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中国の反日デモ

2005.4.19 

 中国各地で反日デモが相次いでいる。広東省広州や深?などで大規模な反日デモが繰り広げられ、北京での大規模な街頭デモでは、日本大使館や大使公邸への投石による被害も生じている。上海にも波及して、デモ隊の一部は日本料理店のガラスや看板を破壊した。上海は、中国経済の心臓部であり、日系企業も4,500社進出しており、日本人は3万4千人も住んでいる。その上海での反日行動の持つ意味は、極めて大きい。

 中国では、デモ行進自体が珍しい出来事である。本来なら、警備当局も神経をとがらせて対処する事態であるはずなのだが、少なくとも初期の頃には、警備当局の厳しい対処の形跡はない。反日デモで、投石などで被害が生じたことに対して、中国政府からの正式な謝罪はなされていない。さらに、中国政府は反日デモの背景を「日本側の侵略の歴史に対する誤った態度に不満を持つ市民の自発的な行為」と解説し、責任は日本側にあるという立場を明確にした。

 反日デモは、民意の表明の一つの形であるから、そのこと自体については、なんら批判すべきものではない。しかし、デモ参加者の一部が投石などの破壊行為を行ったことによって、日本大使館などに被害が生じていることに対しては、中国政府としては弁明の余地はない。大使館を自国に受け入れている国の責任として、国際法上も万全の安全対策をとるべきことは当然である。

 こういった問題は、国際関係の常識に照らして判断されるべきものである。それはそれとして、問題の背景にある状況については、我々日本側としても、感情的にならずに真剣に考慮していく必要がある。中国側では、日本側の歴史認識、それに関わる教科書問題、小泉首相の靖国神社公式参拝などを問題視している。日本の国連常任理事国入り、日本企業による東シナ海天然ガス田開発試掘なども、新たな問題として提起されている。「そんなの関係ない」と切り捨てることはできないであろう。無原則的に謝罪する、言い訳をするといったことではなく、何が問題であるのか理性的にねばり強く説明、説得する努力は、どんな場合でも忘れてはならない。

 日本側では、今回の反日デモの背景として、中国での収入格差などの社会問題に対する民衆の怒りがあるといった解説をするむきもあるが、それはどうだろうか。報道によって見られるデモ参加者の姿は、収入格差に怒るような階層というよりは、学生や若きホワイトカラーが圧倒的である。むしろ、これからの中国をしょって立つようなエリート候補のような立場にある人たちではないか。収入格差といった困窮状態への不満というよりは、愛国、排日、日本製品排斥といったことがスローガンであり、気持ちの上では比較的余裕を持ちながら、生活密着というよりは思想先行という感じのデモのように見受けられた。

 それほど切羽詰まった要求とは思えない事柄に関するデモが、なぜにこれほど短期間にこれほどの興奮状態にまで高まり、中国各地に広がったのだろうか。決定的な役割を果したのは、インターネットであったと考えてまちがいないだろう。デモ参加者は、インターネット世代であり、インターネットが盛んに使用されている地域がメインである。インターネットという、ある意味では閉ざされた情報環境の中で駆け巡る噂、煽動的言辞は、ものすごいスピードで伝わり、伝わっている中で興奮度合は増幅し、極限まで過激になる。わが日本でもたくさんの実例があるが、インターネット上の情報の持つこういった特性は、今回の反日デモにおいても、いかんなく発揮されたものと思われる。

 我々はこの自体にどう対処したらいいのか。短期的には、上述したように、理性的な対処、理論的な説得が基本である。中長期的には、さまざまなレベルでの日中両国の相互理解の場を広げることである。人的交流が一番。わが宮城県でも、姉妹県省関係にある吉林省、経済交流が活発な上海、大連などとの人的交流が行われている。県立宮城大学には、中国からの留学生が現在50人ほど在学している。東北大学については、昨年度、400人を超える中国からの留学生を受け入れている。古くは百年前、魯迅先生を受け入れた歴史もある。こういった関係を深めていくことが大事である。

  今回の「事件」で一番衝撃を受けたのは、上海の大学で、日本人であるというだけで殴打されたということ。個人レベルでの攻撃は、論外である。我々日本人が絶対やってはいけないこと。今の事例の逆、つまり、相手が中国人であるということだけで攻撃すること。そういった形での憎しみの連鎖は全く不毛である。

 人と人との親しい、密接な関係は、国家間の安全保障の保険のようなものであると考えている。今回の中国での反日デモの拡大はまことに不幸なことではあるが、これにめげてはいけない。であるからこそ、ますます、民間レベルでは仲良くということを深く認識すべきものである。



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