浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2005/3/1
http://www.asanoshiro.org/ 第182号
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> ＜＜目次＞＞ <
[週刊コラム・走りながら考えた]
○ニッポン放送株式争奪戦（浅野史郎）
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> [週刊コラム・走りながら考えた] <
○ニッポン放送株式争奪戦（浅野史郎）
こういうタイトルが適当なのかどうか、よくわからない。しかし、新聞・
テレビのニュースだけでなく、ワイドショー、週刊誌などのメディアで派手
に取り上げられるときには、「争奪戦」という感じで報道されているから、
これでいいのだろう。まさに、この点、つまり、ふだんは株式関係に関心
のない人たちの興味を惹きつけていることが、今回の「争奪戦」の一つの特
徴ではある。それがいいことなのか、そうでないかは別としても。
ことの経過、問題点などは、報道で詳しくなされているので、ここでは触
れないでおく。私なりの論点を、この際、あげてみることが、自分自身に
とっての問題の整理、考えるヒントになる。ライブドアの堀江貴文社長とは、
昨年後半のプロ野球新規参入問題の際に、何度かお会いして、その飾らない
人柄と前向き志向に大いに魅力を感じていたので、ことさらに関心が高くな
る。そして、心情的には応援したくなる。
報道されている事実から見ると、しかし、堀江社長側の問題点も指摘せざ
るを得ない。市場開始前の時間外取引きで大量のニッポン放送株を取得した
ことに関して、「違法性があるのではないか」という指摘を含め、批判が出
されている。堀江社長は、「ルール違反ではない、適法な行為である」と主
張しているが、この点がひっかかる。
「適法である」というのと、「適当である」とは違う。私から見ると、一
言、「こういうことで、よろしくお願いしたい」というご挨拶をしておくべ
きであったのではないかと思える。事前では、ことが成就しなかったという
なら、株式取得後すみやかにでもいい。「おたくの株を取得して、こういう
ふうにしていこうと考えている。だから、よろしくね」とニッポン放送に対
して礼を尽くして言うことができなかったのだろうか。法律上のルールでは
なく、礼儀の問題であろう。企業活動とはいえ、礼儀という「大人社会の
ルール」は存在するのだし、そういった礼儀があれば、摩擦は最小限に抑え
られるのではないだろうか。
もう一点は、多くの識者が指摘していることではあるが、ライブドア社が
放送業界に進出する大義名分がはっきりしないという点である。ライブドア
社はニッポン放送の株式を大量取得したが、ニッポン放送が大口株主となっ
ているフジテレビの支配が目的であるとされている。したがって、今回の争
奪戦の主たる対象は、ニッポン放送というより、フジ・サンケイグループと
いう言論機関であるという点を押さえておかなくてはならない。
さまざまな業態の中で、放送業界は特別という言い方がされている。その
点は、多くの人がうなずくことであろう。具体的に、どういうところが特別
なのかということに関しては、論者によってニュアンス以上の差異はあるが、
言論を扱う仕事であるという点に特別扱いの根拠を求める点では、おおむね
一致している。
放送のコンテンツをどういう手段で伝えるかといった通信手段の問題だよ
というのが、ライブドア社の主張だと受け取られている。その際の「コンテ
ンツ（内容）」であるが、エンタテインメント（娯楽）系を念頭に置くのか、
「言論の自由」に関わる報道系のものを主眼とするのかで、見方が大きく
違ってくる。ライブドア社は、ニュースも人気投票に応じたスタイルで伝え
ようとしているので、報道でさえエンタテインメント性を前面に押し出して
いる。一方、守る側のフジテレビ側、そして放送界全体も、「報道は神聖に
して侵すべからず」とまでは言わないまでも、外資を含め外からの干渉には
神経をとがらすべきものであるとの姿勢を崩さない。
私から見ても、ライブドア社の大義名分が、今一つ明確でないように映る。
放送業界のＭ＆Ａ（企業の合併・買収）は、他の業態のＭ＆Ａとは違ってし
かるべきではないのか。ライブドア社のフジサンケイグループへの関心を、
一時代前に、ソニーがハリウッドのコンテンツを求めてコロンビア映画を買
収したのと同じように考えることはできない。そこのところが、今回のライ
ブドア社によるニッポン放送株争奪戦のポイントであるように思える。
日本青年会議所（ＪＣ）が会員に対して、２月２５日、緊急アンケートと
取ったというニュースを見た。結果は、５６%対１７%でライブドア社支持が
フジテレビ支持を上回った。若者の間の人気では、ライブドア社有利、堀江
社長がんばれである。数ヶ月前の、楽天対ライブドアを思い出す。しかし、
ことはプロ野球の新規参入問題ほど簡単ではない。企業買収のあり方、株主
保護、放送業界の特殊性、かなり深刻な問題であり、簡単に白黒つけられる
ものではない。「頭の固い既存の企業家に負けるな、若者代表堀江さんがん
ばれ」といった感情が前面に出た対応でいいのかどうか。どうも、その点の
あやうさも感じざるを得ない。
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> ［編集後記］ <
私の会社も近く株式会社化します。今回の騒動で「資本政策（本来の意味
ではありませんが）」を強く意識しました。とても勉強になっています。
それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 （一馬）
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発行：浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬 |
