コンセンサス・コミュニティVol.9 2002年3月号から 「おまかせ民主主義」から 「ほんものの民主主義へ」
◆情報公開の第一段階は 宮城県の県政情報センターは仙台市の中心部に位置する県庁の地下一階にある。面積約370平方メートル。3万7千部を越える書類が並んでいる。1999年7月、宮城県は審議会や委員会、外郭団体の情報をも公開すべく情報公開条例の全面改定に踏み切った。一見図書館かと見紛う情報センターには全国自治体や国の特殊法人からの視察が絶えない。全国市民オンブズマン連絡会議における各都道府県、政令指定都市情報公開ランキング3年連続・4回目の第1位。「輝かしい、と褒めてくださる方も多いのですが、少なくとも宮城県において情報公開はキレイ事ではない」と浅野知事は冷静に言葉を選ぶ。 「情報公開には2つの段階がある、と私は考えています。まず、第一段階は”隠し事をしない”行政にとって都合の悪い情報も隠さずに開示する。それは行政の恥部を明らかにすることでもあります。平成5年度の食料費を使った会合の中に、実際は開催されていないもの、内容が書類と違うものなど極めてみっともない事実をつきつけられた上で、”逃げたい、隠したい、ごまかしたい”というところから”逃げられない、隠せない、ごまかせない”という切実な認識が生まれ、はじめて今のスローガンである”逃げない、隠さない、ごまかさない”というところに到達しました。現在も不適正支出の約7億4千万円を、課長補佐以上の管理職約750人が、月々6千7百円から1万7千円程度給料天引きで返還していますので、文字どおり汗と涙とお金を流し、段階をクリアしたといえます。こうしたスキャンダルは膿のようなもので、放っておけば身体全体を蝕んでしまう。できるだけ早く切開して出してしまったほうがいいのですが、それが自分ではなかなかできない。メスの役目を果たしたのが情報公開です。」 ◆パブリック・インボルブメントが 浅野知事は情報公開の第二段階は「パブリック・インボルブメント、県民を県政の中に巻き込むこと」だと語る。県を父親に、県民を息子にたとえ、息子が「小遣いを上げてくれ!」と要求するときに、頭ごなしに「そんな金はない、わがままを言うな!」というのが情報公開のない状態。財布の中身をさらけ出して、「これしか無いのだから、一緒にどうしたらいいか考えてくれ」というのがこの第二段階だと明瞭に説明する。 「恥ずかしながら宮城県の財政状況は、危機宣言を発しなければならないほど悪化しています。何が原因なのか、財政再建のためにはどうすればいいのか、我々がどんな施策を行なおうとしているのか、県民に判りやすく示すために、私は昨年10月、県知事選挙のわずか3日前に”財政再建推進プログラム”を発表しました。100万円以上の事業500項目以上が廃止、または縮小項目として列挙されています。選挙を目前にした現職知事にとっては必ずしもプラスにはならないこうした情報を公開したのも、財政危機に対応して、何をすべきかという全体像を的確に示し、県民の理解を得たいとの思いからです。」 結果、見事に三期目の当選を果たしたのだが、「それでも、県民の全てがそれを評価したわけではない」と知事の分析は極めてクールだ。「まだまだ県政に対する本当の意味での感心が少ないというのが正直なところです。ただ、情報公開が県政への感心を呼び戻すこともあると思う。宮城県では新しい方向として、県の実施する事業に要する費用を公表することにしました。例えば、道路を建設する現場には通常、工事概要の看板が立てられますが、その中に建設に必要な経費、工事単価などを書き込む。県の発行する印刷物に、一部あたりの単価を書き込む。イベントの開催にあたっては、その開催経費をお知らせする。こういった実情の開示によって、県民に県の実施する事業についてのコストに関心を持ってもらえれば、県政への関心にもつながるのではないか。」県民の参画を促すためには、情報が正しく、解かり易く、正確に、しかもタイムリーに発信されなければならない、と浅野知事は繰り返し強調する。 「それが”おまかせ民主主義”から”ほんもの民主主義”への脱皮への基礎条件になります。情報公開度は民主主義のありようを正しく示すものさしのようなもの。」そう総括し、浅野知事はさらにこう付け加えた。「宮城県庁が自信を持って言えることは、今後も情報公開がさらに進んでいくと全員が信じ、職員一人一人が心から情報公開は進めるべきだと思っていることです。それは、知事の私が説いたからではない。皆が痛い思いをして、膿を出し、身体を楽にした実体験がそうさせている。」情報公開ランキング3年連続・4回目1位の原動力は、”キレイ事ではない”と言い切るそのリアリティにありそうである。
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