浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

ジョギング日記 3月第2週分          

2011.3.12(土)

巨大地震の被害、刻々と    

 一日中テレビにかじりついて、東北地方太平洋沖大地震の報道を見ていた。「女川町は壊滅状態」、「気仙沼市も壊滅状態」という映像を見て、胸がつぶれる思いである。まずは、生命を守ることであるが、壊滅状態の町の様子を見ると、一体、どうやって復興するのか、気が遠くなる。差し迫って、避難所での生活で、物資が足りない、寒さが厳しい、水が、食料が、医薬品が不足している状態をどうするか。電気やガス、水道といったライフラインも止まっている。病気の人やお年寄り、乳幼児は、特に、どうやってここ数日を乗り越えたらいいのか。

 「3.11以前」と「3.12以後」では、我々日本人全体として、生活も、意識も、社会のありようも、政治のあり方も、大きく変わることを予感する。ともかく、この国難を乗り越えなくてはならない。人間同士の支援と連帯を強固にしなければならない。その過程を通じて、我々日本人の文化の高さ、気高い人間性、不屈の精神、互いの思いやり、そういったものを内外に示していくことには、大きな意義があるし、そうでなければ、この国難は乗り越えられないだろう。「災いを転じて」ということが、振り返って言えるようになる日を夢想しながら、今、それぞれができることを考えなければならない。

 東京電力福島原子力発電所一号機の事故が、大変な事態に発展しそうな可能性がある。なんとか、最小限の被害で済んでくれればいいのだが。祈るような気持ちである。今の時点では、当局による適時的確な情報提供が、最も大事である。

 仙台にいる母や姉たち、多くの友人の無事がまだ確認できていない。なにしろ、電話がつながらない。わずかに、メールで連絡が来た人についての無事を知るのみである。直接話せないと、やはり、完全には安心できない。  


2011.3.11(金)

大地震・大津波    

 午後2時46分、トイレから出て、手を洗おうとしたところで、立ちくらみがした、と思ったら、大きな地震だった。大揺れがかなり長い時間にわたって続いた。早速テレビをつけたら、NHKだけでなく、民放各社もすべて地震の実況中継。宮城県名取市で、津波が名取川を上がってくる様子をリアルタイムで見ていたが、船が流され、車も家屋も流され、ビニールハウスが埋まり、田畑は水浸しになった。じわじわと水が上がってくる様子は、不気味で恐ろしい。

 マグニチュード8.8、観測史上最大の巨大地震である。地震の被害もさることながら、津波の被害がこれだけ大きく、しかも太平洋沿岸の多くの地域が津波に襲われている。これほどの津波被害は、私の中では、記憶にない。これから、被害状況がだんだん明らかになっていくだろう。被害額は甚大であろうし、復興に相当の時間と費用がかかる。官民一体となって、復興に力を合わせていかなければならない。まさに、国難ともいうべき災害である。  


2011.3.10(木)

休息の一日    

 鼻水が出る。喉がいがらっぽい。花粉症かもしれない。仕事への復帰を前にして、少し心配性になっている。どこか具合が悪いわけではないが、散歩は自粛し、午後には短い昼寝で身体を休めた。熱は平熱。夜の頻尿はおさまったが、その代わりに、昼のトイレが多い。このまま大過なく、毎日が過ごせればいい。自重、慎重、ぼちぼちと、自分に言い聞かせる。

 東京空襲から66年目。空襲を体験した人が、テレビの取材に応じて、当時のことを語っている。死亡・行方不明者は10万人、被災者は100万人にものぼった。ほとんどが民間人であり、民間人対象の大虐殺である。アメリカが勝っていなければ、戦争犯罪として裁かれたであろう。この空襲で夫と娘を失い、それから一人で暮らしてきた96歳の女性が、しっかりした言葉で、この空襲の様子を語っていたのが、心に残る。こういった歴史の証人たちも、高齢化が進む。次の世代に、しっかりと語り継いでいくことが必要である。

 昨日までに、「ため息の時間」唯川恵著(新潮文庫)を読む。女性作家が、男性の視点で男女関係の機微を描くのが興味深い。ミステリーのにおいもするが、手馴れた短編集である。続けて「壁画修復師」藤田宜永著(新潮文庫)を読む。主人公は、フランスで壁画修復をする日本人で共通する短編連作。これもミステリーのにおいがわずかにする恋愛小説である。奥方の小池真理子の作品は何十冊も読んだが、藤田の作品は初めてである。妻の作品のほうが優れているという評価があるようだが、いやいや、藤田もなかなかのものである。静謐な感じのする作品だった。


2011.3.9(水)

政治主導と政局三昧    

 日中は気温が上がって、いい天気である。散歩を10分+10分。天気が変わりやすいこの頃、いつまた散歩ができない天気になるかわからないので、歩けるときに歩いておかないといけない。まだまだ足の筋肉のでき具合が不十分である。今が鍛え時。

 主婦年金の救済問題をめぐって、政局がらみの混乱が続いている。厚生労働省の課長通知で示された「救済策」は、総務省の年金業務監視委員会が指摘するように、不公平さは否定できず、新たな救済策を策定しなければならない事態に至っている。こういった混乱を生じさせたのは、細川律夫厚生労働大臣の職務怠慢だとして、その責任を問う声が野党側から投げかけられている。細川大臣の問責決議も視野に入れている。前原誠司外務大臣を辞任に追い込んだ余勢を駆ってということでもあるまいが、野党は大臣の首切り合戦に血道を上げているように見える。こんな政局がらみ、政局三昧で、政策論議が進まないのでは、国益を損なうことはなはだしい。それにしても、今回の年金混乱は、「政治主導」なるものの悪い面が出た結果であり、本質を見誤った「政治主導」はこの辺で終わりにして欲しい。


2011.3.8(火)

「人と会うと人生が変わる」    

 長年の友人である残間里江子さんが新著を出版した。「人と会うと人生が変わる」(イースト・プレス)というタイトルどおり、彼女がこれまでの人生の中で出会った人たちによって、自分の人生がどう変わったかを丹念に書き込んだ本である。「人と会うことが人生そのもの」という思いを貫いてきた残間さんの、山あり谷ありのこれまでの人生が、人との出会いを通して、くっきりと浮かび上がってくる。残間さんほど、多くの友人を持っている人を知らない。とおりいっぺんの友人というのではない。何かを学ぶという姿勢でお付き合いをしているから、相手の人も残間さんに心を許し、生涯の友となるのではないだろうか。現職、元職の知事にも知己は多い彼女が、「知事が友だちになったというのはたくさんあるけど、友だちが知事になったのは、浅野さんだけ」と言っていた。それだけ、長い付き合いということになる。実際の出版は、3月20日だが、それに先立って、いい本を読ませてもらった。

 「人と会うと人生が変わる」ということからすると、病を得てからの2年近くは、人と会う機会が限られていたので、私の人生が変わらなかったことになるが、そうでもない。ATLという大変な病気にならなければ、出会うこともなかっただろう人たちとの出会いがあった。同じような病気を持つ人たちを知ったことは、私の人生を変えた。実際に、どう変わるかは、これからではあるが、そう考えると、病気になったことは、嘆くだけの出来事ではないと思えてくる。


2011.3.7(月)

なごり雪    

 朝食が済んで、応接間で「家守綺譚(いえもりきたん)」梨木香歩著(新潮社)を読んでいた。借り受けた家にまつわる話で、「サルスベリの木に惚れられたり。床の間の掛け軸から亡友の訪問を受けたり。飼い犬は河童と懇意になったり。白木蓮がタツノオトシゴを孕んだり」と、特に、庭の花や木が奇怪な動きをする。それこそ、「綺譚」がまじめに語られている。読み進めて、ふと顔を上げたら、レースのカーテン越しに見える我が家の庭の花木が白くなっていた。読んでいた本の話と符合するような出来事で、ちょっとだけ驚いた。「♪季節はずれの雪が降ってる、横浜で見る雪は最後ねと」いうことになるのか、これからもまだ降るのか。

 梨木香歩の小説は、昨日も読んだ。「村田エフェンディ滞土録」(角川書店)である。これも、奇譚のたぐいであり、不思議な雰囲気の作品である。明治時代に日本からトルコに派遣された考古学者(村田エフェンディ=村田先生)が、奇怪な経験をする。村田は、「家守綺譚」に、トルコから手紙を出す役で登場する。この作家の作品は、この二作が初めてである。筆力は大したものだが、ちょっと変わった作風の作家という印象である。

 昨日も書いたが、前原誠司外務大臣が辞任した。この大事な時期に、これぐらいのことで辞任し、政局のさらなる混乱を招く結果になりかねないのは、なんとも残念である。野党は、こんな形で点数を稼いだ気になっているのだろうか。「よくやった」と国民の熱狂を受けるような行動だろうか。数年前の年金未納問題を思い出す。未納問題を国会で問われた小泉首相が、「人生いろいろ、会社もいろいろ」といった答弁で煙に巻いて、逃げ切ってしまったこともあった。今回の外国人からの献金問題は、政治資金規正法違反に関わることなので、重大ではあるが、事務的なミスの範疇である。野党議員も含め、同じような事務的ミスをしていないかどうか、この際、確認したら、一体どういう結果が出てくるだろう。


2011.3.6(日)

進歩を目指して    

 発疹が、顔や胸、腕に出ている。田野崎医師に各種軟膏を処方していただいて、いろいろ試しているのだが、なかなか治らない。かゆみはそれほどでもないが、顔は発疹だけでなく、全体に赤みがかっている。頭にも、おできのようなものが、できたり、治ったり。GVHDなのか、おできなのか、にきびか、原因がわからないので、対処がむずかしい。手でかかないのが、悪化を防ぐために必要なので、夜は帽子をかぶり、手袋をして寝ている。命に関わるようなものではないのだが、気になることは気になる。

 今日は啓蟄、虫たちだけでなく、人間も穴から出て歩き出す。暖かい光の中、二日続けての散歩、10分+10分。往路の10分で、少しだけ速歩を心がけたら、昨日より30mほど先まで行けた。復路は10分03秒。こういうのを、文字通り「進歩」というのだろう。

 散歩から帰って、今度は、一流ランナーの走りをテレビ観戦。第66回びわこ毎日マラソンのコースは、私も毎年2月開催の「アメニティフォーラム」に泊りがけで参加した際に、早朝に何度か走ったものである。そういえば、薄氷が張っているところで、転倒したこともあったなと、思い出してしまった。レースは、下馬評どおり、キプサング(ケニア)が2時間6分13秒の大会新で優勝。堀端宏行が2時間9分25秒の3位でゴールし、日本人1位となって世界陸上出場が内定した。優勝したキプサングの力強い、疲れを感じさせない走りを見ていると、日本人選手とはモノが違うという感じが否めない。男子に関しては、急激な進歩は見込めないので、日本人選手が世界陸上やオリンピックで上位に入るのはむずかしいだろう。

 前原誠司外務大臣が、外国人から献金を受けたことの責任を取って、辞任の意向を漏らしたという。大臣辞任につながるほどの大失態かというのには、疑問なしとしない。法律遵守に完璧を期すためには、献金を受けるたびに「あなたは日本国籍を持っていますね」と献金者に確認しなければならない。これはこれで、結構微妙な問題でないだろうか。それにしても、こんなことで、またもや政局が混乱することになるのは、やりきれないな。日本の政治は、なかなか進歩しないかの如し。


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