宮城県知事浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

浅野史郎メールマガジン バックナンバー

浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2003/11/4
http://www.asanoshiro.org/                  第113号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「当事者インパワーメント」(浅野史郎)

 [読者のみなさんから]
  ○メルマガ読者、みなさまからのご感想などを掲載しております。

 [お知らせ]
  ○浅野史郎知事への「10年目のメッセージ」、募集しております!
  ○メルマガ登録者、相互リンク募集中です。

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> [週刊コラム・走りながら考えた] <

 ○「当事者インパワーメント」(浅野史郎)

 当事者インパワーメントというだけでは、何のことかわからない。「当事
者」とは、障害を持った本人のこと、「インパワーメント」は普通の英和辞
典で引いても出てこないから、英語圏においても比較的新しい言い回しなの
だろうが、「内部の力を引き出すこと」とでも訳すのだろうか。つまりは、
障害を持った本人が、自分で決めて行動していくことと私は理解している。

 単に「障害者」と言わずに、わざわざ「本人」と表現しているのは、この
世界において、本人が主役でいたことがなかったからである。障害福祉の方
向は、行政が決める。障害福祉の施策についても、本人はあくまでも施策の
対象であって、実践者ではない。もっと言えば、障害福祉は恩恵であって権
利ではない。そういったことに対する、本人側、つまり当事者からの問題提
起がなされている。これが当事者インパワーメントである。

 16年前、私は厚生省児童家庭局障害福祉課長を務めていた。知的障害者
(当時は「精神薄弱者」と呼ばれていた)は入所型施設(当時は「収容施設」
と呼ばれていた)にいるのが幸せであるというのが、障害福祉の世界では当
然といった状況であった。それはおかしい。一度しかない人生である。地域
という海で海水浴をするためにみんな生まれてきたのであって、それは知的
障害を持った人たちも同じこと。泳ぎの得意でない彼等のために、海に浮き
袋や小舟を浮かべ、たくさんの監視員を配置すれば、海水浴を楽しむことは
できるはず。海から遠く離れたところにある海の家だっていらなくなる。そ
んなことを考えて、グループホームの施策を打ち出したりしていたのを思い
出す。

 「障害者の人権問題懇談会」を立ち上げ、いろいろな立場の人から、問題
提起をしてもらった。一度だけ、知的障害者本人に来てもらってお話を聞い
たことがある。そのこと自体が、一つの「事件」といったような意味を持っ
た。しかし、時代は変わったのである。身体障害者だけでなく、知的障害者、
精神障害者本人が外に向って堂々と発言をし、審議会や検討会の委員になり、
障害者団体の役員に名を連ねることが珍しくなくなっている。

 「もう施設には戻らない」(福岡寿編・中央法規)というそのものズバリ
のタイトルの本が、昨年出版された。私も読んだが、何人かの知的障害者本
人が書いたものとして、大きな注目を集めた。当事者に尋ねれば、施設に入
りたくないし、施設から抜け出したいし、いったん地域に出れば二度と施設
には戻りたくないのである。「刑務所のほうが、刑期が決まっているだけま
だいい」と施設での生活を形容した当事者がいる。

 これまでは、当事者ではなく、その保護者に尋ねていた。障害福祉の世界
では、行政は、施設やサービス提供側、つまり、供給者を通じての「間接統
治」を常としてきた。当事者に対して、「あなたはどこに住みたいか、どう
いう生活を送りたいのか」という質問を発してこなかった。昨年の11月23日、
宮城県福祉事業団が発した「船形コロニー解体宣言」は、この質問への供給
者側からの答である。(2002.12.10・メルマガ第66号、「船形コロニー解体
宣言」参照) http://www.asanoshiro.org/mm/021210.htm

 当事者インパワーメントは、身体障害者の世界では、随分前から実践はさ
れていた。私が厚生省年金局で課長補佐をやっていた昭和58年ごろ、全身
性障害者の所得保障の充実を求めて、多くの障害者が車椅子に乗って厚生省
に押しかけてきていた。その運動の中から、障害基礎年金が生まれるのであ
るが、あの場面が私にとっては、当事者インパワーメントの実体験であった。

 当事者たちの理路整然たる論理構成、ごまかしを許さない交渉術、組織を
まとめる統率力、いずれをとっても、私にとっては目を見開かされる経験で
あった。その後、北海道庁で福祉課長を務めた時に出会った、小山内美智子
さんのパワーは、まさに当事者インパワーメントの権化のようなものであっ
た。

 こういった一部の人たちによって切り開かれた当事者インパワーメントが、
今や、多くの障害者の間にも広がりつつある。というよりも、自分たちこそ
が障害福祉の改革の推進者になろう、そして、日常的にも、障害福祉のサー
ビスの提供者になろうという運動として展開されつつある。

 障害福祉が恩恵から権利へと進みつつある。次のステップが、当事者が主
体で事業を担っていこうという、当事者インパワーメントであると、私は理
解している。そして期待している。十年一日の如しという感がないでもない
障害福祉の世界も、静かに、着実に変わりつつある。

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> [読者のみなさんから] < 

 ○メルマガ読者、みなさまからのご感想などを掲載しております。

 当メルマガには、皆さんからたくさんのご感想をいただいております。そ
の皆さんの声の一部を、今後この場で紹介してまいります。


 <磯崎様から・年金問題について>

 大変深刻な問題だと思います。私自身30数年の自営業者で、OL時代も含
め年金を収めていますが、あまりの苦しさに収められない時期もありました。
現在もまだ半年遅れくらいですが、徐々に追いついてきています。

 故意に納めない人の気持ちは良く分かりませんが、収めたくとも収められ
ない人の立場はよく理解できます。収入の多い時は「たった一万何がしくら
い」と思いますが、経済的に苦しくなると・・・。

 若い人たちとよく話す機会がありますが、皆一様に「どうせ自分たちの時
代には受けられないのだから」と期待していないようです。「そんなことは
ない」と出来るだけの説明はしてみるものの、あまり説得力はなさそうです。


 <倉島様から・視聴率操作問題について>

 この度の日テレ視聴率操作は、ご指摘の通り数字一辺倒の慣習が起こすべ
くして起こしたものと言えよう。

 常々民間放送の「バカ番組」を苦々しく感じていた者から見れば、番組制
作に不信感を増幅させただけではあるが、世間の反響が高い事件には洪水の
如く集中し、チャンネルを選ばず将に「同時多発報道」で、しかも何時まで
も繰り返しの愚をさらけ出すしか能が無いのかと言いたい。

 世論調査?でも「理想の男女」「理想の上司」に留まらず、「次の総理」
などのアンケートで上位を占めるのは常に露出度の高い連中に集中する、虚
像と実像の区別も出来無い庶民が、政治への投票もこの程度のレベルでは何
とも情けない。

 昔「魚屋で野菜を求める」この程度の国民はこの程度の政府しか持てない
と言った政治家が居たが、相変わらずの低意識ではこの先が思いやられるば
かりである。


※
 今回は、お二人の感想を掲載いたしました。お気軽にご感想などをお送り
いただければ幸いです。
(掲載する場合は、事前にこちらから連絡いたしますので、ご安心下さい)

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> [お知らせ] <

 ○浅野史郎知事への「10年目のメッセージ」、募集しております!

 この11月、浅野史郎知事が就任10周年を迎えます。10周年目への想いをお
寄せ下さい。これまでの10年間のこと、これからの期待することなど何でも
結構です。皆様のメッセージ、心よりお待ちしています。

 メールアドレス yumenet@asanoshiro.org
 FAX 022-279-5779
 (11月13日締め切りといたします)

 なお、皆様のメッセージは11月17日に開催される10周年を祝う会の会場に
掲示いたします。


 ○メルマガ登録者、相互リンク募集中です。

 多くの皆様に浅野史郎の「生」の声を届けたいと思っております。
 お近くにご紹介いただければ幸いです。

 相互リンクも随時募集中です。お気軽にこちらまでメール下さい。
 mmz@asanoshiro.org
 リンクページはこちら
 http://www.asanoshiro.org/link/index.htm

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> [編集後記] <

 10月21日発行のメルマガ第111号「公的年金制度の行方」で紹介されている
山口新一郎・元厚生省年金局長についての記事が、2003.10.27号の「日経ビ
ジネス」の158ページに「『年金の神様』、没後の空白―官の呪縛解いた男の
正論が政治も世論も動かした」というタイトルで掲載されています。

 そのバックナンバーはこちらです。
 http://www.asanoshiro.org/mm/031021.htm

 浅野知事のコメントも載っています。最新号ではありませんので、入手困
難かもしれませんが、ご興味のある方はお読み下さい。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

                        皆さんのご意見、ご感想をお待ちしております。
                            メールアドレス mmz@asanoshiro.org

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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