宮城県知事浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

シローの走り書き

走るクマ

アカシアの大連

2005.5.24 

 これは、大連市のホテルで書いている走り書きである。

 5月23日、大連市の国際金融ビル13階に、宮城県・岩手県共同の大連事務所が開設され、その開所式が執り行なわれた。開所記念レセプションには、刑良忠副市長をはじめとする大連市人民政府の方々、宮城県、岩手県からかけつけた方々などにおいでいただき、事務所の誕生を祝っていただいた。大連事務所の共同開設は、昨年の8月大連訪問時に、この現地で岩手県の増田知事と一緒に決めた。それが実現して、大連市のアカシア祭りの時期に合わせて、開所の運びとなったものである。

 大連はとてもきれいな街である。人口600万人を抱え、発展著しい。日本との関係がとても緊密であり、日本企業の進出も多数にのぼる。市内で日本語を学ぶ人たちの数も相当なものである。その意味では、日本にとっても、大事な都市ということができる。

 このところの中国での反日デモなど、国と国との関係は、必ずしも良好ではない。そのことは、この「走り書き」の4月19日号に書いた。実は、今回、大連に来るにあたっても、このことが気になっていた。しかし、大連からの情報は、「なんの心配もない」ということだったので、安心してやってきた。

 まさに、そのとおりであった。旧知の夏徳仁市長をはじめ、大連市当局の方々に、実に暖かくお迎えいただき、大変丁重にお世話いただいたことは、深く心に感じ入ったところである。アカシア祭りにも参加して、夏市長とともにパレード見物を楽しんだりして、友情ベースがさらに広がった思いである。先方も同じ思いであったはずと確信している。

 国と国との関係においては微妙な問題があっても、こういった地方と地方との関係が確実につながっていれば、救いがある。今回も、この時期に大連に来ることができてよかったというのが、私だけでなく、岩手県の増田知事とも共有する実感である。

 視線を少し高くして眺めて見れば、日本にとっての中国との関係の重要さに、改めて気がつく。アメリカとの関係も重要であるが、中国や韓国など、近隣のアジア諸国との緊密な信頼関係は、それ以上に重要である。寺島実郎氏が想いを込めて紹介しているが、東条英機首相の遺書においては、アジアとの友好関係を取り結べなかったことこそが、先の戦争での敗因でもあり、痛恨事であったとのこと。まさに、そのとおりであろう。アジアの一員たる日本は、アジア諸国との緊密な関係が最も重要な国際関係である。そういった関係を確実にした上で、アメリカとの関係を深めていくべきものである。

 日本の国連常任理事国入りの問題についても、中国や韓国にとって、日本に対する微妙な想いがあることから、なかなか単純にはいかない。であるからこそ、これらの国とは、歴史認識とか、靖国神社問題など、双方の国にとって琴線に触れる事柄を含めて、率直な意見交換が理性的に続けられる必要がある。

 お互いの国の関係で過去にあった事柄や、過去を今に引きずっている事柄、こういったことについても冷静に話し合いながら、視線の方向は未来を見据えたものにしていきたい。その一方で、あまりにも難しすぎる問題は、性急に解決、解消を図ろうとすることは控えたほうがいい場合もある。「我々よりもっと賢いであろう次の世代に解決を委ねたらどうか」という言い方は、周恩来首相がなさったことでもある。そういった知恵も、今の時代には、求められるのではないだろうか。

 まさに、未来を一緒に築いていこうということである。アジアの国同士が深い相互理解の下に緊密な関係を築いていけなかったとしたら、日本としては、どうやって国際社会の中で確固たる地歩を確保することができようか。今よりも、もっともっと中国や韓国との相互理解を深めるべきである。共同歩調をとっていくべきである。

 そんなことをも考えながら、アカシア祭りの楽しい行事の中に身を置いていた。大連は、例年より寒さが厳しくて、アカシアの開花が2週間も遅れているとのこと。現に、この時期の市内には、アカシアの花はみかけることがなかった。実際の花は間に合わなくても、宮城・岩手共同の大連事務所の開所式は華々しく執り行なわれた。我々の心の中には、いつまでもあせることのない花が咲いたことを実感しつつの大連訪問であった。



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