朝日新聞 2001年6月22日号
追跡 小泉改革 期待と不安
「改革派」知事3氏に聞く(下) から
聞き手 政治部・立松 朗
経済部・西山公隆
「道路」あえて問題提起
官僚抑えて分権推進を
道路特定財源の見直し
使い道を限定した税源を特定財源と呼び、ガソリン税や自動車取得税などは、国や地方自治体の道路整備に充てられている。01年度予算で総額は約5兆8000億円。小泉政権は、使い道を環境対策に広げたり、一般財源に振り替えたりすることを検討している。道路予算が減ることを警戒する道路族議員や地方自治体から反発が出ている。
―道路特定財源の見直しに反対しています。 既得権益にしがみついているようで、ふだんの言動にそぐわない気がします。
都市部の人からも批判のメールがたくさん来た。守旧派だとか、地方のエゴだとか。
「失望した。あなたは橋本派と同じですか」というのもあった。どれも本当に、真っ当な意見ばかり。だけど、知事は政治家であり、評論家じゃない。天下国家の前に、県をよくすることを考えている。
―道路が欲しい、ということですか。
宮城県で言えば(県東部を縦貫する)三陸自動車道は必要だ。だから特定財源を「もういいかい」と聞かれれば、「まあだだよ」と言っている。道路にしか使えない今の特定財源制度は、予算の硬直化を招いており、いずれは改めなければならない。だから
「まだ」と言っており、「永久に」とは言ってない。
―今だから、異議があるということですか。
そう。道路特定財源の見直しは、5年後なら極めて正しい、真っ当な問題提起だ。
―道路ではかみつきましたが、実は小泉改革に期待しているように聞こえます。
小泉さんなりに問題提起しよう、解決しようと思っているのはわかる。 今後、小泉改革の中身が見えてくれば、エールを送る可能性はある。たまたま道路という地方にとっては切実な、琴線に触れる問題が出たので、知事として売られたケンカは買わないといけないと思って反論した。あえて論議を呼ぽうと思って、「困るよ」と言い切る覚悟を決めたんだ。地方のエゴを出して、わざと都市対地方の構図をつくってね。
―論議のための問題提起だ、と。
われわれは「予算をよこせ」とばかり言っているわけではない。必要な事業はやるし、そうでないものはやらない。本当に必要なものが何かは、利用する側が決めるべきなのだ。たとえば県に判断を任せてくれれば、三陸自動車道はやるけれど、ほ場整備や港湾は後
回しにしよう、といった対応ができる。
―これまでも主張されてきた意見ですよね。 小泉首相になったことで、そう変わると思いますか。
小泉さんには問題意識があるから、できるでしょう。だって、小渕恵三さんも森喜朗さんも、手をつけようとしなかったんだ。土俵に上がってもいない。だから、勝てるわけがない。いわば官僚の「不戦勝」だった。だが、小泉さんは土俵に上がった。帰すうはわからないが、大きな違いだ。
―地方分権には官僚の抵抗が強そうです。
自分の経験から言っても、官僚の仕事は「補助金配分業」。財務省から予算をぶんどり、書類を審査して執行し、決算する。これを1年中やっている。補助金や権限を持っていると、相手がひれ伏すから、ハツピーだしね。だけど、今回の地方分権推進委員会の最終報告を見てよ。「国から地方への税源移譲」と明記してある。これまでもまともな論議はあったのに、最後の最後で官僚に骨抜きにされてきたんだ。今度は、そうならなかった。これから変わっていく兆しではないかな。