郵政解散選挙

２００５．8．16

　今回、小泉首相が打って出た衆議院解散による総選挙には、いろいろな呼び名があるようだが、ここは「郵政解散選挙」とした。この「走り書き」の３回前に、「郵政国会の混迷」というタイトルで書いた因縁もある。なんといっても、「参議院で郵政法案が否決されたら解散する」という、小泉首相からのメッセージは明確であったのだから、まぎれもなく郵政解散であろう。

　その後の展開も明確である。自民党の候補者公認にあたって、郵政法案に反対した前議員は公認からはずすという措置がとられた。断固たる決断である。しかも、反対議員の選挙区には、「刺客」とまで呼ばれる対抗候補が送り込まれる。反対した議員でなくとも、「そこまでやるのか」という驚きの目で、ことの成り行きを注目することになってしまう。

　そこまでやるのである。こういった小泉首相の手法に対しては、強権的とか、独裁者のやり口とか批判が聞かれるが、政策で選挙を戦うというのは、こういうことなのである。今までの自民党が、「なあなあ、まあまあ」の世界であったから、このやり口が異常に見られるのはよくわかる。しかし、政策を中心課題とする政治の世界では、「なあなあ、まあまあ」は、決して表街道とは呼ばれない。これまでが変だった。

　衆議院議員選挙のたびに、「どうもおかしい」と思うことがあった。そのことについては、いろいろな場で言ったり書いたりもしてきた。自分は自民党の候補者である。自民党は政権与党である。だから、私に投票するのが正しい選択である。こういう言い方で有権者に演説する候補者の存在に、どうしようもない違和感があった。私はこういう政策を持っている。こういう行動をとっていく。それに賛同していただければ、ぜひ投票して欲しい。こういう言い方ではないのである。

　地元の要望があれば、与党政党に属する国会議員は、国家中枢と結びつく有効なパイプとして機能するので、与党議員としての自分がお役に立つことが多かろうと思う。だから・・・・、ということなのだろうと想像はつく。こういうのは、利益誘導としての投票依頼だからおかしいというのではない。そうでなく、選挙にあたって「与党議員」というのを、一つの身分として言っていることがおかしいのである。衆議院議員選挙というのは、政権をめぐってのものである。選挙の結果として、その候補者が属する政党が与党になることもあるし、野党になることだってある。あくまでも、それは選挙の結果である。それが、どうも実物大ではわかっていない候補者がいらっしゃったことが奇異なのである。

　今回の選挙は、郵政民営化という政策をめぐってのものであることが、特異ではある。それだけではない。選挙の結果、どの政党が与党になるか、あらかじめ予想がつかないという意味で特異なものである。本当のところ、先回の総選挙だってそうだったはず。ところが、選挙後、民主党は政権を取れなかったにもかかわらず、当選者を大幅に増やしたことをもって、「勝った」と総括をするほどに、本気で与党になる気概があったのかどうか、どうも怪しい状況だった。だから、実質的には、今回の総選挙こそが、選挙後の政権の行方がわからないというもので、そのことが共通認識となっている久しぶりの選挙ということができる。

　そういう中で、まさか、現在の与党候補者が、「私は与党、だから投票して」といった言い方はしないだろうとは思う。まさに、政策をかついでの選挙運動でなければならない。マニフェストの重要性が、いやがうえでも大きくなる。選ぶ側の有権者も、その点ではマニフェストを本気で読み込まなければならない。「与党」というだけでは、有権者にアピールすることはあり得ない。そういう選挙である。

　マニフェストということで言えば、地方分権は今回の選挙においても、大きな争点であることを忘れてはならない。自民党は、郵政改革を前面に押し立て、その他の政治課題はなるべく陰に引っ込めようという作戦のようであるが、そうはいかない。社会保障、外交・防衛、景気対策などなど争点はたくさんある。財政における地方分権の確立は、これからの国と地方との財政ルールの中に納税者を巻き込むという意味で、ほんものの民主主義を実現するための必須の条件である。主要政党が、この政策課題について、どのような姿勢で臨むのかということは、我々地方側にとって極めて重要な関心事である。

　それもこれも含めて、今回の総選挙は面白い。面白いという言い方は、やや不謹慎に聞こえるかもしれないが、興味深いということである。ほんものの民主主義の実現ということでは、大きく前進するのではないか。後年になって、今回の総選挙を振り返った時に、あれが潮の変わり目であったと思えることになるのではないか。そんな期待を抱かせるということなのだから、小泉純一郎という政治家は相当なものであるという評価もしたくなってくる。