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月刊ガバナンス平成29年4月号
続アサノ・ネクストから 第79

歴代東京都知事のメディア対応

 歴代の東京都知事。その中で、メディアをうまく使って、自分の立場を堅固なものにしていくやり方は、現在の小池百合子知事が一番優れている。前任の都知事たちはどうだったろうか。

 直前の舛添要一知事は、就任期間が2年余と短く、政策が話題に上ることはあまりなかった。それが、「公私混同疑惑」が報じられてからは、連日マスコミで取り上げられるようになった。公用車を使っての毎週末の別荘通い、豪華すぎる海外出張についての記者の質問に対して、自己を正当化する答え方にマスコミはカチンときたのだろう。それ以降のマスコミの追及ぶりは激しさを増していった。

 新たな疑惑が新聞・テレビ・週刊誌で次々と報じられ、解説され、糾弾された。とんでもない失政があったわけではない。それなのに、「せこい」で辞めた初めての知事になった。これには、メディア側の厳しい報道ぶりも与って力があっただろう。

 その前の猪瀬直樹知事の場合は、就任期間が1年と8日という最短命知事だったこともあり、東京オリンピック招致ぐらいしか話題になっていない。一方、就任してからのメディアとの関係は、決して友好的なものではなかった。「五千万円不正献金疑惑」が報じられてからは、メディアはスクラムを組んで猪瀬知事に向かっていった。都議会百条委員会の設置を目前にして自ら辞任した。辞任後は、自分を追い詰めたマスコミに乗り込み、テレビのバラエティ番組に出演して平然と発言している。

 三代前の石原慎太郎知事のメディア対応は、やさしいものではない。記者会見で気に入らない質問をした記者への恫喝とも見える高圧的対応もしょっちゅう見られた。それでも、メディアの攻撃目標になることはなく、逆に、メディアから恐れられる存在だった。

 マスコミから総攻撃されるようなネタがなかったわけではない。自らが主導して始めた新銀行東京の破綻は、知事辞任に値するほどの一大失政だが、マスコミは問題として取り上げはしたものの、辞任を求めるほどの追及はしなかった。豪華海外出張問題もママスコミの対応としては、舛添知事の「豪華海外出張」と比べると、はるかに穏やかな追及ぶりであった。

 その石原慎太郎元東京都知事が、3月3日、豊洲市場移転問題についての記者会見に臨んだ。質問への回答として「知らなかった」、「下からの案件を認めただけだ」を連発した。なぜ知らなかったのか、なぜ部下に任していたのか。石原知事が週に2,3日しか登庁せず、しかも執務は3,4時間ということで、行政のトップとしては怠慢ともいえる執務ぶりだったからである。こんなことでは都政の重要な案件について、知事として的確な判断ができるはずがない。

 記者会見でこれを指摘する記者はなかった。マスコミは石原知事の怠慢な執務ぶりを知っていたのに、当時はそれを糾弾する論調を展開しなかった。記者たちはこの執務ぶりこそが豊洲移転についての無責任の原因だということに気づかなかったのではないか。

 知事とメディアとの関係、それは元知事との関係にまでつながっている。そんなことを考えさせる記者会見であった。            


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