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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2003/1/14
http://www.asanoshiro.org/                  第71号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「障害者支援費制度の抱える大きな問題」(浅野史郎)

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> [週刊コラム・走りながら考えた] <

 ○「障害者支援費制度の抱える大きな問題」(浅野史郎)

 障害者施策における支援費制度は、障害者本人はもちろんのこと、関係者
の大きな期待を担って、いよいよ今年の4月から実施されることになってい
る。「大きな期待」というのは、大きく二つある。これまでは、いわゆる措
置制度の下で、障害者へのサービスは、行政の判断により、いわば押し着せ
の形で実施されていた。支援費制度では、それが転換されて、障害者自身の
選択により、サービスを受けることができるという形になる。さらに、施設
サービスに比べて、在宅サービスが重視されるという方向も示された。

 しかしながら、ここにきて、この期待が大きく裏切られようとしている。
サービスを障害者が選ぶことができるといっても、サービスを供給する主体
が育っていなければ、絵に描いた餅である。実施主体になる市町村のエリア
において、在宅サービスのメニューをほとんど持っていないところが、大多
数にのぼる。これでは、選ぶなどということは、とてもできない。お金を持
たされても、店にモノが置いていないのでは、買い物はできないということ
に似ている。

 このことは、事前にある程度予測はできた。基盤整備は、一朝一夕にはで
きないことは、関係者にも理解はできる。理解ができないのが、支援費単価
の決め方である。居宅生活支援費の中で、グループホームの単価は、5ない
し7名定員の場合には引き上げられると期待していたが、これが現行水準に
止まる。ショートステイ、デイサービスの単価も、現状水準に止まり、一部
メニューでは引下げがある。

 さらには、ホームヘルプサービスに利用限度額が設けられようとしている。
支援費制度においては、サービス利用の上限は設定されない方針が打ち出さ
れていたが、これが変更される可能性がある。

 関係者の中に、最も大きな憤激を誘っているのが、障害者ケアマネジメン
ト関連事業を一般財源化しようとしていることである。「障害児(者)地域
療育等支援事業」というのは、施設にコーディネーターを配置し、地域で生
活する障害児・知的障害者のために、さまざまな援助をする事業である。個
人的なことを言えば、今から15年前、私が厚生省障害福祉課長の時に、制
度化した施策である。この事業と身体障害者のための「市町村障害者生活支
援事業」を、唐突に一般財源化するという。全日本育成会をはじめ、関係団
体などが、これに対して各地で抗議集会を展開する動きがある。それほどの
インパクトをもって受け止められているということである。

 もうひとつ指摘されなければならないのが、新障害者プランの中身である。
在宅サービスを充実させるという、明確なメッセージを打ち出さなければな
らないこの計画において、それが見えない。たとえば、知的障害者のグルー
プホームの整備目標値は、近年の増加ペースを下回るものとしてしか示され
ていない。これでは、在宅サービス重視とはとても言えない。

 なぜ、こんなことになったのであろうか。国で、政策の策定にあたる責任
者に、これからの障害者福祉をどういう方向に進めていくかについて、明確
なコンセプトがないからであろう。関係者の生の声を聞いていない、聞こう
ともしていないからではないか。関係者の中でも、障害を持った本人の声に
耳を傾けようとしていない。そんな機会があったとしても、タイミングを逸
している、いわゆる「アリバイづくり」でしかないのではないか。

 先日、仙台で開催されたセミナーに参加し、そこで知的な障害を持つ本人
の意見発表の場に同席した。本人が、公式の場で意見発表をすることは、
10年前にはほとんど考えられなかった。今回の支援費制度の進め方につい
ては、本人たちのグループによる抗議集会も持たれている。これも含めて、
大きな様変わりである。

 その場で買い求めた本のタイトルは、「もう施設には帰らない――知的障
害のある21人の声」(中央法規)というもので、そこには、本人による入
所施設拒否宣言のようなものが、支援者の聞き取りという形で示されている。

 支援費制度は、こういった人たちの希望に応える絶好の機会であったはず
である。それが、むしろ、障害者福祉に使う財源を削減する手だてとして使
われようとしているのではないか、そんな疑念すら浮かんでくる。

 国レベルで障害者福祉の政策を考えるポストに、たまたま感受性、責任感、
想像力、実行力という点で、疑問符がつく行政官がいたがために、全国の障
害者及び関係者がとんでもない被害を受けるということがあっていいのだろ
うか。こんなことなら、障害者福祉は、財源も含めて、都道府県レベルでの
仕事に純化していくべきであるという議論に、圧倒的な論拠を与えることに
なるであろう。

 これからの推移もある。ここで結論を出してしまうことは、まだ性急過ぎ
るのかもしれない。まだ間に合ううちに、正常化に向けて、できる限りの努
力をする余地がある。ともかく、支援費制度を、その制度が本来実現しよう
としていた目標を達成するためのものにするために、今の時点でやるべきこ
とがあるような気がする。

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 今年の目標が決まりました。「夢を追い続けること」です。あえてシンプ
ルなものにしました。昨年が仕事に追われてしまった一年だったからです。
 皆様にとっても、今年がすばらしい一年になることを願っております。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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