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讀賣新聞 夕刊 2008.10.2
浅野史郎の《夢ふれあい》 第13回

「入りたい」介護付き住宅

 大阪府阪南市にある「介護付き住宅みのり」を見に行った。いわゆる賃貸型の有料老人ホームだが、いくつか特徴がある。

 まず、運営が、オレンジコープという消費生活協同組合である。高齢者のほかに、身体障害者も住んでいる。食事は、自炊でもいいし、共同の食堂で食べてもいい。一番印象深かったのは、門限なし、外泊自由、友人の宿泊自由、飲酒、喫煙。ペット飼育の制限もないことであった。

 「みのり」には、介護サービスの要員が常駐してはいるが、「施設」ではなく、「住宅」であることにこだわっている。

 例えば、職員が居室にカギをかけない。「入居者の自己責任」が貫かれているからだ。カギをかければ、認知症の入居者の徘徊は防げるが、自己責任=自由の原則に反する。頻繁な徘徊への対応で、職員の負担は増えるが、効率より、入居者の尊厳が大事である。人員配置は、同種の施設よりかなり重めになっている。

 こんな介護付き住宅を作ったのは、オレンジコープの笠原優理事長である。ご母堂が「みのり」に入居しており、自分の母親が住むのに、一番いいところはどういうところかというのが、発想の出発点であったらしい。

 自身がのんべえだから、絶対禁酒にはしないことにこだわった。自分が入りたいような住宅にしたい、そういった「自分のため意識」こそが、誰にとっても住みやすい住宅にすることにつながる。

 常駐の介護スタッフのほか、医師、歯科医師、鍼灸師、柔道整復師、マッサージ師が訪問してくる。介護や医療が必要になっても、そこで暮らし続けられる安心感と、人間の尊厳が保たれる。

 「みのり」は、堺市、貝塚市、和歌山市にもあり、どこも常に満杯状態である。オレンジコープは、来年、分譲型の介護付きマンションを堺市にオープンする。開所式には、笠原さんに招かれなくとも、押しかけていきたい。


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