浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

東北自治68号 2002年4月

「地方分権型の職員像」

地方分権型の職員について語る前に、「なんのための地方分権か」をはっきりさせておきたい。

 「地方分権」は、下手をすると単なる「美しい言葉」になってしまう。「美しい言葉」とは、ひとまず「賛成」と言いおくべき種類のもので、続いて「なぜ賛成なのか」と問われると答に窮してしまうというということである。

 「あなたは地方分権に賛成か」と問われれば、、まずは「大賛成」と答えるだろう。続いての質問、「なぜ賛成か」に対して、あなたはどう答えるか。「世の中の流れだから、組織のトップがそう言うから」では答にならない。「自治体にとって仕事がやりやすくなるから」というのは答としてよさそうだが、本当にそれでいいのか。

 一般の国民は、もっと冷ややかかである。本音のところでは、権限と財源を巡っての国と地方との綱引きぐらいにしか思っていない。「知事とか市町村長が国に頭を下げたくないからだろう」と皮肉な見方をする人もいる。

 まずは、「なんのための地方分権か」を明確にする必要がある。地方分権は、国全体の利益にかなう。当然ながら、国民一般の利益にかなう。財政上のムダをなくし、納税者の意向を政治に反映させ、地方を活性化させることにより国全体を元気にするシステムであることを認識することが重要である。断じて、地方と国との権限・財源争いといった次元のものではない。

 自治体の事業を行なうのに、「金が足らなければ国から、県から引き出せばいい」といった声が住民から発せられる。こういった財政上の無責任体制は、補助金が国から流れてくるという、中央集権のシステムがもたらすものである。足し合わせれば、国全体としては壮大なるムダを築き上げていくことになる。

 公平性、均一性、平等性の強調は、中央集権的な発想から来る。横並びの思想と行動と言い換えてもいい。これでは、地域に元気は生まれない。誇りと自信にもつながらない。かけがえのないもの、オンリーワン、スペシャル、とっておき、こういった言葉に象徴される地域にしていくための仕事、これこそが分権型の職員が目指すべきものである。

 それぞれの行政分野で、特色のある施策を打ち出すことに喜びを見出してほしい。全国のモデルとなるような施策や仕事の仕方を、全国に向けて発信できたら、自治体として地域として自信と誇りにつながる。

 そういう施策を打ち出すためには、なんといっても、生きた情報が欠かせない。地域の中のどこに何がころがっているのか、どんな面白い人材がいるのか、住民の望むことはなんなのか。そういった情報である。職員が外に出る、現場を知る、問題意識を磨く、自分自身が人的ネットワークの中心になる。そういった仕事のしぶりが求められる。

 ベンチマークを意識することも大事である。他と比べて、自分の自治体はどの程度のことを達成しているのかを意識すること。そのためには、評価の基準となる「ベンチマーク」を知らなければならない。少しでも他より秀でること、他が手がけていないことを始めること、こういったことを目標にした仕事ぶりが必要である。

 例えば、わが宮城県は、全国市民オンブズマンの情報公開度ランキングによれば、三年連続全国一である。人口当たりNPOの認証団体数では、全国第六位。日本一の福祉先進県を目指しつつ、「全国で初めて」という福祉の施策をいくつか始めている。自慢話は決していやみでも、子どもっぽいものでもない。何度も言うが、地域の誇りと自信につながり、地域の活性化をもたらすことを忘れてはならない。

 自治体として特色のある仕事を心がけるときに、私はあえて、えこひいきをすることも恐れるなと言いたい。例えば、宮城県では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者にだけ適用する在宅サービスを実施している。「なんでALS患者だけなのか」という疑問と不満はあり得る。しかし、最も援護を必要としている人達であるという認識があるので進めている。公平性、平等性とは対極にある「えこひいき」かもしれないが、根拠のある「ひいき」である。そういったことを自信をもって行なうことによって、職員は鍛えられる。分権型の仕事の仕方とは、こういった、安易な公平性を排することと無縁ではない。

 中央集権型の仕事の一側面を、私は「補助金分配業」と揶揄している。そんなことをやっているほど暇なのか、国はBSEの水際作戦とか、薬害の防止とか、国でしかできないことにもっともっと人材と予算と精力を投入すべきである。

 補助金分配業の裏は、補助金収集業であるが、自治体だってそんな暇はあまりないはずである。配るべき予算がないと仕事はできないと思い込んでしまうのも、補助金分配業と補助金収集業にあまりにも深く、長く関わり過ぎているからだろう。仕事は予算がなくともできる。行政は、地域の中に風を起こす、雪だるまの芯になる、ネットワークの中心になる、仕事のコーディネート役を引き受ける、いろいろな言い方ができるが、いずれも、お金がなくとも仕事はちゃんとやれるのだということを表している。

 地方分権型の職員のあり方を論じているつもりが、少しばかり飛躍してしまったようである。いずれにしても、これからの自治体職員の仕事の仕方は、変わらなければならないということを言いたかった。その意味で、自治体の仕事は挑戦の契機に満ち溢れている。マネでない、横並びでない、前例踏襲でない、自分らしい仕事の仕方をみつけて欲しい。


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