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讀賣新聞 2002年11月4日
《全国知事リレー講座
》から

補助金廃止へ踏み出せ
中央にできぬ計画実践


 知事は宮城県という約2万人の組織の経営者ですが、一緒に仕事しようという時、職員が乗ってこない。できが悪いのではなく、中央集権的なシステムが問題です。

 地方分権とは、国が地方に権限と財源を移譲するということです。権限は地方分権推進一括法で移譲されましたが、もっと大きく動かされているのがお金です。地方は国から色々な補助金をもらっています。2千5百いくつの補助金項目があり、中央集権が進んでいるフランスと比べてもけた違いに多い。財政調整の仕組みを残して補助金を廃止し、地方税で自治体運営を目指すことを考えています。

 補助金行政の問題点は七つあります。一つは面倒くさい。自治体の申請も、チェックする省庁も大変です。2番目は個所付け。どの地域の事業に補助金を付けるかは省庁の担当部局が決めます。権限がありますから官官接待が起こりました。

 3番目は補助金はしょせん人の金ということで、「もらわなきゃ損」という無駄遣いを助長するシステムです。4番目は縦割り。幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省(の管轄)です。一緒に作りたいという町がありましたが難しいんです。5番目は基準です。補助金を出す方が基準を作り実態に合いません。

 6番目は一律のリスク。補助金とは違いますが、一律ということで心配しているのは教育です。4月からゆとり教育や週5日制が始まりましたが、全国一斉にやって20年後に失敗が分かったらどうするんですか。「国土の均衡ある発展」で日本全体が金太郎あめ的になり、地方都市の特色がなくなりました。公平、均衡、一律という概念でやってきた行政の結果です。

 7番目は職員に思考停止や指示待ち症候群の病気がはやること。補助金に沿った施策を作るだけで、仕事が成り立ってしまうからです。

 それでは突破口はどうするのか。一つは中央省庁では考えられないようなプロジェクトを地方で成功させることです。例えばエリート校を作ったり、幼稚園と保育所を一緒に建てたりすることをどんどん進めて成功例を作り、説得力を持って迫っていきたい。

 もう一つは、補助金廃止の実例を作ることです。義務教育費の国庫負担は年間3兆円です。所得税3兆円を県民税に振り替えれば、義務教育を自前でやっていけます。

 次に、情報公開の話をします。情報公開の意味は、情報を見せられた県民が一緒に考え、かかわり方に深みが出てくることです。情報の共有です。実は、これは第二段階の情報公開です。

 第一段階はスキャンダル。宮城県では食糧費の問題やカラ出張が明らかになりました。今は全国市民オンブズマン連絡会議の情報公開ランキングで3年連続1位で、「逃げない、隠さない、ごまかさない」が標語ですが、最初は「逃げよう、隠そう、ごまかそう」だったんです。

 何かあった時に、組織の人間は反射的に隠すんです。これは二次災害、もみ消しです。一次災害のもやもやした部分は「ごめん」で済むけど、意識的なもみ消しは済まない。第一段階をきちんとやらないと、第二段階はできません。

 NPOについても話しましょう。民主主義とは税金の使われ方に国民が関与することです。欧米では行政改革に乗り出すのは納税者。行政をスリムにやれば税金だって安く済むんじゃないかとの思いで見ています。宮城県で行政改革がうまくいっても税金が下がらないから、関心がもてないんです。

 NPOは生きた民主主義みたいなものです。国際交流や福祉や教育、環境など必ず公益に関することをやっており、県もやっていることです。行政への不満も自分たちの活動の中から出てきますから、重く見ざるを得ません。NPOを意識することで行政は鍛えられる。行政はライバルとしてのNPOが必要です。NPOにかかわる人が多ければ、地域も活性化します。

NPO法人

県環境生活部に今年度、「NPO活動推進室」が設けられた。来年度には、さらに活動を促進するための新たな支援策を打ち出すことにしている。

 10月21日現在、県内で認証されているNPO法人は135団体。また、県が独自に算定した人口10万人当たりのNPO法人数(9月末現在)では5.6団体で、全国12位となっている。

 活動内容の内訳は、最も多いのが福祉関係で58団体。次いでまちづくり関係の22団体、環境関係の12団体、スポーツ関係の10団体などが続く。所在地別では、仙台市内が79団体と圧倒的に多い。

 


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