20日の記者会見である。そこで「第三者の厳正な精査に委ねる」を45回連発した。自分で答えるべき質問にも、「第三者による精査」といって答えない。舛添知事は説明責任を果たしていない、信頼できない、辞任すべきだという都民の声が一気に高まった。火に油が注がれ、大炎上。一人の知事が演じる劇場型スキャンダルが最高潮に達した。

 そこで迎えるのが東京都議会6月定例会である。当初は、自民・公明会派は、ここで舛添知事を辞職に追い込むことには消極的と見られていた。それが積極に変わったのは、自民党本部、とりわけ安倍首相の意向が伝わったからである。「辞任させなければ、参議院選挙に響く」。

 舛添知事は、都民の「辞めろ、辞めろ」の声がどれほど高まろうとも、自分から辞めることはしない。自分には非はない、知事を辞めなければならないほどの非は犯していないと考えている舛添氏にとって、自ら辞任することは、自分の非を認めることになるからである。

 自分から辞めることは拒否していた舛添知事だったが、「不信任決議案成立必至」という状況では、辞任を決断せざるを得なかった。「都政の停滞を長引かせることは、私にとっても、耐え難い」というのが議会での辞任のセリフであり、最後まで自分の非を認めることはなかった。これが、舛添氏のギリギリのプライドなのだろう。

 週刊誌のスクープ記事から始まり、舛添知事辞任で幕を閉じた舛添劇場であるが、見終わってもなにかスッキリしない。図式としては、都民の「辞めろ、辞めろ」の大合唱に押された都議会が、不信任決議案成立(直前)まで行ってしまった感がある。これをもって、民主主義の勝利とはいえない。

 スッキリしない理由は、知事に不信任決議をつきつけるには、それなりの大義名分がなければならないのに、それが見当たらないからである。 「正月にホテル三日月で政治的な会議をした」という議会答弁が虚偽であることを立証できなかった。 「知事はセコい」だけでは、辞職理由にならない。にもかかわらず、ここで不信任決議案を成立させるとしたら、それは政治的色彩の濃い措置ということになる。

 幕切れはスッキリしないが、舛添劇場は、観客にいろいろな教訓 を残した。そうでも思わないと、むなしくて仕方がない。      


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