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米軍再編問題

2005.11.1

 米軍再編問題 2005.11.1  このところの私としては、郵政民営化を争点にした衆議院選挙、地方財政自立改革(三位一体改革)の推進、医療保険再編の行方など、内政問題に関心の多くを向けてきた。内閣改造、宮城県知事選挙、楽天によるTBS株大量取得問題といった「事件」も、問題意識を内向きに、内向きにと誘引してきた要因である。関心が内向きになっているのは、決して私だけではないだろう。そういった中にあって、決してゆるがせにしてはならない問題が、米軍再編問題である。「一体、我々の日常生活にどんな関係があるというのか」といった感覚では、この国を誤る。決して、沖縄県民だけが真剣に考えればいい問題ではないはずである。  10月29日、外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)がワシントンで開催され、在日米軍再編に関する「中間報告」が発表された。一言で申せば、在日米軍と自衛隊との一体化の強化である。司令部間の連携強化や基地の共同使用がその内容である。一方において、沖縄の普天間飛行場の移設先、沖縄駐留の海兵隊7000人の削減などの方針も示されている。  中間報告が目指していることは明らかである。日本有事や周辺事態、国際協力の場面において、日米の役割・任務の分担を定めることである。日本側から見れば、米軍に対する「切れ目のない支援」を約束するということ。復興支援、国際救援活動といった場面において、日米同盟関係を基軸とした米国への協力をするということにつながる。  米国側から見れば、世界戦略の変革と再編の一環ということになる。神奈川県の座間に新たに置かれる米陸軍の新司令部は、中国との軍事衝突を念頭において、中国に睨みをきかせる意味を持つ。テロとの戦いにおいても、米軍だけでは持ち応えられないという事情も出てきている中で、日本に期待するとこともあるのだろう。司令部をテロとの戦いの現場により近い日本に置くことの効果も計算済みであろう。  今回の「中間報告」の内容は、そういった米国の狙いも考慮しつくした上で、日本として主体的判断をした結果なのだろうか。「アメリカだけが日本を守ってくれる」とか、「アメリカと仲良くする以外の選択の余地はあるのだろうか」といった消極的な姿勢からの選択のように見えてならない。アメリカの姿ばかりが巨大に見えている日本の姿勢。その一方において、アジアの一員でありながら、アジア諸国が日本をどう見るかという視点が抜け落ちてしまっているのではないかといった危惧を感じる。  「日本の安全保障と地方政府」(メルマガ第162号 2004.10.12)でも既に指摘しておいたが、日米安全保障条約で想定している極東の範囲の問題がある。米国ワシントン州の陸軍第一軍団司令部が移設改編されて、キャンプ座間に置かれることが予定されている統合作戦司令部は、一体どの地域までの任務を担うことになるのか。中央アジア、中東までもカバーすることになるとすれば、日米安全保障条約との関係で議論が生じる余地がある。  新たに司令部が移転してきたり、米軍の基地機能の一部が移ってくることになる岩国基地のある岩国市(山口県)、鹿谷基地のある鹿児島県などの地方自治体にしても、すんなりと受け入れを表明することになるのかどうか。早速に、星野勝司座間市長、松沢成文神奈川県知事は、「絶対に反対」、「憤りを感じる」といった強い調子で反応を示している。  私として最も大きな危惧を感じることは、この問題に関しての国民的関心の薄さである。日本の安全保障、アジア諸国との近隣関係といった、わが国の国益にとって極めて大きな意味を持つ事柄に関して、国民の間ではほとんど関心が持たれていないことである。国民的な議論が巻き起こる気配など、全く感じ取れない。日本はその程度の国になってしまったとは思いたくないのだが、平和ボケも極まれりではないのか。



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