浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

ジョギング日記 2月第3週分          
2013.2.16(土)

「成長戦略」検討の行方  

 「アベノミクス」の三本目の矢は「成長戦略」である。これを政府だけで進めるのは自信がないのか、知恵が足りないからなのか、お決まりの「なんとか会議」を設けて「戦略」を打ち出そうという。「なんとか会議」は二つ、「産業競争力会議」と「規制改革会議」である。産業競争力会議から、妙案が飛び出すだろうか、それを政府がきっちり取り上げるだろうか。議論が始まったばかりなのに、その行く末を懐疑的に見ている私がいる。

 「規制改革会議」が検討する「規制改革」は、今に始まったことではない。規制緩和により、例えば、タクシー業界の過当競争による安全性へのしわ寄せ、運転手賃金の低下といった「副作用」も出てくる。既得権を守る側から、規制緩和への強力な反対の動きが出てきて、つぶされる例をたくさん見てきた。今回の「検討」でも、そうならない保証はない。

 規制改革については、「規制改革会議」とは別に、薬ネット販売のあり方を検討する会議が、厚生労働省に設けられた。「何を今更」という感がある。病気する前の2009年3月、この問題について、厚生労働省でヒアリングがあり、私も出席して「厚生労働省はおかしい。ネット販売を認めるべきだ」との意見を申し述べておいた。薬事法では、第一種医薬品の販売では薬剤師の説明が義務づけられ、「対面販売」が原則と規定されているが、第二種医薬品、第三種医薬品では対面販売は義務づけられていない。ところが、省令では「第三種医薬品以外は、ネット販売は禁止」とされている。この件については、先月、最高裁の判決があり、ネット販売の一律禁止を定める省令は、薬事法に根拠規定がなく違法とされた。そもそも「勝負アリ」なのである。この規制があるために、近くに薬局がないとか、障害や病気のために薬局に行くのが困難な人たちにとっては、ネット販売は待ち望まれている。こういった状況にあるのに、規制が撤廃できない。規制緩和は容易でないことの実例である。大山鳴動して、ネズミが何匹出るか、「規制改革会議」の「規制緩和」の提案が出された後に、「事務局」の手でうやむやにされないか、期待半分、懸念半分で見守っていきたい。


2013.2.15(金)

「abさんご」  

 ひさびさにこうにゅうした「文藝春秋」、ふだんははんぶんほどひろい読みをするぐらいなのだが、こんかいはほとんど読みつくした。読みつくしたなかには、第148回芥川賞をじゅしょうした「abさんご」(黒田夏子)がある。芥川賞じゅしょうさいこうれいの75歳、よこがき、ひらがなをたようするぶんたいと、わだいづくしのさくひんである。島田雅彦氏の選評に「黙読より音読を求めるテキスト」とあったので、読み手はぜんぺんおんどくした。父と娘のひめやかなおもいでが、たゆたうようなリズムで書きつづられている。おんどくするからこそ、そのおんがくせいがじっかんできる。(この段落だけは、黒田さんの文体で書きました)

 「五輪からレスリング除外」は、北朝鮮の核実験や、中国艦艇から火気管制レーダー照射事件と同じぐらいの衝撃なのだろうか。今朝の朝日新聞一面トップはこの記事である。確かに、レスリング協会としては、大きな衝撃である。テコンドー、近代5種が残って、レスリングが排除というのは、どう考えてもバランスを失している。泥縄的ではあるが、日本だけでなく、ロシア、アメリカ、トルコ、イラン、キューバも黙っていない。猛烈な巻き返しが展開されるだろう。スポーツの世界にも、政治が持ち込まれそうな様相である。この機会にIOCの運営の不透明さを糺すことになれば、意味がある挑戦であろう。「五輪はまさにレスリングと陸上競技から生まれた」のだから、ここは正々堂々と正論で「逆転勝ち」を期すべきである。9月のIOC総会では、レスリング残留を決めて欲しい。


2013.2.14(木)

バレンタインデイの衝撃  

 今日は、バレンタイン・デイ。とはいっても、国民の祝日ではない。年に一度の書き入れ時と、チョコレート業界にとっては、うれしい祝日、祝うべき日であることはまちがいない。

 アベノミクは、はたしてうまくいくのだろうか。ともかく、「三本の矢」でやるぞと宣言したとたんに、円安が進み、株価は上昇した。「インフレ目標2%」というのは、日銀が政府によって無理やり押し付けられて、いやいや従った政策のように見えたのだが、これはどっちが正しいのだろう。デフレは(適度の)インフレより悪いので克服すべきものというのは、なんとかわかるが、ではどうやってインフレにもっていくのだろうか。アベノミクスで景気回復はできるのだろうか。そんなことがよく理解できない。

 という問題意識もあって、「アメリカは日本経済の復活を知っている」(講談社)を読んでみた。冒頭に、「バレンタインデイの衝撃」が出てくる。2012年2月14日、日銀は1%のインフレ「ゴール」を設定した。白川方明日銀総裁は、著者の浜田宏一イェール大学名誉教授の優秀な教え子である。浜田教授は、「1%は中途半端」と思いながらも、「少しは白川君もわかってきたか」と期待したが、その後、これが「義理チョコ」でしかなく、しかもそれは「あげるフリのみせかけ」だったと痛感することになった。著書では何度も、「日銀理論はまちがっている」と繰り返す。

 結論は単純である。インフレ・ゴールと買いオペ(中央銀行による市場への通貨放出)は株価上昇、円安をもたらす。「これは、国際金融論の最初の授業で学部生に教えること」であり、経済学の常識であるという。金融緩和で貨幣量を増やし、円安になれば、企業の競争力は増大し、景気も上昇するという図式に誤りはないと主張する。

 「なるほど」とわかった気になったところで、今月号の「文藝春秋」で榊原英資教授と若田部昌澄教授の討論「金融緩和、脱デフレは正解か」を読んでみた。榊原教授は「なぜ物価を上げなければならないのかわからない」、「インフレターゲットに違和感あり」と言っている。議論はそう単純ではないのかなと、ちょっと思い直した。どっちの理論が正しいのかは、いずれ、実態が示してくれる。その時を待つとしようか。


2013.2.13(水)

安全保障上の深刻な事態  

 テレビのニュースでは、列車事故、無差別襲撃、ストーカー殺人が報道されている。兵庫県高砂市の山陽電鉄の踏切で、特急電車がトラックと衝突脱線した事故で、運転士が重傷を負ったほか、13人が軽傷を負った。グアムの繁華街での無差別襲撃事件で、日本人観光客の女性2人が死亡したほか、多数の負傷者が出た。長野県飯田市では、伯母につきまとうストーカーの巻き添えで甥が殺され、犯人は自殺という事件もあった。みんな血の匂いのする事件であるが、血の匂いはしないが、それよりもっと深刻な国際的事件が次々と起きている。

 そのひとつが、中国海軍の艦艇から日本の海上自衛隊の護衛艦への火気管制レーダー照射事件である。政府は中国政府に厳重に抗議をした。中国外務省は、最初は「知らない」といっていたが、その後、「日本の情報はでたらめ、レーダー照射の事実はない」と否定した。中国側の信じられないような対応ぶりに、政府も国民も、驚き、あきれ、怒る。

 そんな事件が些細なことに思えるほどの衝撃が、北朝鮮の核実験である。核保有国として認められることこそが、今や、北朝鮮の既定路線になっているのだから、全世界を敵に回そうが、厳しい制裁を課されようが、お構いなし。既定路線を進むことしか考えていない国に対して何ができるか。北朝鮮の現体制が倒れるのが先か、暴発が先か、そんなことまで考えなければならないほどの危機的状況である。

 日本としては、中国、北朝鮮、どちらに対しても、他の国と連携しながら、冷静ではあっても断固たる対応をとり続けなければならない。我が国の安全保障が危機にさらされている。

 そんな国際情勢はあっても、日常生活に大きな異変はない。午後から、新橋第一ホテルにて堀田力さんとの対談2時間を無難にこなす。全日本社会貢献団体機構の年間報告書の冒頭を飾る企画である。堀田さんの卓抜たる発言引き出し術に乗せられて、障害福祉課長時代、宮城県知事時代のエピソードを語った。闘病の経過、慶応大学での様子は、こちらから話をさせてもらった。まとまらない話を対談風に編集するのに苦労するだろうなと、当事者はまるで他人ごとのように案ずるものである。


2013.2.12(火)

北朝鮮の核実験実施  

 NHKの国会中継で、衆議院予算委員会の質疑を聴いていた。維新の会代表の石原慎太郎議員の2時間近い質問をじっくり聴かせてもらった。中国を支那と呼び、三木というバカ首相とか、社会党のバカどもとか、相変わらずの乱暴なもの言いには、いまさら驚かない。ただ、耳に快いものではないと思うだけである。質問というよりは、演説であるが、さきの戦争は日本が悪いのではない、尖閣諸島の実効支配のために灯台やふなどまりを整備せよ、迎撃ミサイルを皇居前広場に設置せよといった主張をしていた。質問内容も、安倍首相は現憲法を破棄したらどうか、天皇に靖国参拝を進言したらどうかといったものであった。こんなことを国会で主張するために、東京都知事を任期途中でやめて、国会議員になったのだろうか。維新の会がいずれ政権をとった暁には、代表の石原氏は首相になるが、石原政権としては、今日の質問で提案したことを自ら遂行することになるのだろうか。現在の維新の会のメンバーは、そういった政権構想に賛成なのだろうか。党の代表の主張は、党内意見も踏まえたものであるべきなのは、政治の常識だと思うのだが、このてんも疑問である。

 石原議員の質問の直前に、「北朝鮮が核実験実施の可能性」というニュースが飛び込んできた。その後、北朝鮮が正式に地下核実験を成功裏に実施したと発表した。以前には、「アメリカの早合点だ」と声明を発したり、核実験施設を撤収する動きをしたり、三ヶ月前のミサイル発射のときと同じように、各国に揺さぶりをかけた。その一方で、実施前日に、アメリカ、中国には事前通告をしていた。いずれも、小手先の「戦術」である。どうあろうと、これで北朝鮮は、中国も含めて全世界を敵に回したことになる。国連安保理が動く。日本は独自制裁を課すだろう。アメリカも黙っていない。北朝鮮問題は、新しい次元に進んだことはまちがいない。


2013.2.11(月)

PC遠隔操作男を逮捕  

 建国記念の日の祝日。「雲に聳(そび)ゆる 高千穂の 高根おろしに 草も木も なびきふしけん 大御世(おおみよ)を 仰ぐ今日こそ たのしけれ」(高崎正風作詞 「紀元節の歌」) 今年は紀元2673年である。2673年前、神武天皇が橿原宮にて即位した日が日本国建国の日とされている。全国各地で祝賀行事は行われるが、国を挙げての大々的な式典がないのはどうしてだろう。

 なにはともあれ、岸根公園は父親と遊ぶ子どもたちで一杯である。「今日もお父さんの仕事がお休みなのはどうしてだろう」などと深く考えるまでもなく、子どもたちは元気に走り回っている。この子たちの行く末に幸多かれと願いながら、散歩している65歳の老人が一人(私のこと)。

 PC遠隔操作の男が逮捕された。逮捕のきっかけは、メモリーカード入りの首輪をつけられた猫。姿を見せない犯罪者が、江の島の広場に姿を見せて、猫に首輪をつけたのが大失敗だったということになる。こういう失敗がなければ、片山祐輔容疑者は逮捕できなかっただろうから、捜査する側としては、危ういところだった。人を傷つけたり、金品を奪ったわけではないが、PC遠隔操作による犯罪に陰湿さを感じる。捜査の攪乱で、誤認逮捕が4人も出たことも、忘れてはならない。同じような犯罪の防止のためにも、捜査陣としては、犯人に負けないIT知識に習熟した専門家を育てなければならない。それにしても、今回は犯人が捕まってよかった。ほっとした。


2013.2.10(日)

東京電力の愚挙  

 「ぷれジョブ藤沢」の定例会でcafe KO-BAへ。小田急線長後駅東口から徒歩5分。暖かい陽気の中歩いていったが、気持ちがいい。ここで、「ぷれジョブ藤沢」第2号の武藤俊樹君が毎週日曜日9時半から1時間、ジョブサポーターの小林恵里菜さんに見守られながら、お手伝いしている。定例会には、俊樹君、ジョブサポーター代理の林圭佑君、お店のオーナーの小林春代さんの主役三人が出席。そのほか、第3号(予定)の事業所の深澤正司さんご夫妻、ジョブサポーター候補の奥野さん、俊樹君の母親の靖子さん、事務局の内海智子さん(第一号の隼吾君の母親)、オブザーバーとして、脇礼子さん(藤沢市議会議員)、新保隆さん、鈴木暢さん(ハートピア湘南所長)、第α号候補事業所の高田浩暢さんの代理の佐藤水南さんが出席。cafe KOBAの店長の中新田久仁子さんも、その場で発言してくださった。簡単な活動報告のあとは、今後の計画について意見交換。活動は茅ヶ崎市にも広がりそうだし、面白くなってきた。

 東京電力が、国会事故調査委員会に「原発1号機の建屋内は真っ暗」と嘘の説明をして現地調査を妨げた問題で、東電は「事実を誤認して説明してしまった」と釈明していたが、その釈明自体が嘘だということがわかった。つまりは、事故調査委員会の現地調査を避けるために、意図的に虚偽の説明をしたということである。危機管理対応としては、最悪のパターンである。危機管理の過程で真実の隠蔽がなされ、その隠蔽工作が露呈してしまう。取り返しのつかない愚挙である。組織が自らの不祥事に対応する過程で隠蔽工作をし、それがばれてしまう事案を、何度も見てきた。もともとの不祥事を一次災害とすれば、隠蔽工作の露呈は二次災害である。一次災害は過失によるものであっても、二次災害は故意によりもたらされたものであり、犯罪的ですらある。「東京電力は平気で嘘をつく組織であり、信頼できない」という見方が定着してしまう。その意味では、今回の虚偽説明は重大である。東京電力は、組織を挙げて、反省しなければならない。ごめんなさいで済む問題ではない。


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