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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2003/5/13
http://www.asanoshiro.org/                  第88号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「有事法制」(浅野史郎)

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 ○「有事法制」(浅野史郎)

 有事関連3法案は、自民、民主の修正協議がなされているが、その落ち着
き先がどうなるか。そして、法案が今国会で成立するかどうか、成立すると
しても、どういった内容で成立するか、最終局面に入っている。

 民主党の主張は、テロや大規模災害を含む緊急事態に対処する基本法とし
て、緊急事態対処基本法の制定が必要であること、武力攻撃事態対処法の中
に、基本的人権の保障についての規定をおくべきこと、国民保護法制の整備
まで施行しないことが中心になっている。

 こういった論点について語る前に、私の立場を明確にしておかなければな
らないだろう。私は、有事関連法案は、早期に成立させて、武力攻撃という
緊急事態に対処できる体制を整えておくことが必要であると考えている。そ
もそも、危機管理の要諦は、危機は生じ得るということを前提にして、そう
いった事態に至った際の対処方策を事前に備えておくということである。武
力攻撃はおきてはならないということと、武力攻撃はおきないということと
は、当然ながら、まったく別物である。この辺のところが、混同されている
のではないかと思ってしまう論調もないわけではない。

 原子力発電所の事故のことを思い浮かべてしまう。宮城県にも、東北電力
の女川原子力発電所が稼動している。女川町などで、原発事故を想定した災
害訓練を実施することが躊躇されていた時期があった。災害訓練をするとい
うことは、事故が起こり得るからだ、だったら、「原子力発電所は、絶対に
安全だ」ということと矛盾するのではないか、そういった「議論」があった
からだという。そういった議論があるから、訓練はしない、できないという
ことにはならない。まさに、危機管理というのは、事故にしても災害にして
も、「絶対に起きないということはない」ということを前提にしているので
あるから、訓練をする、非常事態に対処する体制を整えておくというのは、
当然のことである。

 武力攻撃事態への備えも同じことである。有事法制があろうがなかろうが、
武力攻撃という事態は起こり得る。有事法制があると、武力攻撃を誘発する
という議論も聞いたことがあるが、そんなことはない。有事法制がない状況
下で、わが国に対する武力攻撃がなされた場合、攻撃を受けたこちら側が何
もしないでいるということはあり得ない。国民の基本的権利を一時的に制限
するような行為も、行わざるを得ないであろう。その際に、何もルールがな
いという状況では、権利侵害がどこまでいくか、いわば歯止めがきかない。
国民の保護に関する法制を含む有事法制は、そのための歯止めの意味もある。
国民の権利を制限するにしても、一定の枠をはめる、必要な手続きをあらか
じめ決めておく、そういったことは、絶対に必要である。

 それはそうとして、武力攻撃事態対処法が必要であるということと、その
法律を、現在の日本が的確に運営することができるということとは、別物で
あることも、改めて認識しておかなければならない。「武力攻撃事態」とは
何かという定義の問題ではなく、適用の問題である。つまり、某国がわが日
本を標的に攻撃準備をしているということを、一体どうやって察知するのか、
そしてその脅威が具体的なものなのかどうかを、誰がどうやって判断するの
かという問題に行き当たる。

 現在の日本の軍事的な能力と、情勢判断能力とを勘案すれば、結局は、上
記の判断は、米国に依存するしかないのではないか。そういった疑念が晴れ
ない。わが国の武力攻撃事態対処法を適用するためのスタートボタンを押す
という、まさに最初の部分で、その判断を米国に依存しなければならないと
いうことは、法律の一大欠陥とまではいかないまでも、大きな問題である。
まずは、早急にこの点の改善を図る必要がある。

 「改善」などという甘い表現で言っているが、つまりは、主権国家として
の根幹に関わる部分である。軍事情報の提供という、いわば技術的な事項に
ついては、ある程度米国に依存することはあったとしても、そうやって得ら
れた情報に基づいて、それが「武力攻撃事態」であるかどうかの判断につい ては、主権国家としての日本が独自にやらなければならない。そういった判 断のプロセスがどうなっているか以前に、そういった判断までも米国任せに することなく、自分たちでしようという覚悟が、今の日本に明確にあるのか どうかが、問われているのかもしれない。  こういった論点も、一方において頭に入れながら、有事法制のありように ついて、自治体としての立場で真剣に考えていかなければならない。国民保 護法制は、やはり、武力攻撃事態対処法案と一体ということであろう。つま り、同時施行が基本と考える。確かに、国民保護法制は、そのための体制を どうするかも含めて、内容をどうするか、まことにむずかしいものであると は思うが、ある程度の枠組みの策定までは、しておかなければならないもの と考えている。 ____________________________________________________________________ > [お知らせ] <  ○メルマガ登録者、相互リンク募集中です。  多くの皆様に浅野史郎の「生」の声を届けたいと思っております。  お近くにご紹介いただければ幸いです。  相互リンクも随時募集中です。お気軽にこちらまでメール下さい。  mmz@asanoshiro.org  リンクページはこちら  http://www.asanoshiro.org/link/index.htm ____________________________________________________________________ > [編集後記] <  本当にあっという間に並木が茂ってきました。今週末は、仙台で「青葉ま つり」です。新緑で覆われた杜の都に「すずめ踊り」の威勢の良い声が響く ことでしょう。  それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)  皆さんのご意見、ご感想をお待ちしております。      メールアドレス mmz@asanoshiro.org ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 浅野史郎メールマガジン http://www.asanoshiro.org/ 発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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