宮城県知事浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

浅野史郎メールマガジン バックナンバー

浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2004/2/24
http://www.asanoshiro.org/                  第129号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「みやぎ知的障害者施設解体宣言」(浅野史郎)

 [読者のみなさんから]
  ○メルマガ読者、みなさまからのご感想などを掲載しております。
   (今週はお休みです)

 [お知らせ]
  ○メルマガ登録者募集中です。

____________________________________________________________________
> [週刊コラム・走りながら考えた] <

 ○「みやぎ知的障害者施設解体宣言」(浅野史郎)

 以下は、2004年2月21日に、「アメニティ・フォーラムINしが」
で、私が宣言した「解体宣言」の全文である。「解体」という言葉にインパ
クトはあるが、中身を読んでいただければ、当たり前のことを述べているこ
とがおわかりいただけるだろう。これを行政の方針として言語化し、公表す
ることに大きな意味がある。

            ・・・・・・・・・・・・

 宮城県内にある知的障害者の入所施設を解体して、知的障害者が地域の中
で生活できるための条件を整備することを宮城県の障害者施策の方向とする
ことを、ここに宣言する。

 宮城県福祉事業団は、平成14年11月23日、船形コロニーを2010
年までに解体し、入所者全員を地域生活に移行させるという、「施設解体み
やぎ宣言」を発した。宣言を発するに至った背景としては、知的障害者本人
の希望と関わりなく、施設入所を当然のこととしてきたのではないかという
疑問があった。施設運営に関わる職員としては、自分たちの仕事の意義に対
する、真剣な反省である。

 この疑問、反省は、船形コロニーだけにあてはまるものではない。船形コ
ロニーは知的障害者の中でも、特に重度の障害を持つ人たちを処遇する場と
して特別に設置されたものであるから、地域生活への移行を言うならば、県
内の入所施設の中では、順番としては一番最後になってもおかしくない位置
付けである。にもかかわらず、施設解体宣言を発したということの重みを、
十分に考える必要がある。

 知的障害を持った人たちの幸福を実現することこそが、障害福祉の仕事の
目的であるという原点に戻って考えたい。地域の中にこそ普通の生活がある。
適切な支援措置さえあれば、重度の障害を持った人たちであっても地域での
生活を送ることができること、そして、それが知的障害者の生活を豊かなも
のにすることは、これまでの多くの実践の中で実証されている。

 船形コロニーの解体宣言から1年余経った今こそ、宮城県全体として、船
形コロニー解体宣言の普遍化をなすべき時である。つまり、知的障害者の入
所施設を解体し、入所者の地域生活への移行を図ることを、宮城県全体の障
害福祉の方向として、明確に示す必要がある。それが、今、このような宣言
を発する理由である。

 宣言の背景には、これまでの障害福祉施策への真剣な反省がある。知的障
害者への各種の施策が量的にも、質的にも貧しかった頃、知的障害者施策の
中心は、施設入所であった。「親亡き後」の知的障害者の生活をどうやって
保証し、年老いていく親に安心感を与えるかが大きな関心事であったとも言
える。施設入所は、こういった環境の下で、頼りになる施策に思えたのは、
ある意味で当然である。

 入所施設での処遇に比べれば、地域生活支援施策は、歴史的にも浅いもの
であり、目に見えるインパクトとしても施設のように目立たない。一握りの
先進的な取組みとして存在し、特に、親達から見えないし、見えたとしても
頼りにならないものと認識されていた時代が長く続いている。一方において、
入所施設は、多くの職員と関係者を抱える確固たる存在として、永久に存続
するものとして受け止められている。「解体」という発想は、普通は出てく
るものではない。

 そういった状況の中で、知的障害者本人の幸せとは何かが真剣に問われる
ことがないままに、障害福祉の仕事は成り立っていた。「あなたは、どこに
住みたいのか」、「あなたは、誰と暮らしたいのか」、「そもそも、あなた
は、何をしたいのか」という問い自体が発せられないまま、入所施設に入っ
ているのが一番幸せと、外部から決めつけられる存在としての知的障害者と
いう図式である。障害福祉の仕事は、知的障害者の幸せを最大にすることを
目的とするという見地からは、障害者に対して、まず、この問いが発せられ
なければならない。そして、その答を模索することが求められる。

 知的に障害を持っていることによって、特別なニーズが生じる。特別な
ニーズがあったとしても、知的障害者が普通の生活を送ることを断念する理
由にはならない。障害福祉の仕事は、その特別なニーズにどう応えていくか
ということである。普通の生活は施設の中にはない。地域にしかない。であ
るとすれば、地域の中で、知的障害ゆえに発生する特別なニーズに応えてい
くことこそが、障害福祉の仕事である。グループホームがある。日常生活の
援助がある。金銭管理、人権擁護、就労の確保などなど、やるべきことはた
くさんある。

 宮城県での知的障害者への福祉が目指すべきは、この方向である。「施設
解体」を宣言しても、解体することに目的があるのではない。あくまでも、
知的障害を持った人たちが、普通の生活を送れるような条件整備をすること
に主眼がある。そのような条件整備がなされれば、入所施設は不要になる、
つまり解体できるということになる。宮城県の障害福祉のありようとして、
こういった方向に進んでいくことを少しでも早めるように各種施策を準備す
るという宣言でもある。

 宮城県内の知的障害者の入所施設を、即刻解体すべしと言おうとしている
のではない。時間はかかっても、目指すべきは施設解体、まずは、それが可
能になるための、地域生活支援の施策の充実である。県内のそれぞれの入所
施設において、このことを念頭に置いて仕事をするのと、全く考えずに日々
を過ごすのとでは、大きな違いが出てくる。それぞれの施設において、解体
が可能になるまでにやるべきことは何か、何が障害になるのか、障害をなく
すための方策、こういったことを現場の職員を交えて真剣に討議し、行動す
ることが求められる。

 繰り返して言う。障害福祉の目的は、障害者が普通の生活を送れるように
することである。そのために、今、それぞれの立場で何をなすべきか。たど
り着くべき島影をしっかりと視野に入れて、船の進むべき方向は間違わない
ように荒波を乗り越えつつ進んでいかなければならない。たとえ時間はか
かっても、必ず目指す島に到達することはできると信じている。同じ船に一
緒に乗り込んで欲しい。

____________________________________________________________________
> [読者のみなさんから] < 

 ○メルマガ読者、みなさまからのご感想などを掲載しております。

 今週はお休みです。みなさんのご感想をお待ちしております。


 ※お寄せいただくご意見は、当方の判断で掲載させていただく場合がありま
 す。基本的には削除、変更なしといたします。掲載不可のご意見の場合は、
 投稿の際にその旨明記していただくと助かります。また、ペンネームでの
 掲載をご希望の方もその旨を明記いただきますよう、お願いいたします。

 ご感想・ご意見は mmz@asanoshiro.org まで

____________________________________________________________________
> [お知らせ] <

 ○メルマガ登録者募集中です。

 多くの皆様に浅野史郎の「生」の声を届けたいと思っております。
 お近くにご紹介いただければ幸いです。

 登録ページはこちらです。
 http://www.asanoshiro.org/news/mmz.htm

____________________________________________________________________
> [編集後記] <

 本日(25日)は、国公立大学の前期入試日です。大学受験の方、そして、そ
のご家族の方にとっては、最大の山場を迎える日です。

 私が受験してから、もう7年が経とうとしています。ついこの前まで学生
のつもりだったのですが、本日付で26歳となりました。大人と見られる年齢
でもあり、世間的には「青二才」に見られる年齢でもあり・・・。

 受験生のみなさん、まずは今日を乗り切って下さい。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

                        皆さんのご意見、ご感想をお待ちしております。
                            メールアドレス mmz@asanoshiro.org

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
浅野史郎メールマガジン http://www.asanoshiro.org/
発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org