浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

ジョギング日記 6月第3週分          

2011.6.18(土)

タイミングだけの問題ではない    

 雨が降ってこないうちにと、昼前に散歩に出かけた。12分+11分54秒。散歩を終えて、汗で濡れたシャツを取り替え、一息ついたところで、雨が降り出した。結果的には、うまいタイミングであった。

 うまくタイミングが取れないのは、原発事故。海江田経済産業大臣は、原発の緊急安全対策が適切に行われたことを確認したとして、停止中の原発の再起動を地元に要請すると発表した。一方、福島第一原発の高濃度汚染水の浄化システムが停止した。昨夜、本格稼動をしたばかりである。こういった状況であるにもかかわらず、工程表は基本的には変更せず、来年1月までに原子炉を冷温停止にする目標は変えていない。

 福島第一原発がこんな状況であり、事故の原因究明も不十分な中で、「他の原発の緊急安全対策が適切に行われた」ということが言えるのだろうか。この程度の「安全対策」で、再開ゴーとはなり得ない。原発立地の地元が納得しないだろう。タイミングだけが問題なのではない。原発事故の惨状を全世界にさらし、復旧へのメドがついていない状態で、「他の原発は安全です」と簡単に宣言されて、「はい、そうですか」となるものかどうか、よくよく考えてもらいたい。安全性確保の根拠を、国民に対して実態をきっちり示して、理解、納得させない限り、このタイミングでの再開はありえない。


2011.6.17(金)

去り際の花道を    

 朝から、雨降り。午前中は、特に、強く降っていた。2階の窓から、雨が上がるのを待っていたが、なかなかやまない。夕方になって、やっとやんだのを見届けて、散歩に出ようとしたら、家族から「いつ降るかわからないから、やめておきなさい」と教育的指導を受けた。それを振り切って、散歩に出たが、気分が乗らない。ほんの少しだけ歩いて、やめてしまった。こんな日もある。梅雨だもの。我が家の庭に、白い紫陽花。  

 菅首相が、辞めずに、がんばっている。「原発事故、大震災対応に一定のメドがついたら辞める」というのは、実は、論理的に変である。「メドがついた」というのは、原発事故対応に成功したということであるから、そんな実績を挙げた首相が辞める必要はないということになる。「一定のメド」などという、変な言い方を「ふんふん」と聞いてしまうほうも変なんだよ。

 15日に開かれた自然エネルギー普及を目指す超党派議員や民間人による緊急集会で、首相はあいさつに立ち、電力会社に自然エネルギーによる電力の買い取りを義務付けた「固定価格買い取り制度法案」の今国会成立に強い意欲を表明した。「『菅の顔を見たくない』という人も国会にはいる。それならこの法案を早く通した方がいい」と、「菅の顔を見たくないですか」、「菅の顔を見たくないですか」と笑いながら何度も繰り返す場面をニュースで見たが、あれほど上機嫌な菅首相は見たことがなかった。孫正義さんも言っていたが、この人、すごい土俵際の粘りである。でも、この政治情勢の中で、もっと粘れ、粘れと声援をあげる気にはなれない。土俵を下りてからの花道というのも、意識するべきである。


2011.6.16(木)

松沢さん、吉本入りだって    

 雨の降らないうちに、午前中に散歩11分+11分を済ます。「済ます」と書くと、散歩が義務、ノルマのように聞こえるが、実際は、権利ベースの楽しみではある。散歩の帰りに、昨日はビールを買ったが、今日はコンビニでアイスを購入した。アイスを欲するような暑さではないが、その時に備えてということ。

 「前神奈川県知事の松沢成文さんが、吉本興業入り」というニュースに、「えっ、松沢さんがお笑い芸人になるんだって?」と驚いたが、よく聞くと、文化人枠で地域活性化に取り組むらしい。「文化人枠」というのが、よくわからないが、これも一つの生き方として面白そうだ。前知事、元知事がいろいろな方面に転職している。私のような大学教授というのは、少なくないが、そんな月並みな転職でない道を選んだ松沢さんに、注目したい。


2011.6.15(水)

レジュメ作って、DVD見て、ビール飲んで    

 午前中は、授業のレジュメづくりに没頭。授業の終了時に提出してもらう出席カードに、授業の感想や、質問事項が記載されている。まずは、これをじっくり読んで、授業で伝えたかった意図が十分伝わったかどうか確認する。前回の授業は地域主権についてであったが、予想通り、学生の反応がよくない。「よくない」というのは、よくわかっていないということで、それは学生の責任というより、こちら側の説明がわかりにくいからである。どこがわからないか、はっきり言ってくれるのは、とてもいいことで、寄せられた9件の本質的な質問には、丁寧な答を書いた。そうだ、次回の授業で、質問者にこの回答をみんなの前で読ませればいい。この説明を皆で共有すれば、理解がぐんと進むだろう。質問への答を書くのに時間がかかり、毎回のおせっかい「前回の誤字」の指摘でさらに時間がかかる。でも、この作業、決してつまらなくはない。むしろ、楽しんでやっている。

 午後からは、送られてきた「普通に生きる〜自立をめざして〜」のDVDを見る。静岡県富士市にある生活介護事業所「でら〜と」に通ってくる重症心身障害児(者)とその家族の4年間の記録である。利用者全員がお祭りに参加して、喜ぶ場面で泣いた。この感激を一晩寝かして、感想文は明日書くことにする。感想文というか、このDVDの推薦文を頼まれている。「一晩寝かして」というのは、夜は、知的作業やらないことの言い訳である。

 夕方、11分+11分の散歩へ。散歩の帰り、酒屋に寄り道して、ビールを買う。妻の、やや心配そうな目を意識しつつ、夕食に350cc飲む。ビールをこれだけの量飲むのは、2年ぶり。ビールって、こんなに苦かったのかなというのが、2年ぶりの感想。


2011.6.14(火)

出会いにより、若者たちの人生が変わる    

 曇り空で、天気予報では午後から雨ということだったが、降りそうで降らない、そういう天気だった。太陽に照らされて暑くなるよりは、これぐらいが天然のエアコンで丁度いい。そう感じたのは、今日の授業を慶応大学SFCでやっている時。このぐらいの天気でも、教室内はちょっと暑い。これが真夏になったら、エアコンなしでどうなるのだろうと、恐ろしくなった。「政策協働論」の授業は、今回、地域主権について。私自身も地方分権という用語のほうが使いやすいのだが、学生諸君も同じように感じているらしい。用語のことだけではないが、今回は、学生にとってもわかりにくい授業になったようだ。地方分権にしても、地域主権にしても、なぜ、今、その改革をしなければならないのかが、うまく言語化できない。次回は、この辺のところを、もう一度解説をして、何とかわからせたい。学生を教えていると、こちらも鍛えられる。

 4時限の研究会のゲストは、川崎市自閉症協会会長の明石洋子さんと息子の徹之さん。この二人がSFCにゲストで来るのは、4年前に続いて二回目である。学生は、自閉症とはどんな障害なのか、わからない。自閉症と呼ばれる人の話を聴いたのも、これが初めてだろう。そのことを前提に、明石さんは、わかりやすく、そして感動的に伝えてくれた。自閉症が示す多動、パニック、こだわりも、困ったことと考えずに、前向きに対応することによって、本人の特性が生かされる面に気づくべきである。たとえば、こだわりは、集中力、得意なものは徹底してやるということに通じる。そして、自分で選択する力を育てることが大事。徹之さんは、高校に行きたい、公務員になりたいという選択をした。そして、それが実現して、ハッピーな現在がある。そんな明石さんの話を、学生は目からうろこで聞き入っていた。今日の出会いで、君たちの今後の人生が変わるよ。毎回、同じことを言っているのだが、今回は特にそうだ。


2011.6.13(月)

新聞取材    

 新聞休刊日で、朝のテーブルに新聞がない。なんとなく、落ち着かない。我が家の生活には、新聞がしっかり入り込んでいる。ふだんはあまり気がつかないが、休刊日になって、改めて新聞の存在の大きさがわかる。それを気づかせるために、休刊日が設けられているのかもしれない。

 新聞といえば、先週の金曜日の毎日新聞の夕刊に、私のインタビュー記事が載ったらしい。「らしい」というのは、その記事を見ていないから。日浦美智江さんからの電話で知った次第。我が家で記者の取材を受けたことは覚えているが、新聞掲載がこの日であることは忘れていた。いずれ、新聞社が送ってくるはずだと思いながら、記事の内容はともかく、写真がどんなものか、気になる。

 午後から、読売新聞の取材。安田武晴さんがインタビューである。安田さんとは、福祉関係のシンポジウムなどで、何度もご一緒した。旧知の仲なので、取材はとても円滑に進む。「あなたの今後の人生」といった、むずかしいテーマでの話を、安田さんがどうまとめてくれるのか、興味深い。期待しつつ記事のできあがるのを待っている。今度は、掲載日を失念しないようにしよう。  曇り勝ちの天気の中、10分+10分の散歩。途中に速足を入れるせいもあり、散歩を終えると、汗びっしょりになる。


2011.6.12(日)

日曜日に授業    

 日曜日だけれど、慶応大学SFCに限って言えば、今日は火曜日なのである。大震災の影響で、春学期の開始が1ヶ月遅れたことから、夏休みの短縮だけでは、必要授業日数が取れない。そこで、今日の日曜日に、SFC全体として、本来火曜日にやる授業を補完的にやることにされた。2時限の「政策協働論」の出席者は、ふだんの火曜日の6割というところか。「日曜日なのに、授業を受けられるなんて、うれしいことだね」と学生に語りかけたが、強がりのように聞こえたかもしれない。ふだんから、「授業を受けるのは、義務ではなくて、権利なんだよ、特に、私の授業はね」と言っている私からすると、4割も欠席しているというのは、残念だなという気持ちはある。出席者の多少にかかわらず、私としては、学生に「権利を行使してよかった」と思わすような授業をするのみである。

 午後からの「福祉研究会」では、今学期初めて、ゲストのいない授業だった。この授業も、いつもより少ない出席者だったが、机を車座に並べ替えて、それぞれ、この授業を履修することにした動機とか、これまでの授業を受けて強く感じたこと、これからの自分のテーマにしたいことなどを話してもらった。他の学生の考えを知ること自体が興味深いというのが、学生の反応だったが、これでやっとお互いの顔と名前が一致して、親しみが湧いたという効果もあった。病気で休学する前の研究会では、ほぼ毎回、授業終了後に有志の学生を引き連れて、湘南台駅近くの居酒屋で飲み会をやっており、いやがうえにも、学生同士の仲間意識が深まった。今回は、私が感染症に弱い病後状態なので、それができない。次の機会には、私はすぐに席を離れることになるが、引き連れての会を持とうと思う。これが研究会をやっていることの楽しみであるのだから。


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