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月刊年金時代2006年10月号
新・言語学序説から 第52

「色について」

 今回の表題を英語で言えば、「カラーについて」となるが、読者の23パーセントぐらいは、「色について」のタイトルを目にして、ニヤリとしたのではないか。色欲、好色、色情といったことについて書かれるのではないかという勘違いである。

 日本語で「色」というと、赤、青、緑といったカラーだけではなく、性的なものも意味する。色男は、顔に国旗をペイントしてワールド・カップの応援に駆けつける男性でなく、美男子、もてる男のことである。思いつくままに書けば、色男の語順を逆にした男色は男子の同性愛のこと、以下、意味は書かないが、才色兼備、色仕掛け、色ざんげ、色香、容色、色気、禁色、色恋、色町、色目など、たくさんある。

 こういった場合の色は何色だと問われれば、やはり桃色だろう。桃色遊戯という表現も思い出す。私が高校生の頃には「○○高校の生徒が桃色遊戯で補導されたらしい」と言ったりしていた。桃色遊戯を警察用語に直すと不純異性交遊。未成年の性行為は、純粋な恋愛にあたるものでも、不純異性交遊でくくられる。それにしても、すごい表現方法であったと、今更ながら驚く。今の中高生なら、笑い飛ばされる用語でないだろうか。

 そちら方面を書きたいのではない。今回は、純粋にカラーに関する表現について、言語学的に迫ってみたい。例えば、なぜ信号の「進め」は青なんだろう、どうして緑でも黒板なのだろうといったことである。

 後のことは単純で、黒板はもともと黒かったのだが、その後、材質が変わって緑のものが登場しただけのことである。英語でも「ブラックボード」という。最近は、「ホワイトボード」も出てきたが、その場合、日本語では「白板」とは言わずに、そのまま「ホワイトボード」と言っているようだ。

 信号の「進め」は、青ではなくて、ほとんどの場合、緑である。英語では「グリーンライト」と呼ぶ。日本に信号が導入された時に、はじめは緑だったのだろうか、それとも誰かが「あれは青だ」と言い出したのが引き継がれてきたのだろうか。誰か教えて欲しい。 「ほとんどの場合」と書いたのは、本当に青が使われている信号もあったような気がするからである。それも「青」という頭があるから、実際は緑なのに青に見えてしまっているのかもしれない。これを書くにあたって、あらためて信号を見直していないので、こんなあやふやなことを書く。そういえば、実際は緑なのに「青々とした芝生」みたいな表現もあるし、「みどりの黒髪」ともいう。

 黒人は黒くない。同様に、白人は白くない。日本人の髪の毛の色、カラスの羽を黒というのであって、黒人の肌は褐色であっても、黒くはない。白とは白鳥とか白墨とか、雲の色のことを言う。あんな白い肌の白人はいない。我々日本人は黄色人種と言われているが、黄色い顔の日本人なんているものか。そんな例はたくさんあって、お茶の色は茶色ではない。水色をした水はあまり見ない。顔が真っ青になったと言われて鏡を見ても、空の青さのような顔ではない。

 見えないものにも色は着いている。例えば、真っ赤な嘘。英語では「ホワイト・ライ」というのが真っ赤な嘘にあたるのではなかったかな。文化によって、嘘の色も違うのは面白い。「青年」もそうだが、年齢にも色がついている。老年はシルバーの銀色。恋は真っ赤かピンクかと思ったら、恋は水色という人もいる。多分、各国共通なのが、有罪・無罪。犯人は黒で、無実になれば白に変わる。勝利は白星で、敗北は黒星。どうも、黒は白より分が悪そうである。人種差別の元は、ここにもあるのかなどと、まるで関係ないことも考えてしまう。

 ものの本によると、日本人にとっての基本的な色は、赤、青、白、黒の四色だけということらしい。いずれも、その後に「色」というのはつかない。それでは、緑はどうだ、黄は、紫はとなるが、「赤い」、「青い」と違って、「緑い」、「黄い」、「紫い」では形容詞にならないところが違う。「黄」の場合は「黄色い」になるし、「茶」の場合も「茶色い」になるが、「緑色い」、「紫色い」とはならない。「緑のドレス」という表現は、赤、青、白、黒はもちろん、黄、紫、橙、ねずみでも通用するが、水色、桜色、肌色については、「水(桜、肌)のドレス」ではうまくない。そうやって見ると、色にもエラさの階級があって、一番エライ赤、青から、次に黄、茶、その次が緑、紫、橙、最後のほうに水色、桜色、肌色が来るのだろうか。

 TBSラジオで月―金の朝五時半から六時半まで「生島ヒロシのおはよう一直線」が放送されていて、時々聴いている。たまには、私自身がスタジオで生出演する。番組の呼び物の一つが「おはよう夢占い」である。生まれた星座ごとの運勢と今日のラッキーカラーが紹介される。2月8日生まれでみずがめ座の私は、生島ヒロシさんのやぎ座の次になる。運勢はともかく、その日のラッキーカラーに合わせてネクタイの色を決めるのに利用させてもらっている。

 以前は、レンガ色、鳶色、萌黄色とか、どんな色か頭に浮かばない表現が多かったので、生島さんに陳情して、単純な言い方に変えてもらった。藍色と群青色と水色と空色は青とどのように違うのかわからない。金色と黄色は放送では聞き分けにくい。金色の後には、ゴールドと補足するようになった。

 昭和23年生まれの私の年代は、ラジオの時代も経験したし、テレビは白黒だった。それがカラーになって、今やデジタル放送の時代。58歳の年齢は、青の時代をとっくに過ぎてシルバーになりかかっている。真っ赤とか、ピンクとはいわないが、もう少し派手な色の人生を送っていたいと願う今日この頃である。

 今回は、実にまとまりのない文章になってしまった。どういう意図でこんな駄文を書いたのかと言われるかもしれない。そんなふうに色眼鏡で見ないでもらいたい。いやダメだ。シロクロはっきりさせたいという方もいるのだろうが、そこは人生色々ということで、お許し願いたい。


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