浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

SIGHT VOL.8 SUMMER 2001
特集《日本の政治の流れは本当にかわったのか?》 から 
司会=渋谷陽一

浅野史郎×田中秀征
―官僚出身の知事が有権者の実績票を勝ちとるまで

官僚出身であるがゆえに

――今回は秀征さんのほうから「ぜひ知事と」というリクエストがあっての対談なんですが、まず今回知事に来ていただいた理由を秀征さんのほうからお話していただければと思うんですけれども……。

田中秀征  「知事は都道府県にひとりずついますし、今は注目されている知事も何人かいるんだけど、僕はその中でも浅野さんと北川(正恭・三重県知事)さんっていうのはね、最も注目してるんですよ。というのも、浅野さんと北川さんの場合には、実績によって信頼を得てきてるから。仕事師ですよね。そういう意味でやっぱり他の注目されてる知事とちょっと違うかなあと、そういう感じがするんだけどね」

――浅野さんにとっては秀征さんというのはどんな存在なんですか。著書の中でも秀征さんの名前をよくお出しになっていますが。

浅野史郎  「というよりね、アンケートで訊かれて、『尊敬する政治家=田中秀征さん』って」

田中  「そんなこと、聞いたことないよ(笑)」

――ははははは。

浅野  「ほんとですよ(笑)。まだ田中康夫さんが出る前でしたけど、こういう人を選挙で落とす長野県民っていうのはなんなんだっていうふうに言ったことあるんですよ(笑)」

田中  「でもまあ、僕が議席を失った理由っていうのは今からすれば明らかになってるわけだよね。あのときは田中康夫さんが壊した体制がもっとも強靱なときだったから。で、僕はその流れに対して『オリンピック簡素にやれ』って、ある意味で水をかけてる唯一の人間だったわけで(笑)。それはそれで覚悟してたですよ。今は、結局そういうものを頼りにしていって長野県はバラ色になると思っていたら、そうじゃなかったっていう現実が出たけどね」

浅野  「ただね、やっぱり時代の状況が違ったとはいえですよ、あのときに田中秀征さんを落とした長野県民とそれから四年後に田中康夫さんを圧倒的に選んだ長野県民とは同じなんですね、これ。それが僕はちょっと怖い気はするんですよね。同じ県民がちょっとした時代の違いでですね、こんなふうに変わってしまうというのが。それは長野県民だけについて言えることじゃないんでしょうけど」

――浅野さんのときも前知事(本間俊太郎)のゼネコン汚職による逮捕という、時代の流れがあったわけですよね。

浅野  「『何で俺こんなとこに座っていられるんだろうか?』って考えたときに、前の知事のスキャンダルっていうのがあって。八年前の一回目の選挙が終わった直後には『あれは浅野でなくても誰でも勝てた』って言われたんだけど、でも確かにそうだったんです。図式で勝てたわけですよ。浅野史郎じゃなくても山田太郎でもね。候補者として、そこそこの知的水準とですね、そこそこの常識があれば多分勝ってたでしょう。だけどね、そのときにじゃあ選挙に出られましたかというのがあって。それはわたしの一つの自負になってるんですけれども……」

田中  「あのねえ、浅野さんは官僚の出身(旧厚生省)だけど、彼のプラス面っていうのはね、やっぱり官僚としての悪さが身につく前だっていうことがひとつあるよね。それからもうひとつは、官僚であったことのよさとして、仕事をすることが第一義であるっていうとこがあるんですよ。いわゆる議員政治家がなったり、それから知名度の高い人たちがなったりした場合にはやっぱり仕事が第二義になりがちなんですよね。ところが、あなたは仕事を着実にやっていくっていうことが身についてるんだよ。恐らく意識してないですよ。だから具体的に政策決定に参画して具体的に政策を実施していくっていうようなことがまず一義としてあるんだよね。だから、パフォーマンス過剰にならない。それがやっぱり知事として選ばれ続ける一番の理由だっていうふうに思うよね」

浅野  「ただ、官僚であったことの弱みもあるんです。それはなにかっていうと、センス・オブ・ワンダー(驚きを感じる力)の鈍さっていうやつなんですね。つまり宮城県庁っていうところに入ってきたでしょ、で、あんまり違和感感じなかったわけですよ」

田中  「ああ、なるほど」 浅野「本当にちょっとしたことですよ。例えば、『慎重に検討します』とかっていうのは『あっ、これはやらないってことなんだな』とかね(笑)、それはもう説明されなくてもわかるわけです。それは、ある意味では便利だったりもするわけですけどね。役人がどんなこと考えてるか、もっと言えばどうやって上司を丸め込もうとするかっていうのもわかるわけです。自分がやってきたことですから」

田中  「カラクリがわかるわけだ」

浅野  「これはいい面なんです。だけど、それだと驚きがないんですね。『ええっ!?』ってのけぞらない。本当はやっぱりのけぞるべき部分もあるわけですよ。だから、一年目が大事で、例えば予算編成の仕方がおかしいと思っても、ふっと見過ごしてしまうと、二年目は同じ指摘しにくいですよ。だって自分がやっちゃったんだから(笑)。だから、最初の出会いが勝負であることがかなりあるんですよ。そこで、やっぱり官僚の世界から官僚の世界に入っていったようなもんだから、弱みと強みというのは両方あると思うんですね」

――逆に言えば、センス・オブ・ワンダーの塊が田中康夫さんですよね(笑)。

田中  「要するにカルチャー・ショックだよね(笑)。ダムの視察に行くときにトックリの黒いセーターかなんか着て、こんなブローチつけてたりするでしょ? 長野県のリンゴ作ってるおばさんたちはビックリしちゃうよ。ビックリしちゃうけど、考えてみればやっぱりそういうね、カルチャー・ショックが改革には伴うと思うんだよ。風俗が変わらなきゃね、なにも変わってないんだよ、逆に言うと。だからそういう意味ではね、康夫さんのしてることは当たり前のことなんだね」

浅野  「このあいだ、テレビで脱ダム宣言に至る経緯を長い期間追いかけた番組を見てて、まあ同僚としてですね、いろんな感慨を持ったんですけども、彼をすごく高く評価したんです。
  まずなによりも羨ましいなあって思ったのは、マスコミにあれだけ露出できるっていう絶対の資質ですよ。まさにそのあいだ独占して自分の言いたいことを言えるわけです。これはねえ、四十七都道府県の知事、誰でもできることじゃないです。
  例えば自分の身に置きかえて言うと、県議会やなんかでも、マスコミに出過ぎるって言われるわけです。で、わたしはそのときの答弁で、さっきの官僚出身っていうのを逆手に使って『みなさんひょっとしてお忘れかもしれませんけど、わたしは官僚出身で、官僚っていうのはですね、目立たないように匿名性に逃げてわけのわからないことを密室に籠もってやると言われている。わたしは官僚から知事になって、それはやっぱり駄目だと、それのアンチでいこうと、目立つように、ちゃんと自分の考えを言うっていうふうに自分に督励して今やってきてるんです。まだまだ足らないと思います』と言ったんですけど、まあわたし自身としては実際もっとマスコミに出るべきだと思ってるんですよ」

田中  「いや、足らないと思うね。僕はもっと出てもいいと思う」

浅野  「うん、だから、わたしはそれはもう決して妥協できない。そういう意味で、田中康夫さんはいいなと、羨ましいなと。このあいだ、わたし一月始めに痔の手術したんですよ。で、これまたこぼれ話みたいなものだけど、それは地元紙に全部発表したわけですよ。まあ、そんなとこまで情報公開するのかって」

田中  「はははは」

浅野  「そうじゃなくて、おわかりのようにですね、六日間入院しましたからね、突然雲隠れっていうのはできませんので、だから発表したと。しかも病名を言わないと『絶対あいつは癌だ』って言われるに決まってるんでね(笑)。『痔の手術です』とこう言ったわけですよ。そしたらまあ、地元紙には載ったんですよね。だけど、田中康夫さんは二カ月ぐらい前に足に腫れ物ができたっていうのがあったでしょ、あれはなんと全国紙に出たわけですよ。だからいろんなところで冗談で言ってんだけど、なんで俺の痔は地元紙止まりで、田中康夫さんのあれは全国紙なんだと。まあ、それはともかく(笑)、羨ましいなと。
 それとね、彼をわたしが高く評価したのは、やっぱり言語能力の高さですよ。自分の言いたいことを表現力豊かにわかりやすく、新しい切り口で言うでしょ。脱ダム宣言っていうのは、誤解を生むっていう意味では、わたしは本当はやり過ぎだと思うんです。『脱ダム宣言』って言ったら、普通ダム全部やめちゃえということなんだって思っちゃうでしょ。だけど、それぐらいの切り口っていうのがやっぱり必要な場合があるんですよ。あとで注釈をつければいいだけの話ですから。そういうセンスですよね。
  そして、わたしがなによりも感心したのは各論があるんです、彼には。『この何々ダムはこうこうこうでこれはこうだ』とか『ここは道路さえ作ればそれで済む』とか、そういう各論をちゃんと論じられて、しかし総論ができてるという、わたしは配偶者と一緒に見てたんですけど、『ああ、わかりやすいね』という部分と各論の説得力と両方あるんです。だから、あらためて言語能力っていうのは非常に重要だと」

田中  「あのねえ、僕は“しなやかな県政”っていう言葉が好きだね。旧陣営はあれにものすごい反発してるんだけど(笑)、僕なんか、ああいいなあと思うわけね。あれはカルチャー・ショックだね。旧陣営はそれでもう『どういう意味だ? なんだ?』って感じなんだけどさ(笑)」

 

首相・小泉純一郎を考える

――だから、「時代の流れ」というお話もありましたが、そういう意味で知事っていうのは行政の長であると同時に、すごく表に立っていかなければならない存在なわけですよね。石原(慎太郎)さん、田中康夫さん、最近だと堂本(暁子)さんが話題になったのもそれで。で、そういうような先駆的な役割を浅野知事は果たされてきたと思うんですが、御自身の皮膚感覚としてはどうなんですかね。

浅野  あれは不思議な現象だと思うんですよね。わたしは宮城県知事ですから、まあ、わたしの影響力ってのは直接的には他の県には全く及ばないんで、宮城県以外の人にとっては宮城県で県政がどう行われてるかっていうのは直接的にはまったく関係ないはずなんだけど、でもかなり注目をされてるっていうか、期待をされてる。それがこう、おもしろいなって。それはやはり国の政治が上手く回らないっていうときに一つのアンチテーゼみたいなものとして別の形があっていい、そして、それは虚像かも期待かもしれないけども、なんにも期待が持てなかったように思っていた国政に少し逃げ場を与えたと。
 だけど、今度小泉(純一郎)内閣が出てですね、その部分っていうのがちょっと消えたわけですね、なんとなくあった国政における閉塞感みたいなものが一時的かもしれないけどボンと消えて、多分このあいだね、知事が忘れられると思いますよ(笑)。
  まあこれはまた揺り戻しがくるかもしれませんけど。わたしはちょっと一年後わかんないと思うんですよ。十年後は誰にもわかんないけど一年後でもこれ『いやあ、そういえば小泉内閣あったよなあ』っていうか(笑)、『ああ、なんであんなにフィーバーしたんだろう?』っていうことになるかならないかっていうのをちょっと秀征さんに訊いてみたいですけどね」

田中  「やっぱり総理でも議員でも知事でも同じなんだけど、期待票っていうのと実績票っていうのは違うよね。
  例えば、浅野さんの場合はすごく特別な状況で、ある意味、反対側を潰したいということで出てきたんだけど、二期目からはもうちゃんと実績票になってるんだよね。そこが彼の本当にすごいところなんだけど。
  その意味で言えばやっぱり小泉さんは期待票ですよ。どういう期待かと言ったら、小泉さんがなにかやってくれるっていうことよりも、既成の秩序っていうのをぶち壊してくれるんじゃないかという期待だよね、ほとんど。だから、こういう大きな転換をすること自体がね、いわゆる政治の世界の人間にとって仕事なんだね。細川(護煕)さんだって、あのときに自民党の一党支配を終わらせたのが仕事だったっておそらく思ってるだろうしね。
  だけどそうじゃないんだね。そこからなにか具体的なものを積み重ねて、実績積み重ねていかないかぎりはやっぱりその次の支持者っていうのは納得しないんだよ。支持者ももう階段登ってるんだから。俺がひっくり返した、だけじゃ通らないんだよ。支持者は『ところで、ここまできたけどなにやるんだ?』っていう目で見てるんだから(笑)。それに浅野さんは答えてきたわけですよ」

浅野  「今の小泉さんに対する非常に高い支持率とか、今の期待感っていうのは、やっぱり一般国民から見てあまりにも(森政権が)酷過ぎるということだったと思うんですよ。あまりに酷過ぎると。だからわたしはね、小泉さんが長く続くかとか、小泉さんの個人的な資質とかそれよりも、この流れっていうのは、今までの流れが本当に壊されてできた新しいものなんだろうかという、そこが気になるんですよ。もし小泉さんがコケるかなにかしたときにまた揺り戻しがきて、下手すると、なにをやるかっていうことでは、やっぱり前のほうがそこそこよかったじゃないか、というふうになってしまうというのが不安ですね」

田中  「一九五八年、僕は高校三年生だったんだけど、そのときにアルジェリア独立戦争っていうのがあって。アルジェリアがフランスから独立しちゃうのを抑えられるのは(シャルル・)ド・ゴールだけだというので、右翼や軍部まで含めてみんなで拍手して村に籠もっているド・ゴールを呼び戻したっていうのがあったんだけど。ところがなった途端にアルジェリアを独立させちゃうんだよね、あのド・ゴールは(笑)。
  そのくらいの支持基盤の調整をね、僕は小泉さんにやってもらいたいと思う。やっぱりね、ひとつひとつのことをやっていくと必ず敵ができるから、それをきちっと説明して公開して、具体的なことをやってもらいたいというふうに思うし。それはね、まさに浅野さんから学んでもらいたいと僕は思ってるんだよ(笑)」

――本当にそう思いますね。でも、今の小泉さんを見ていると、ド・ゴールじゃないですけど、支持基盤を塗り替えるくらいの大胆さを感じたりもしますけどね。

田中  「あのね、僕がおつきあいの中から見て小泉さんが非常に特殊だと思ってるのは、普通政治家の行動っていうのは憎しみとか嫉妬心が動機の場合が多いんだけど、憎しみとか嫉妬心をね、ほとんど持たない人なんだよ(笑)。それに名誉欲とか権力欲とか、そういうのもほとんどないと言っていい。だから人の批判を激励と受け取っちゃうような人なの(笑)」

一同「ははははは」

田中  「『ああ、いいこと言ってくれる、ありがたい』と。だから、党内から個人的な悪口なんてないでしょ。そういうの言われてもケロケロしてるんですよ。その意味で逆に言うと、あの人はもう相当のことをやっちゃうよね。本当に生爪を剥ぐようなことする人だよね。やるって言ったことはマヤカシをしないで必ずやる人だから、あの人は。例えば、どんどん追い詰められていって絶対解散がないって言っても翌朝やっちゃうような人だよ。そういう不連続な行動をできるっていう。だから、土壇場の土壇場までね、期待はできるんだよね。問題はなにをするかっていうことですよ。この人は料理屋で喋ることと街頭演説同じだもん(笑)。だからそういう意味で、こういう極端な人が塗り替えていくと思うよ」

――そこに田中眞紀子っていうターボがついたりしたら、どこに走っていくか逆にわかんないですね。

田中  「うん、だから僕が一番心配してるのはさっき浅野さんの言った揺り戻しでね。八〇パーセントの支持率だろうが、やっぱり民意というものは一瞬にしてなくなるからね。眞紀子さんも、だからあの、米国務副長官との会談のドタキャンとかね、小渕(恵三)さんのこと御陀仏さんなんて言ったでしょ、ああいうつまらないところで足引っ張られないように気をつけていかなかったら怖いですよね」

 

「砂の選挙」の時代

――だから、ほんとに浅野さんというのは小泉さんの立場での成功例ですよね。要するに前の体制がよくないって、みんなうんざりしてたわけじゃないですか。そこで官僚的なスキルと、それとやっぱり政治家的な決意を活用して、二期目で実績票の大勝利を収めたという。しかも、そこでネットワークを作りますよね。志をある程度同じくする県知事の方と連合体を作って国と戦おうっていう、あれはすごいおもしろいなあと思って。

浅野  「あれはすごくわたしの精神衛生上もいいんです(笑)。やっぱり『俺だけじゃないんだな、跳ね上がっているのは』というか。北川さんが言ったことだけど、『我々はみんな炭坑に入っていくときのカナリヤだ』って。最初の犠牲者というね。この件は俺がカナリヤになる、あの件は浅野がなれっていうふうな形でね。それで上手くいったら、みんなであとついてってね、失敗だったらやめるとかですね(笑)、まあ半分冗談ですけど。でも、そういう仲間がいるっていうのは、すっごく心強いですね」

田中  「梶山(静六)さんがね、倒れる直前に、とにかく『知事連合でしか日本は変わらない』って言ってたね」

――はあ〜。

田中  「どこで聞いてきたのか、『秀征さん、浅野さんと親しいって人に聞いたけど紹介してくれ』って、とにかく志のある知事が出てきて連帯する以外に日本は変わらないって。そういうことを彼はずうっと言ってたねえ、最後」

――浅野さんどうなんですか? この六者連合(「地域から変わる日本」推進会議)は今後どんどんユニークな知事が増えていくにつれて増えたりしないんですか。

田中  「みんなユニークだからさ、まとまりも大変だね(笑)」

浅野  「(笑)。いやいや、実は今八人になったんですけどねえ。別にそんなにまとまってスクラム組んでっていうわけではないんですよ。ただ心の拠り所というか、それぞれに意識しながら、やっぱり手柄合戦はしてるんです。手柄合戦っていうと、ちょっと言い過ぎだけど、つまりそれぞれの地域、宮城から発信していくもの、岐阜から発信していくもの、三重から発信していくものっていうのはやっぱりなにか出していこうと。だから分権の議論をするときに制度面において財源、権限を地方に持ってこいっていう議論も一方でしながら、それだけじゃなくて、地方独自でこんなこともできるんだよっていうことをアピールしていくってことが非常に大事だなと。もっと権限や財源があったら、もっといいことができるじゃないかっていうことを見せていかないといかんので。だから、結構みんなね、そういう意味で目立ちたがりで。ある意味ではそれぞれの得意分野を血眼になって探してるっていう」

田中 「だから、最近の知事の流れで言っても、例えば堂本さんと石原さん比べると思想・信条は全然違うよね、正反対と言っていい。だけど支持してるのは同じ流れだよ。要するに既成の勢力じゃないっていう意味で同じ。これは浅野さんでも田中康夫知事でもみんな同じなんだけども、要するに一般の人たちも既成のそういう統治構造みたいなのを壊してもらいたいっていう願いで、そういう意味で共通したもので見てるから。だから、それが共通項に見えればね、それでもういいんだよ。そこで強い連携を示さなくたってそれぞれが奔放にやっててくれれば、それで僕はもう相当、意味があると思う」

浅野  「こういうのありなんだっていうことなんですよね。決して長野が栃木が千葉と連携したわけじゃなくて、だからそれはやっぱりこういうのありなんだっていうところで県民まで巻き込んで伝わってったってことなんで。やっぱり知事連合というのはそういう意味もあって、連合として刀持って攻め込んでいくっていうんじゃなくて、こういうのありなんだっていうことの志と目指す方向が、気がついてみたらなんかずいぶん広まってたっていうことなんじゃないですかね」

田中  「もうこの流れは止めがたいね。中央政府が、自治省が音頭取って、全部収まるっていう話じゃないよ。もうその時代終わり。で、それをねえ、住民のほうが先に気づいちゃってるんだよ。長野県民っていうのはそうだよ。だってあの公共事業依存の典型的な県ですよ。それが、その依存を捨てた人間が九〇パーセント超えちゃったんですから(笑)。これは康夫さんの県政が上手くいく上手くいかないにかかわらず、ひとつの一般的な潮流になっちゃってるんで」

浅野  「だから、わたしが前から言ってるパイプ議員、つまり国との太いパイプでここに補助金なりを流し込んできて、この地域を豊かにする、わたしはそのパイプ役だと。『パイプが誰が一番太いか見てご覧、俺だろ?』っていうことが選挙における最大のアピールというふうに思ってる人がいるんだけど、今度の参院選にしても、この行動様式が変わるかどうかですよね」

田中  「そこは問題だね。僕はね、つい先日小泉さんが都議会議員の候補と一緒に写真撮ってたっていうニュースが伝わって、翌朝テレビで言ってやったの。おかしいと、自民党変える政治変えるっつってるのにね、今までの知事、今までの市長、今までの議員を押し続けるっつったら、なにも変わらないじゃないかと。これは本当にそうだからね。それだったら小泉さんが期待に応えられるっていうことにはならないよね。だって一般の人たちが望んでるのはあくまでも変化であって、田中康夫に期待した流れと堂本さん・石原さんに期待した流れと小泉さんに期待した流れは同じなんだから」

浅野  「その期待っていうのがひとつ形に表われてるのが選挙なんですけれども、選挙をこういうふうに考えると、ものすごくわかりやすい。レンガ型選挙と砂型選挙。わかりますよね?
  つまり今までの政党は、与党も野党も、企業とか労働組合とか、そういう支持団体をレンガのように固めてって、そしてそれを積み重ねて、これで票だと、そういうのが選挙だと思って疑わなかったんですね。つまり、レンガ職人から見れば、砂はどんどんこぼれていくでしょうと、こんなもので選挙勝てるわけないって考えられてたんです。
  ところが、今言ったような知事選挙では、その砂がちゃんと形になって、そして、レンガはレンガだと思ったら全然これ固まってなくてですね、グジュグジュになってたと。世の中変わるっていうときは、いろんな変わり方があるけどひとつに選挙の変わりようっていうのはすごく大きいんですね。自民党の総裁選でもレンガ積み上げ型っていうのが反発を受けたわけですから、自分がやれる選挙方法があくまでレンガ重ねるしかないと知ったら、背中に冷や汗流れるんじゃないかなあと思うんですけど」

田中  「今のレンガと砂の話は非常によくわかるんだけど、でも、ちょっと錯覚しがちなのは、今の話聞いてて思うんだけど、砂をね、風が運んでくる場合があるんだよね。だからそれに乗っかってると錯覚しちゃう。そういうところは堂本さんにも気をつけてもらいたいね。康夫さんの場合でも同じだよね。だからそういうところはこれからの課題だね、この砂を風でまた他へ運ばれていかないように」

浅野  「うんうん、そうですね」

田中  「浅野さんの場合は風で運ばれていかなかったよね。突風で砂が溜まったわけだけど、とにかくそれがきちっと動かないで、その後もいるっていう。そこがすごいところなんだよ。自分で積み上げた砂じゃないからね。運ばれてきた砂っていうね、時代の風が運んできたっていう」

浅野  「だから、レンガの比喩で言いたかったのは、投票者として、こっちがなにげなしに使っている『この団体固めた』『この地域固めた』という、その“固めた”っていうのをですね、受け身形にしてご覧なさいと。『わたしは固められた』というので、ハッピーな人はいないわけで。そして、実際固められないんですね。
  よく笑い話のように言ってるけど、僕は前の選挙のときに人妻に泣かれたんですよ。演説が終わったら、知らない人が『浅野さん、わたし初めて夫を裏切りました』って言うんですよ。聞いてみれば、夫は実は建設業で誰々さんに入れることが決まってて、当然妻もと思われてたんだけど『わたしは浅野さんでいく』って。初めて夫に逆らったって。
  “固められた”っていうことは人間の自尊心の問題もあって。今までは多分損得が自尊心に勝っていたような部分もあったけど、よく言われる右肩上がりでなくなって、餌も与えられなくなれば、これはもう風化しちゃうでしょ。だからね、“固めた”っていう表現をなんとも思わない精神構造の中でやってるレンガ選挙の危うさっていうのがやっぱり如実に出てきてますよね」

――だから本当に国政レベルの選挙よりも、それこそ有権者のエモーションがダイレクトに出るそういう地方自治の選挙のほうが本当に先にいっていきますよね。それは東京という都市部だけではなくて宮城にしろ長野にしろ、そういう変化ってより一層時代を先取りしてあるんだなあっていうのをすごく感じますね。

浅野  「でも若干危ない。やっぱり支援者には愉快犯的な心理がある人もいると思うんですよ。愉快犯っていうのは、やっぱり無責任を絵に描いたようなもんだから、なにかことが起きればいいと。で『やったやった』っていうのだと、それはまたそれこそ風の吹きようによってどうなるかわからないわけで。今はいい意味に回ってると思うんですけど、そんな気もちょっぴりしますよね」

――なるほどね。そのへん秀征さんどうお考えですかね。

田中  「それはやっぱり本気かどうかだよね。本気で支持できるかどうかっていうことについては、うんと厳しいっていうふうに思うよ。宮城だって、知事選では浅野さんに入れた人が同時に国政レベルでは三塚(博)さんに入れてるっていう、矛盾が起こっているわけで。だから、次の参院選も小泉さんに入れてる人がまた逆に自民党に入れないっていうことも十分考えられるんだよね。だから小泉さんが高い支持を示してるから参議院選挙必ず勝つという話でもないし、そのへんがやっぱり有権者の判断っていうのは非常に冷静だし厳しい。マスとしての有権者というのはね、やっぱりすごく賢明な判断しますよね。ひとりひとりに事情を訊いてみると大した事情じゃないかもしれないけども、全体の結果として出てくるものは非常に賢明な判断ですよね。で、その賢明な判断っていうものがどういう判断になるかということは、ひとえにその人の本気さにかかってると思うよね」


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