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浅野史郎メールマガジン バックナンバー

浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2004/3/23
http://www.asanoshiro.org/                  第133号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「出版差し止めとプライバシー保護」(浅野史郎)

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 ○「出版差し止めとプライバシー保護」(浅野史郎)

 田中真紀子前外相の長女の私生活に関する記事を掲載した「週刊文春」
(3.25号)が出版差し止めの仮処分命令を受けた問題で、東京地裁は3
月19日、文芸春秋側の異議を退け、仮処分命令を維持する決定を出した。
理由としては、「長女の私事が公共の利害に関する事でないことは明らか。
プライバシーは、他人に広く知られるという形で侵害されてしまった後では
困難である」ことを挙げている。

 この決定においては、記事の内容が公共目的にあたるかどうかが一つの基
準と考えられている。そして、「著名な政治家の家系に生まれても、政治と
無縁の一生を終わる者もおり、長女の私事は公共の利害に関する事項ではな
い」と指摘している。今回の決定については、表現の自由の制限という意味
で、批判的に見る意見も多い。そういった意見が紹介されるのは、新聞や雑
誌という媒体である。メディア側としての立場は、表現の自由を守ることに
関して、格別の関心と利害を持っているわけで、紹介される批判的意見につ
いては若干割り引いて考える必要はあろうとは思う。それにしても、賛否両
論ではある。

 今回の差し止めの是非といった、法律的な問題は、どちらが正しいかの判
断はなかなかむずかしい。私として関心があるのは、こういった記事そのも
のの良し悪しのほうである。今回のケースは、前外相の長女の私生活上のこ
とが記事の中身である。なぜこれが「スクープ」として報じられなければな
らないのか、理解に苦しむ。記事の内容としても、田中真紀子前外相の政治
的資質とは全く関係がない。つまり、公共の利害という点では、報道すべき
価値があるとは考えられない。

 「スクープ」というのは、前外相の娘であるからこそであって、ふつうの
女性であれば誰も関心を持つような「事件」ではない。そして、普通の女性
に起きたことであれば、他人に広く知られたくない事実である。つまり、プ
ライバシーそのものということになる。

 私に関しても、他人事ではないという思いである。宮城県知事という公職
にある者としては、プライバシーについても、ある程度は犠牲にしなければ
ならない面はある。例えば、毎年の資産公開だって、あまり人目にさらした
くはない部分ではある。しかし、法律上の要請ではあるし、公人としては公
開することは仕方がないと割り切っている

 そうではあっても、家族のことで知られたくないようなことまで公開する
ことは期待はされていないし、報道されることも勘弁願いたい。そういう意
味では、今回の「事件」は、出版禁止措置の是非は別としても、報道そのも
のについては、大いに疑問ありと見るべきものではないかと受け止めている。

 出版界や放送メディアも、今回のことについては、深刻に受け止めている
ように見受けられる。出版差し止めなどという強権手段に訴えられたことは、
出版社側からすれば確かに心外であろうし、闘いたくなる気持ちもわからな
いではない。それと同時に、報道姿勢について、自ら省みる部分はないのか
どうか、訊いてみたいとは思う。

 テレビのワイドショーにしても、「そこまでやるか」とげっそりしてしま
うような報道ぶりが少なくない。プライバシーの侵害とまではいかなくとも、
弱いものいじめ、言葉の暴力、集団リンチのような報道がないかどうか。有
名人であっても、いったん批判にされされると、その瞬間からは弱者である。
弱者になってしまった有名人を、これでもかこれでもかといたぶる姿勢は、
心から拍手を送る気持ちにはなれない。

 正しいことを報道する、報道によって読者に考えるヒントを与えるという
のが、メディアの使命であると考える立場からは、顔をしかめてしまう報道
が目に付いてしまう。読者や視聴者におもねっているというのだろうか。見
ている者の溜飲を下げさせることを報道目的としているのではないかという
事例が多過ぎる。

 やや論点がずれてしまったかもしれない。プライバシー侵害は、出版、放
送といったメディアによってだけでなく、インターネットの時代においては、
各種の掲示板、2チャンネルといった媒体でも起こっている。匿名をいいこ
とに、書きたい放題、言ったもの勝ちといった事態が放置されているのでは
ないか。法律によって規制するというよりも、一人ひとりのモラルの問題と
は思うのだが、なんとかしなければならない時代がやってきそうな予感がす
る。

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 <山田さまから>

 今年は都合でアメニティーフォーラムに出かけられず、何となく勃然とし
た日を送っていました。その前日となる20日に、「宮城県内の入所施設解
体宣言」を再び目にして、ニンマリとしています。

 1月のセミナーでも僅かな時間でしたが西駒郷の動きをお伝えする機会を
得ました。地域生活への移行は、何人退所していったかという相対評価では
なく、そのプロセスに関わる様々な人たちに、価値観の揺れと、人間性の回
帰を呼び起こすのではないかと思っています。

 本人の「私も生きている」「長かった」「何とかして出たい」・・という
言葉。

 支援者は、毎日大集団となった人たちの暮らしを維持していくことに精一
杯で、1人1人の眼差しを正面から受け止めらず、麻痺させることで乗り越
えてきた。

 「支援をしている実感がない」「何もしてこなかった」「あきらめてき
た」、に対して、初めて施設職員になって感じた素朴な疑問・正義感を呼び
戻し、喪失感を払拭させるダイナミズムが「地域生活支援」には明確にあり、
封印させてきた職業倫理を沸き立たせ、福祉を職業とするプロ意識を自覚さ
せていくのではないかと思っています。

 西駒郷で地域生活移行に関わってきて、予測が付かないことが実に多くあ
ります。不謹慎ですが、手応えを感じると共に面白いなと実感しています。
経験者として長野県に採用されましたが、この予測外の出来事でも、未知の
内容ではなく概ねこれまでの経験した範囲内です。ほぐせば全て紐解けるも
のです。

 全国どこでも、根っこの深さ、つまり、障害者への差別が頭をもたげます。
寝た子を起こさないように迂回路を探し、避けながら地域生活を実現してい
こうにも、すぐにメッキが剥がれるでしょう。正攻法で、正義を振りかざし
ても、その付けは障害のある人たちに降りかかるとすると、ついつい浪花節・
情念の世界に傾注してしまい勝ち。

 堂々と、地域が持つ力・えにしをフル稼働させて、受け止め包み込んでし
まう地域生活支援へと繋げたい思いです。

 地域生活支援は、魑魅魍魎とした世界ですから、いつの間にか、迷路に分
け入ってしまいます。進路が間違っていないという確信が必要ですから、羅
針盤役として、「施設解体宣言」はとても良い指針でした。



 本日は、お一人の感想を掲載いたしました。ご意見、ありがとうございま
した。

※お寄せいただくご意見は、当方の判断で掲載させていただく場合がありま
 す。基本的には削除、変更なしといたします。掲載不可のご意見の場合は、
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> [編集後記] <

 インターネット絡みのプライバシー保護については、まだまだ問題があり
ます。先日も大量の個人情報が流出したとの報道があったばかりです。

 手続きの簡便化と、個人情報の機密性を天秤にかけるべきなのかどうか。
天秤にかけるとしても、個人情報の保護をもっと真剣に取り組むべきだと
思います。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

                        皆さんのご意見、ご感想をお待ちしております。
                            メールアドレス mmz@asanoshiro.org

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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