浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

ジョギング日記 6月第4週分          

2012.6.23(土)

中澤健さんのマレーシア報告   

 午後から、特定非営利法人「アジア地域福祉と交流の会」の通常総会に出席。私が厚生省の障害福祉課長の時に、障害福祉専門官として一緒に仕事をした中澤健さんが、この会の理事長である。15年前、厚生省を辞めて、中澤さんは障害者の地域福祉活動をするためにマレーシアに移住した。この地で、父上が太平洋戦争で戦死したのが、「なぜ、マレーシアで?」の答である。活動を始めたのは、ペナン州。5年前には、ペナンよりさらに辺境の地、ジャングルに囲まれたサラワク州にも活動を広げた。日本でも障害福祉の実践はできたのに、条件としては極めて厳しいマレーシアでの活動に第二の人生を捧げる中澤さんは、ほんとにすごい人である。会の欠席が続いていたが、今日は久しぶりに中澤さん夫妻にお会いできて、感激した。中澤さんのほうでも、元気な私の姿を見て安心し、やはり感激したとのこと。身体状況が許すかどうかだが、今度はマレーシアでお会いしたい。それにしても、彼の地での15年の活動には、ただただすごいことだと頭が下がる。

 「日本近代史」坂野潤治著(ちくま新書)を読む。硬い内容であり、学術書であるのに、これが滅法面白い。今年の3月10日刊行ということで、最新の政治状況のことも記述されている。戦前の政治の中でも「政治主導」が模索されていたし、政権が変わって外交政策の継続性が失われることは、当時から問題点として論議されていた。こういったことが、現在進行中の日本政治の混迷を引用しつつ説明されるのに興味をそそられる。二大政党による政権交代のむずかしさは、当時からのものであり、その要因の説明もわかりやすい。「平民宰相」原敬が、「大正デモクラシー」を代表する政党人というのは、大いなる誤解であるともいう。原敬は、二大政党制と普通選挙制に反対し続けた。現在の民主党の指導者が、尊敬する人物として原敬の名前を挙げているが、彼がこの本を読んだらどう反応するだろう。「歴史から学ぶ」というのは、こういう本を読むと実感できる。


2012.6.22(金)

厚生省同期会   

 昨夜からの雨は、昼には上がった。西日本では、大雨の被害が出ている。今年の梅雨は雨量が多い。今年の梅雨は男性型と言われている。「どかっと降って、さっと上がる」男性型に対して「しとしとと、じめじめといつまでも降り続く」女性型という分類らしいが、現代の男女の違いを反映していないのではないか。そんなことはどうでもいい。被害に遭われた方々に、心からのお見舞いを申し上げたい。

 民主党内の混乱は、党の分裂、新党立ち上げまでいきそうな雲行きである。小沢一郎氏は、政党を作っては壊しが得意。新生党、新進党、自由党、そして今回の民主党。まさに「壊し屋」の異名に違わぬ動きである。昨年の菅首相不信任案「騒動」の時から、いずれ小沢氏がこういう動きに出ることを、周りはわかっていたはず。「もう、どうにも止まらない」の山本リンダ状態である。

 夜は、厚生省昭和45年入省同期会がKKRホテル東京で。幹事の真野章君のおかげで、今回は10人もの参加があった。犬飼健郎弁護士は仙台から、尾藤廣喜弁護士は京都からの参加である。一人一人、近況報告をしてもらった。8時には失礼する予定が、近況報告が長引いて、全員分終わったのが9時。あわてて「門限です」と出てきてしまったが、私としては、十分に楽しい時間だった。入省してから42年、ずっと同期として一緒だった。その仲間が、一年に一度、こうやって集まるのが楽しくないはずがない。「君たちがいて、僕がいた」の舟木一夫の歌がつい口に出る。


2012.6.21(木)

大荒れ警報下の民主党   

 一年で一番日が長い夏至、今日の散歩は、17分+16分23秒。このところ、短い時間で切り上げていたが、それも今日まで。本来は、40分は歩かないといけないのだが、そういう杓子定規はやめよう。適当でいいんだと思うことが大事。続ける秘訣はこれだと思う。

 午前中に、「シローと夢トーク」の7月分の収録。5回分を一気に完成した。「シローの選んだベスト25」というのを、五回に分けて紹介というスタイル。選曲は済んでいるので、収録は簡単。これは仕事ではなくて、趣味の世界である。  午後からは、来週の「政策協働論」のレジュメづくり。前回の「官僚制とマネジメント再訪」の授業に関しての学生からの質問に、丁寧に文書で答える部分に時間を要する。レジュメにして2頁以上にわたっての回答になるので、時間がかかるのは当然。次回のテーマ「選挙の実態と課題」の部分のレジュメを完成できなかった。残りは、明日の課題。

 台風4号が足早に過ぎ去ったところに、今度は台風5号が接近。西日本、東海地方に大雨をもたらしているのは、台風によるものではないが、日本列島大荒れ模様である。大荒れなのは、国会も同じ。国会というよりは、民主党内の大荒れだから、始末が悪い。政策論議を装った政局づくりで、党内に混乱を起こしている。野田首相の政策の進め方も問題なしとしないが、少なくとも、この混乱の原因メーカーではない。「どっちもどっち」といって切り捨てるのはまちがいだろう。さてさて、法案の採決はいつになるのだろう。その結果がどうであれ、混乱には一定の決着をつけることにはなる。


2012.6.20(水)

ぼけたかな   

 台風一過、朝から青空が広がる。風が強い。よって、今日の散歩は中止。風が強いという理由での散歩中止はあまりないことだが。  SFCでの授業は「未来構想ワークショップ」。梅雨の晴れ間、昨日の大雨降りで、緑がさらに鮮やかに目に入る。こういう日にSFCのキャンパスに行くのは、それだけで心弾むことである。授業は、3週間後に成果発表を控えて、グループワークに熱が入る。準備が間に合わないとあせりが目立つグループと、順調に研究が進んで余裕が見られるグループと、二極分化の様相である。どちらも、あとひと踏ん張り。頑張って欲しい。

 大学への行き帰りの電車の中で、「夕映え天使」浅田次郎著(新潮文庫)を読む。読み始めてすぐに、「どうも、前に読んだかもしれない」という気になった。短編集の一作目「夕映え天使」でその疑い、二作目の「切符」では確信に変わった。奥付を見ると、この本の発行日は「平成23年7月1日」である。同じ本が書棚に見当たらないのだが、前に読んでから1年経っていない。そんな最近なのに、なんで同じ本を買ったのだろう。「加齢化に伴う現象」で「ぼ」で始まる症状であることを認めなければならない。

 帰宅して、来週の「未来構想ワークショップ」で使う資料を作成。こんな作業が手早くできるのだから、決して「ぼ」ではない。そう信じたい。


2012.6.19(火)

台風接近の夜に    

 朝の散歩は、ちょっと変化をつけて、3分速歩―3分遅足の繰り返しで、12分+12分。ランニングでいえば、スピード練習のようなもの。スピード練習は、かけるストレスに強弱をつけることによって、運動能力の向上を図るもの。私とすれば、別に、運動能力の向上を図る必要性も、そのつもりもない。ただ、だらだら散歩を毎日続けているとマンネリ化して、刺激がなくなるので、やってみただけ。結構、面白いかも。

 台風接近の中、SFCでの授業へ。「政策協働論」の2回前の授業で扱った「官僚制とマネジメント」の理解が足りないのを察知していたので、今日の授業では「官僚制とマネジメント再訪」ということで、もう一度説明を繰り返した。授業の最後に、「ある官僚経験者のホンネ」ということで、23年7ヶ月の官僚生活経験から、官僚であることについて、ホンネトークをした。意外にも、これが大変受けた。というか、「これを聞いて、官僚制の理解が進んだ」という反応だった。なるほど、そんなもんか。

 午後からの「障害福祉研究会」のゲストは、NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)の久永文恵さん。精神障害者が地域で暮らすために必要なサポートを、医師、看護師、臨床心理士、ソーシャル・ケースワーカーなどからなるチームで行うACTという活動について、詳しく、わかりやすく説明を受けた。ACTは、日本では始まったばかりで、まだ全国で十数カ所で行われている段階である。それにしても、そのコンセプト、方法論、関わっている人たちの熱意など、いちいち感心してしまう。またまた、学生の目からウロコ。私の目からもウロコ。新しい試みを知ると、ついワクワクしてしまう。久永さん、お忙しい中、台風の大雨にもかかわらず、遠いところ(千葉県市川市)からおいでいただき、ありがとうございました。

 首都圏を台風が直撃かも。こんな暴風雨の中でも、民主党の議員たちは、消費税増税反対、「法案採決するな」と夜通し議論するのだろうか。議論は切り上げて、早くおうちに帰ったほうがいいと思うんだけどな。帰宅時に台風に直撃されるのではないかと、心配しています。


2012.6.18(月)

偽装の国、無責任の牙城    

 朝は曇り空。その中を軽く12分+12分の散歩。午前中に、近所の美容院で髪のカット。こんなわずかな髪でも、料金は変わらない。髪の毛は増えないが、既存の髪は伸びる。髪の毛が少ないのに、長いままになっているとみっともない。もっと言えば、ハゲが目立つ。合わせ鏡で頭の後ろの様子を確認。そのあまりのスキスキ具合にがっくり。復興までは、まだまだ時間がかかりそう。

 美容院終わったら、ちょうど昼の時間。思い立って、近所のつけ麺の店に。この店は、いつも客が並んで待っている。よほどの人気店だろうと気になっていた。つけ麺初体験の光子と一緒に、つけ麺(800円)をいただく。なるほど、日本そば同様、つけ汁がかなりしょっぱい。麺はラーメンとは違う感じで相当に太い。味は、まずくはないが、とびきり美味いわけでもない。「いつかは行ってみないと」という義務を果たしたというところ。

 「偽装の国―日本の聖域」「選択」編集部編(新潮社)を読む。帯の記載を引用すれば、「背徳、利欲、癒着に偽善、『鉄面皮』たちの不透明な正体を暴く」、「国の中枢で『甘い汁』に群がる者たちの見えざる正体。無責任の牙城と堕した役人の園、特定の人間のためにのみ機能する公機関、破綻後も存続する奇っ怪な制度」とある。槍玉に上がっているのは、東海道新幹線、日本赤十字社、NHKと相撲協会、原子力村などに加えて、厚労省薬系技官、児童相談所、公安調査庁など、役人や公的機関も。「さもありなん」というのは、役所にいた人間としての感想。「なんとかしなければ」と義憤を持つのも、役所出身だからこそ。月間「選択」を定期購読しているが、視点が明確で、大衆すりよりでない、かなりまともな論評が多い媒体として評価している。本誌で連載中に読んだものもあるが、こうやってまとまった形で読むと、改めて「偽装の国」という表現が大げさでないことがわかる。「そこで跋扈するのは誰なのか!」  

 続けて、「くにおの警察官人生」斉藤邦雄著(共同文化社)を読む。斉藤さんは、北海道警察のOBで、同じくOBの原田宏二さんに続いて、道警の犯罪捜査報償費の裏金作りを内部告発した。原田さんは、先月、SFCで特別講義においでいただき、「警察はこれでいいのか」という内容のお話で、学生を驚かせた。宮城県知事時代に、県警の犯罪捜査報償費問題に取り組んだ私としては、原田さん、斉藤さんを同士と思っている。斉藤さんの本を読んで、改めて警察組織の罪深さに思い至る。犯罪を取り締まるべき警察が、組織ぐるみの犯罪を犯してどうするんだろう。「偽装の国」どころの話ではない。


2012.6.17(日)

「一体」改革とは、一体なんだったのか   

 朝方は雨模様だったので、散歩に出ず。これで2日連続でお休み。のんびり日曜日で、「ハッピイ・リタイアメント」浅田次郎著(幻冬舎文庫)を読む。仕事がまったくない団体に天下りしたノンキャリアの二人が、秘密のミッションを成功させる物語。ストーリーは荒唐無稽、冗談一杯で、笑いながら読み進める。笑えないのは、そこに描かれている天下りの実態が、まったくの嘘ではないこと。今週のSFCでの授業「政策協働論」では「官僚制とマネジメント再訪」を扱うが、この本は副読本として適当かもしれない。浅田次郎は、まじめな「壬生義士伝」、壮大なスケールの歴史物「蒼穹の昴」、「中原の虹」、泣かせる「鉄道員(ぽっぽや)などの短編」、抱腹絶倒のエッセイ「勇気凛々瑠璃の色」、適当にまじめなエッセイ「ま、いっか」など、実に幅広いレパートリーの作家である。どれを読んでもはずれがないということでは、当代一流だろう。

 「税と社会保障の一体改革法案」について、民主党と自民党・公明党の間の合意ができて、いよいよ今週中にも採決ということになるらしい。民主党内でも「増税反対!」と気勢を上げている議員が多数いる。

 最終局面で、なぜにこんな混乱が起きるのか。その原因は、単に「消費税増税」でいけばよかったのに、「社会保障との一体改革」としたことにある。「一体」である根拠も実態もない。「まやかしだ、後で舌噛むよ」と一年も前から指摘しておいたのだが、やはり、ここに来て思いっきり舌を噛んでしまった。つまり、辻褄が合わない、説明ができないということ。根っこは、政権が国民の知性を信頼していないというか、甘く見ているところにある。社会保障の充実のためにといった「おためごかし」を持ち出さずに、「今、この局面で、どうしても消費税の増税が必要なんだ」と説けば、国民はわかってくれたはず。実際に、国民はわかっている。ということは、「社会保障との一体改革」がまやかしだということも、うすうす以上に勘付いているということ。

 悲願の消費税増税法案が通りそうなので、結果オーライとして、野田首相は海外からも手腕を評価されているようだが、その過程で残した傷口は大きい。簡単に言えば、政治不信という傷である。


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