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月刊ガバナンス平成29年2月号
続アサノ・ネクストから 第77

小池知事の都議会改革

 小池百合子東京都知事は昨年8月の就任以来、「東京大改革」を進めている。その改革の矛先は東京都議会にも向けられている。

 都議会のあり方に問題があり、改革は必要である。しかし、都議会だけではなく、都議会と都庁との関係性にも問題がある。例えば、予算編成過程での「政党復活枠」は、議会の問題というよりは、それを長年認めてきた都庁側に問題がある。都議会での質疑の「答弁の事前すり合わせ」は、都議会側・都庁側双方で改めるべき慣行である。都議会改革の前に、都庁改革をしなければならない。

 都議会改革として、議会運営のあり方、議会の情報公開、政務活動費の使い方などについて、知事として関与すべきところはある。しかし、小池都知事流の都議会改革で、「旧体制」とか「ブラックボックス」,「議会のドン」をあげつらうときには、都議会全体ではなくて、都議会自民党会派に照準を当てているように見える。

 そういう文脈の中から、小池知事が都議会の中で仲間を増やし、都議会自民党会派を少数に追いやるという作戦が見えてくる。都議会自民党を仮想敵とみれば、小池シンパの議員を増やし、「敵」の攻撃を無力化することは正しい戦略のように思える。この戦略が功を奏するならば、小池知事の都議会対応が楽になることは確かである。逆にいえば、都議会自民党会派が都議会内で大きな勢力を保持していたら、小池知事が進めようとしている政策に待ったがかかり、大事な議案も否決される可能性が高くなる。

 果たしてそうだろうか。都議会自民党会派を中心とした「抵抗勢力」が小池知事の前に立ちはだかり、「東京大改革」の邪魔をするということに現実味はない。なぜなら、直前の都知事選挙で小池氏が圧倒的多数で当選したこと、そして現在も小池知事への都民の支持が高いこと、こうした現実の前には、「小池いじめ」などできるはずがない。

 こういった観点から見れば、小池知事の都議会内での小池シンパ拡大作戦は、都議会運営を円滑化するうえで是非とも必要とはいえない。都議会選挙では、小池知事が主催する政治塾「希望の塾」から40人規模の候補者擁立を目指すという。この目標実現のために、小池知事は多大の時間、お金、労力を費やすことになる。これを都庁改革、東京大改革に振り向けるべきではないか。

 小池シンパの都議会議員を増やす作戦は、自治体の二元代表制から見ても、問題なしとしない。知事と議会は分立している存在である。議会に与党も野党もない。むしろ、議会全体が知事の野党として、知事をチェックし、独自の政策を提起し、良きライヴァルとしてお互いを高め合うというのが本来の形である。その議会の中に、選挙で小池知事の全面的支援を受けて当選した議員が現れる。それらの議員から小池知事に陳情・要望がなされたときに、ひいきは絶対にないといえるだろうか。

 地方自治の健全な発展のためには、二元代表制の精神は尊重されるべきである。その意味で、小池都知事には、都議会との間に適切な距離を置いて対処することを望むものである。      


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