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ジョギング日記 10月第3週分          

2010.10.16(土)

 シャワーの時に、立っている裸の足を見ると、筋肉が落ちたプヨプヨ状態で、情けないし、頼りない。それでは、骨のほうはどうかということで、昨日、調べてもらった。骨密度はレントゲン撮影だけで検査できる。結果は、若い人(骨密度が最も高い32歳)と比較した値は96%だが、同年代と比較した値は105%というもの。合格である。

 初めて行ってから36年経つ、新橋烏森「2BEAT」のマスターと夏枝さんが、お団子を持って、来てくれた。「何か食べる物もっていきましょうか」と聞かれたので、以前に、お見舞いのときにいただいたお団子を所望していた。血糖値が気になりながらも、2本食べたが、これがとてもおいしい。その他にも、いろいろ持ってきてくださったが、とても食べきれない。心遣いがうれしくて、元気が出てくる。


2010.10.15(金)

 「ATLには、確立した治療法がない」というのが、この病気についての説明文には書いてある。骨髄移植は、ATL患者にとって、確立した治療法ではないのか、治療実績が積み上げられていないかとなると、そうではない。少なくとも、ここがんセンターの田野崎医師による、ATL患者に対するミニ骨髄移植は、赫々たる成果をあげている。昨日、夜になって、田野崎医師が病室に来られたので、この辺のことを伺ってみた。九州のATL患者が多いところでの骨髄移植の成績は、決してよくない。ある病院では、「全滅」というのもあるらしい。これは、九州の病院はATLの専門であっても、骨髄移植の専門でないということもあるのではないか。田野崎医師は、骨髄移植専門であり、その点、ATL患者に対する骨髄移植を適切に行うことができている。確かに、骨髄移植後の免疫抑制剤をどういったタイミングで、どの程度の量で処方していくかについては、極めて慎重に行っている。それが、いい結果につながっている。実績の積み重ねによる「匙加減」の適切さは、名人芸、職人芸の域に入るのではないだろうか。

 田野崎医師は、「こんなに治療成績が上がっています」と声高で主張するには、謙虚過ぎるのかもしれない。「エビデンスがない」、「そもそも骨髄移植をしなくとも治っている患者が多いのではないか」といった外部の声があるらしいが、それにも特に反論しない。ただ、実績の積み重ねでは、多くのATL患者を完治にまでもっていっている。この成果には自信を持っている。患者とすれば、とてもありがたいことである。私の場合、ATLの専門であり、骨髄移植も多く手がけているが、ATL患者への骨髄移植については実績のない東大医科学研究所で、抗がん剤による治療を適切にやってもらい、骨髄移植はがんセンターの田野崎医師にやってもらったというのは、理想的な流れだったと思う。

 同じく田野崎医師から、髄液中にがん細胞が残っているかどうか、私の検体を京都大学の松岡医師が、精緻な方法で検査した結果、「ゼロ」ということであったことを聞いた。心配していたことだったが、これでホッとした。


2010.10.14(木)

 快食、快眠、快便でずっと来ていたが、快眠については、少し支障ありである。21:30ごろには就寝するが、それから朝の2時ごろまで1時間おきに排尿のため起きる。排尿後はすぐに眠れるが、眠りは浅いだろう。目覚めも3時か4時。日中、別にしなければならないことがあるわけでないから、寝不足でも支障はない。浅い眠りを楽しんでいると思えば、あせりもしない。その他は、順調に、着実に治療が進んでいる。

 食欲は旺盛である。毎食、すべて完食。朝はパン、昼食、夕食のメニューもバランスが取れたもので、おいしく食べられる。病室の位置の関係で、配食が一番目なので、暖かいまま食べられるのがありがたい。築地市場が隣にあるせいか、魚のメニューが充実しているかなと思う。口内炎もないし、吐き気もないし、味覚障害もない。そういった中で、食事がきっちり摂れるのがありがたい。

 今日は、妻と一緒に、次女もやってきた。司法試験には受かったが、就職が難関である。夕方から、弁護士事務所の面接に行く。司法試験改革によって、合格者が増えたのに、受け入れるほうの需要は増えていない。事務所として1人か2人しか採用しないこの時期に、多く応募者の中から選ばれるのは、相当にむずかしい。もうすぐ研修が始まるが、去年まで出ていた給与が、今年から廃止になった。次女にとっても、受難の時代である。


2010.10.13(水)

 体重は、54.7kgでやっと底を打った。一週間前の尿量検査では一日排尿量が3,600ccだったのが、今日は1,700ccだった。水分の体外排出が正常になったということか。入院生活で硬い椅子に座っている時間が長いので、お尻が痛い。

 厚生省同期の真野章君が、本を持って、来てくれた。他の方からいただいた本もあるので、退院までに読めるかどうか。私が元気で過ごしていることを確認して安心してもらったと思う。それぞれ人生の孤舟に乗りつつあるのかなということ、話したわけではないが、お互いこの年になって、そんなことを考えた。

 チリの落盤事故で、69日目に救出が始まった。33人の作業員が、こんな地底で生き延びて、救出されたことに驚きである。居住環境として、劣悪なものだろうに。暑すぎないのだろうか、寒すぎないのだろうか。衛生状態が保たれているのも、素晴らしい。世界中の目が注がれ、無事が祈られ、具体的援助も寄せられた。一人ひとりの命が大切にされている。そして、今回の救出で、感激した。その同じ時期に、地球上の遠く離れたところでは、無差別テロが繰り返されている。そこでは一人ひとりに名前も家族もないかのように人間が扱われている。何たるコントラスト。


2010.10.12(火)

 入院中はどうしても運動の機会がないので、筋力が落ちることは避けられない。さらにステロイドの影響もあり、筋肉が弱っていく。改めてふくらはぎ、太ももの筋肉がふにゃふにゃになっているのを見て、悲しくもあり、由々しいことだとも思えてきた。今回の入院前には、ふくらはぎもぴっちりと締まって、いい形だったのだが、今は面影なし。退院した後は、散歩をきっちりとして、早く筋肉を取り戻したい。

 「先生とわたし」四方田犬彦著(新潮文庫)を読んだ。先日、姉が持ってきてくれた本の一冊である。東大などで英文学を教えた伝説の知性・由良君美とその弟子である著者との関係を書いたもの。学者とはすごいものだ、なんでこんなに博学なんだろう思いながら読んでいった。小説でなくて評論となっているが、ふつうなら、こんなに興味深くは読まなかったと思う。由良君美先生は、東大教養学部時代の私のクラスの英語の先生であった。副読本に何を使ったかも忘れたが、知的なハンサムで、長い髪をオールバックにし、パイプを銜え、センスのいい背広を着こなし、威厳があった。話し方も理知的で、「この人は、ふつうと違う」とクラスのみんなに思わせる存在だった。そんなことを思い出しながら、ある種不思議な評論を読み終えた。


2010.10.11(月)

 今朝の体重は、55.1kg。昨日から0.9kgの減である。急激減少傾向は、まだ続いている。シャワーの時に身体を見たら、筋肉が落ちて、ふにゃふにゃになっている。ステロイドには、筋肉を減らす作用もあるので、そのせいかもしれない。朝倉医師に、就寝後の頻尿について訊いてみた。昼は尿があまり出なくて、寝てから出るというのは、姿勢のせいかもしれないが、腎臓の尿濃縮能力が落ちているのかもしれない。血糖値が高いと、血液内に水を呼ぶので、今度、夜中の排尿の時に、血糖値を計ってみてはどうかと言われた。

 今日は体育の日。日本人の体力がどうなっているかとか、ウオーキングなどの運動をしている高齢者が増えているといったことが報道されている。身体の状況を見ながら、徐々にではあっても、運動ができるまでに復帰したい。単に健康のためという以上に、身体を鍛えるという動機づけもある。

 出雲大学駅伝を、見にくい画面のテレビで、身を入れて見た。スタートからゴールまで、目を離さずという意味である。早稲田大学が堂々の優勝。ランナーたちの元気さと若さがまぶしい。


2010.10.10(日)

 毎度体重のことであるが、今朝は56.0kg。一日で1.3kg減った。4日間で4.5kgの減少。このままのペースでは、来月末に体重ゼロになる。もちろん、もうすぐ安定するだろうが。

 加藤俊一君が会いにきた。小児科専門ではあるが、骨髄移植、臍帯血移植の第一人者である。ということを、彼が持ってきた「FUTURE 最新・血液内科シリーズ」の「新たな移植医療への挑戦」を読んで、改めて確認した。加藤君と、仙台二高の三年先輩で同じ血液内科医である押味和夫さんが、この雑誌で対談している内容が、興味深かった。加藤君からは、今回も、私の病気の治療状態がどの辺にあるのか、今後はどういった予後をたどるのかなどについて、わかりやすく説明してもらった。結論からいけば、いい線行っているというふうに理解した。勇気づけられる。ありがたいこと。


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