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都道府県展望 2001年9月 NO.516号
知事随想から


「食材王国みやぎ」を目指して

 宮城県は、海の幸・山の幸に恵まれた土地として知られています。ササニシキ、ひとめぼれで親しまれているお米は通好みの味。サンマ、まぐろが大量に上がる港を持ち、牡蠣、海苔、ホタテの養殖も盛んです。変わったところでは、海のパイナップルの異名を持つホヤ、本場中国に輸出までしているフカヒレ、こういった食材も宮城県が主産地です。

 特別な調理をしないでも、そのままでおいしい食材が多いので、宮城県独特の料理法が発達しなかったという指摘もあります。材料にあまり手をかけないで食するということ自体が、宮城らしいと私などは誇りに思うのですが、それだけ食材には恵まれているということです。

 新しい食文化として、回転寿司、牛タン、冷やし中華、炉端焼きは、仙台が発祥地と言われています。いずれも、高級料理というよりは庶民的なものですが、今や全国に普及しています。牛タンなどは、食料不足の時代の、文字どおり「苦肉の策」なのですが、仙台の名物料理になってしまいました。

 食材ということでは、これほどの恵まれた環境にある宮城県として、これを産業振興に生かしていきたい、これが「食材王国みやぎ」の発想の原点です。ただし、宮城県の県産品を売り込んでいこうというのとは、「一味」違います。県産品売り込みなら、どこでもやっています。それだけでは、産業振興に結びつきません。

 「食と言えばみやぎ」という評価を確立したいということです。食品加工は、宮城県の産業分野の中核になっていますが、零細の業者が多いのが実態です。ここで、もう一つ高い次元に飛躍しなければならないのですが、そのための産業集積を図るためには、食ということで注目を集める地域になる必要があります。

 食品関係の会社が集まれば、情報も人材も集まってくる。仙台市という大消費地を抱える地域ですので、ビジネスチャンスと捉える企業はさらに増えていくだろう。そういった流れを作っていきたい。その前提として、「食と言えばみやぎ」というイメージの確立が必要なのです。

 まずは、各種イベントの開催。今年は、「食の甲子園」と称して、日本酒に合う料理のコンテストを11月に実施します。高校球児が甲子園を目指すように、料理の世界で一流を望む人達が宮城県を目指すようにという願いを名前に託しました。

 ITを使って、食材の生産者と需要者を直接リアルタイムで結びつけることも考えています。これと宅配システムをつなげれば、一人暮し高齢者など、食事サービスが必要な人達への供給システムが確立できます。こういった、食材に関する新しい試みも「食材王国みやぎ」の目玉商品にできないか思案中です。

 産業振興だけでなく、文化としての食についても考えをめぐらしています。スローフード運動とか、「地産地消」とかの名称で全国的にも動きは出ていますが、宮城県としても、地元でできる食材と伝統的な調理法を復活させて、食文化を見直す運動を進めたいと考えています。十一月の第一日曜日に、県内の宮崎町で開催される「食の文化祭」がまさに、そういった運動の実践として定着しています。

 「地元でできる食材と伝統的な調理法」といっても、じゃがいもだって、昔の料理に使われていた品種はなくなってしまい、調理法自体成り立たなくなっている例もあります。食文化を残すということは、実は、大量出荷、大量消費を前提とした農業とは違った形の農業を残すということにも通じることになります。

 食文化というのは、食べ方にも関わります。家族と一緒にゆっくりと食べる。たまには、地域の人達と一緒にワイワイ騒ぎながら食べる。高齢者だけの家族、過疎化が進んだ地域では、こういった食べ方さえ成り立たなくなっています。地域としてのまとまりを取り戻さなければなりません。宮城県で食文化を考えるということは、宮城県の地域のあり方を考えるということにもつながるのです。

 「食材王国みやぎ」とは大げさだと言われてしまうかもしれませんが、食を基点にした産業振興、文化振興をぜひ図りたいという思いを言葉にしたものです。「食と言えばみやぎ」ということを、今後ともどんどん売り込むつもりですので、どうか「食傷気味」とか言わずに、おつきあいのほどお願いいたします。


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