浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

讀賣新聞 夕刊 20087.3
浅野史郎の《夢ふれあい》 第7回

独闘病中でも自立支援へ希望

 1985年6月。当時、北海道庁の福祉課長を務めていた私のオフィスに、車椅子で乗りこんできたのが、小山内美智子さん(54)との出会い。重度身体障害者が、ケアを受けながら、地域の中のふつうの住宅で生活をできるような仕組みとして、ケア付き住宅を作って欲しいと要望を受けた。

  重い障害はあっても、地域の中で自立生活をしたいという小山内さんの火の出るような思いは、肢体不自由児施設、養護学校での、厳しい生活体験から生まれている。

 多くの仲間を地域の中で支えるための団体として、30年前に誕生したのが札幌いちご会である。小山内さんは、ずっと代表を務めている。99年には、社会福祉法人アンビシャスを設立して、障害者が自立生活に移行するための準備訓練をする施設の長にも就任した。

  小山内さんは、ボランティアを使いこなす達人であり、介助の仕方を教えるプロである。その小山内さんが、悪性リンパ腫という病を得た。

  入院中は、障害者自立支援法による介護が受けられない。両手が使えない小山内さんである。食事、排尿排便、かゆいところをかく動き、こういったことを看護士にゆだねることは不可能である。ヘルパーの介助なしには生活が成り立たない。そのヘルパーを雇う費用は、自腹である。

 6月末に私が札幌市内の病院にお見舞いに行った時、の悪性リンパ腫の本格的治療は始まっておらず、比較的元気であった。大変な病気と闘っていく覚悟の言葉に続いて、介護の費用をどうしていくか、弱気な声も洩らす。

 役所と喧嘩するのは疲れた、これまでの30年間の戦いの中で、役所は何にも変わっていない、自分のやってきたことは、何だったのだろうという落胆も隠さない。

  「ここでの闘病記を書いて、それでもうけたお金でヘルパーを雇うの」と笑う。この戦いに勝って、楽しいリハビリの施設を作るという小山内さんの夢の実現に、私もいささかでも力になりたいとの思いが湧いてくる。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org