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浅野史郎メールマガジン バックナンバー

浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2004/8/3
http://www.asanoshiro.org/                  第152号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「熊谷達也氏の直木賞受賞」(浅野史郎)

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> [週刊コラム・走りながら考えた] <

 ○「熊谷達也氏の直木賞受賞」(浅野史郎)

  熊谷達也氏が第131回直木賞を受賞したことは、大変めでたいニュー
スであった。地元仙台市出身というのがめでたいということもあるが、仙台
市在住というのが、なんともうれしい。46歳。私より10歳若い。前途洋
洋。肩に力の入らない好漢である。

 原稿はパソコンで書いて、パソコンで送ればいい。なにも東京に住むこと
はない。ならば、昔から住んでいて、友人も多くて、住みやすい仙台で執筆
するのに越したことはない。前回のメルマガで書いたように、炎熱地獄の東
京は、夏には人の住むところではなくなっているのだから。そんな当たり前
のことが、なかなかできずに、東京へ東京へという風潮がある中では、熊谷
さんの仙台在住がとても貴重に思えてくる。

 だからということでもないのだが、宮城県として熊谷さんを特別表彰する
こととした。先日、7月23日(金)に熊谷さんに知事室においでいただい
て、表彰状を差し上げた。その時が初対面。直前に受賞作「邂逅の森」を感
動のうちに読み終えたばかりということもあり、素晴らしい才能との出会い
に興奮した。

 個人的な感慨で書いてしまうのだが、熊谷達也氏は久々に出現した力量豊
かな書き手である。話の面白さにぐいぐい引きこまれていくところに、ス
トーリー・テラーとしての類い稀な才能を感じる。受賞作は、熊やカモシカ
を森に追うマタギの世界を対象としているので、自然描写がポイントである。
それが、実に細やかで真に迫る。話の構成がしっかりしているところには、
頭の良さを感じたので、お会いした時に「あなたは、実に頭がいいですね」
と思わず洩らしてしまった。ほめ方としては、あまりセンスのいいものでは
ないが、それが実感なのだから仕方がない。

 マタギ、熊との闘い、豊かで厳しい自然という題材なので、受賞作は男ら
しさそのもののようにも読める。しかし、この作品が輝いて見えるのは、女
性心理をどうしてこうも上手に書けるのだろうかと、驚くほどの男と女の絡
み合いがあるからである。熊谷さんに、「これは恋愛小説ですね」と感想を
言ったら、「そう読んでもらえばうれしい」というお答えであった。

 前作の「相剋の森」もいい。受賞作の「邂逅の森」が大正から昭和初期が
舞台であるのに対し、こちらは現代モノである。実は、主人公の曽祖父が
「邂逅の森」では主人公になっている。自然保護を気軽に言って欲しくない。
自然との共生などという甘っちょろいことを言うな。自然の中で相剋する、
対立する存在としての、人間と野生動物。だから、マタギが熊を殺すときは、
自然に感謝しながら、熊に畏敬の念を抱きながらということになる。熊谷氏
はそんな思いを作品にぶつけている。そのことが、作品としての深みを与え
ているし、作者の明確なメッセージがこめられていることを感じる。

 昨年、ベルリンでのIWC(国際捕鯨委員会)総会に参加した(2003.
6.24第94号「IWC(国際捕鯨委員会)参照」)時に感じた、鯨保護派の
「先進諸国」への違和感の大本を、「相剋の森」を読んで探し当てたような
気がした。単に読んで面白い小説という以上のものを作品に感じるのは、自
然保護という論点に関して、熊谷さんには確かな視点があるからであろう。
それが、「漂泊の牙」(新田次郎文学賞受賞)から、「相剋の森」、「邂逅
の森」と書き連ねる中で、だんだん深まっていっていることも感じられる。

 読者の立場からの個人的な視点に終始してしまったが、熊谷さんのような
才能あふれる書き手には、是非に仙台に止まっていただいて、仙台在住でな
ければ書けないような作品を書き続けていただきたい。そのことも、表彰の
機会に私から申し上げさせていただいた。作品の中に、仙台に住んでいる読
者なら、ここだ、あそこだと指摘できる実在の場所やお店が出てくるのも、
楽しいものである。もちろん、そんな次元のことだけではない。仙台、宮城、
東北に根ざした、重厚な作品を期待しているということである。

 熊谷さんは、知事室での表彰状授与式にも、いつものジーンズにラフな
シャツ姿で現れた。それでいい。それがいい。書くのは朝から夕方までで、
そのあとは仲間とお酒を飲んでいるとのこと。それもいい。実にいい。願わ
くば、その仲間の一人に私を入れて欲しい。地元で執筆するということは、
そういうことでもある。そのスタイルを崩さずに、書き続けてもらいたい。
心からそう願っている。

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 <PN “dongry”さまから:“異常気象と東京の住みにくさ”について>

 アメリカは大企業の本社がニューヨークに固まっているということはあり
ません。確かにウォール街があり、金融はニューヨークですが、コカコーラ
はジョージア州、スターバックスはワシントン州、その他マイクロソフト、
ウォルマート、GMなど、みなが知っている大手でも本社は全米各州に散ら
ばっています。

 日本ではそのようなことはありません。全国区企業はほとんどが東京に集
中しているのが現状です。東京都に本社を置く上場企業数は約1,700社ありま
すが東北6県では58社、宮城県では28社しかありません。

 また、地方で上場している企業はその地方を主な営業基盤としている建設
業者や小売業などが多く、地方発全国区企業というのは非常に数少ない(例
えばジャストシステムや雪国まいたけなど少数です)。

 これは確かに、政治・経済上の中心地が明らかに東京であり東京に拠点を
作らないことで得られない人脈や情報がたくさんあると考えられていること
が一因としてあげられると思います。

 しかし本社まで移す必要はあるのかどうか。本社を移す理由は、その土地
で得られる人材よりも東京で獲得する人材の方が良質であると考えていたり
するからではないでしょうか。その土地で付き合っている金融機関(=銀行)
よりも東京で付き合う金融機関(=銀行・証券会社・生保・損保・外資系)
の方がたいてい情報を広範に持っており融資残高の積み増しや幹事証券とし
てのポジションを与えるがために結局地方のメリットが薄れてしまうからで
はないでしょうか。そしてその地方から得られる収益力よりも東京で得られ
る収益力の方がはるかに大きく、地方のメリットが薄れているからではない
でしょうか。

 地方でもうけた利益を東京が吸取っている構図です。

 上記の理由で移転する会社は多いと思いますが、これらは逆にいえば東京
のせいばかりではないのではないでしょうか。地方にもできることはあるは
ずです。

 例えば、産学連携で技術開発を進めたりベンチャーに対する助成金などを
手厚くしたりしていますが、モノ・カネだけでは企業は動かせません。ヒト
をもっと呼びこむことが大切です。

 営業、財務、上場準備、その他様々な職種において、東京はやはり人材が
豊富と言わざるを得ません。そこで、そうした人材をもっと地方に呼び込み、
Iターンで来てくれる人材に対して優遇措置を自治体が取ることでもっと人
材流動化が進むのではないでしょうか。そうして人材が流入し企業活動が活
発化する、こうしたことは政府に頼らなくても自治体のやり方一つで可能で
あると思います。



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> [編集後記] <

 仙台は日中こそ熱いですが、夜になれば一気に涼しくなります。夕方、風
が吹き抜けると、秋を感じる時さえあります。

 しかし、日中はやはり暑い。昨年は冷害でお米は不作ですが、今年はこの
調子でいけば大豊作ですね。おいしいお米を食べられる贅沢。これも東北の
魅力でしょう。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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